マジで! キュートな女の子 1
おはようございます。
雛仲 まひるです。
いよいよ本作も最終章へ。
第5章 ウチの名前は久遠寺 美九音。マジで! キュートな女の子
お楽しみください。
ではどうぞ><
気持ちは逸る。しかし今の俺が鬼の巣に乗り込んでも皆の足で纏いになるだけ、なんってこたぁ分かり切ってんだって。
「知泰、助けて……」
「うばぉっ、美、美九音っ」
……って、夢かよ。
『知泰、助けて……』か。あいつがそんな事言うわけがねぇー事くらいは分かってる。
あいつならこんな時はきっとこう言うさ。
『あんたなにしに来たわけ? ウチを誰だと思ってんのっ! ウチの名前は久遠寺 美九音。 賢くておしとやかで、そんでもって超可愛い狐っ娘、超強い妖、九尾の狐なんだかんねっ! あんたの助けなんか要らないっつーの』
でもな俺は……、お前がなんと言おうとお前になんと言われようと、それでもこの手で助け出したいんだ。
狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子。
第五章 ウチの名前は久遠寺 美九音、マジで! キュートな女の子。
七霧の生家に来て四日が流れた。七霧初代の力は努力や鍛錬でどうにか出来る物じゃない事は、頭の悪い俺でも理解出来るさ。
今の俺に出来る事っていや、ガキの頃から望む望まざるに関わらず、毎日毎日やらされて来た武術くらいのもんだ。
ここに来てから大神や間崎から聞き出したんだが、浚われた美九音の事を知った未美や波音ちゃん、姫子先生等が相談して俺を戦いに巻き込まない様にと、この地に寄越す事にしたらしい。
間崎は俺に退魔の術と対処法、知識を教えるために、そしてまぁ……人間だからってことで同行して来た。
大神は俺がひとりで勝手に美九音を助けに行かないように監視と、仮にも九尾の狐である美九音と紛いなりにも七霧の血統である俺が離れた隙を狙って襲って来るであろう、妖からの護衛を兼ねて着いて来たんだそうだ。
大方、大神はまだ姫子先生等、未美との交流も浅く共闘させるには……、とでも姫子先生あたりが気を回したのだろう。
っつー事で俺っていやガキの頃以来、朝から晩まで体術の勘を取り戻すべく、また実戦に慣れ経験を積むべく間崎の式神と戦ってる。
漫画や小説の主人公みてぇーにホイホイ強く成れば苦労はしねぇーし、御都合でとんでも術とか簡単に修得出来たり、発現しちゃったりなんっつー都合のいい様にはいかない。
短い時間しかないけど、体が覚えている武術と実戦経験を少しでも得る為にやってるのだが、普段のトレーニングなんかとはわけが違うね。
実践に近い修行とも言える訓練での急激な動と静の繰り返しに、普段使わない筋肉が悲鳴を上げてやがるぜ。
実戦に慣れるのにはもう一つ理由があって初日に七霧の生家に来た時、俺が美九音奪還に参加させて貰える条件として、対妖に作られた得物を扱える様になる事を上げられた。
っつても対妖の得物なんてホイホイあるんかい! と思いきや「ジャジャジャジャッジャジャア~ン七霧の守り刀ぁ~」って座敷童の奴が七霧の生家で、ずっと保管していた初代七霧の神刀だか霊刀だか、柄から刀身まで真っ黒な日本刀を出して来た。
マジかよ。っつーか座敷童よ。さっきのBGMは、もしかしてあの有名な猫型ロボットの真似ですかね。
「えへへ」
照れ笑いをしている座敷童から刀を受け取った。鞘から抜いた刀身から不気味な黒い霧みてぇーな炎が纏わり着いていて、見た目は神刀や霊刀と言うには程遠く、妖刀って言う方がしっくりくる物だ。
その大きさがまた通常サイズじゃない。
日本刀って言えば大体刃渡り二尺四寸(73cm)前後、重さ800g前後ってもんなんだけども、こいつは刃渡り四尺八寸(146cm)重さ1300gっていう人間じゃ到底扱えないとんでもな代物だった。
重さに関しちゃ刀の素材に用いる玉鋼が違うのか、刀身や肉厚から見れば随分軽い方だと思うのだけども、それでも人間が扱うには重過ぎる代物だ。
となればどんな素材で何時の時代にどうやって鍛え上げたのかが気になる。それは今、座敷童が七霧生家の蔵を漁って残ってる文献を虱潰しに読み解く作業と格闘している。
今の俺はなによりもこの刀の扱いに慣れないといけねぇー。しかし間崎の式神は素早くしかもパワフルであの時の鬼とは比べ物にならない。
ブランクがあるとはいえ、武術の心得があるにも関わらず当てる事すらままならねぇーし、攻撃を避ける事すら出来やしねぇ。
俺が経験した数少ない実戦は学園で起きた鬼の件と大神襲撃の件だけで、昔やってた人間同士の組手や組打ちとはわけが違うって事を嫌になる程、この身に叩き込まれたはずなんだけども、経験値なんってもんはどう足掻いても俄かに積み上げる事なんて出来やしないもんだ。
正直分かってはいても焦るぜ。
……けどさ? ここで挫ける事は出来ねぇーんだよ。俺にも守りたいものがあるからな。
「七霧君。ここいらで休憩を入れましょう。無理して続けても伸びるものでもないですし、かえってオバーワークになって得られるものも得られないですよ」
「なぁ間崎」
「なんですか」
「お前の式神でのトレーニングは実戦に近いし、いい鍛錬になるけど実戦かっていや、式神相手じゃどうしても緊張感が出ねぇーわ」
「それはまた余裕ですね。じゃあ殺す気でやりますと言いたいところですが、もう少し刀の扱いに慣れてからにしましょう」
「時間が無ぇーんだよ」
「困りましたね。かと言って七霧君が戦えなくなる程痛め付けては本末転倒ってものですよ」
「違う。俺が言いたいのはそう言う事じゃなくて、鬼とやり合った時の緊張感が今一出てねぇーっか、なんと言うか……」
敵意を剥き出しにした本物の妖を前に対峙した時の圧倒的な恐怖。そう俺にはまだ何処かに甘えがあるんだ。
間崎が言う様に俺が戦えなくなっては、鍛える側も本末転倒ってもんで何処かで手加減しちまってると思うんだよ。
休憩しているところに文献と格闘中の座敷童の代わりに大神が、麦茶を運んで来てくれた。
大神っていや俺が、御主人様が式神にボコられているのも気のした風も無く、縁側の涼しい場所を見つけては欠伸宜しく日向ぼっこしてやがったな。
「なら私が相手をしてあげる」
「うむ。大神さんは本物の妖ですし実戦にはなにもかも僕の式神より近付くと思いますが、本気で主の七霧君を襲えますか」
「大丈夫、御主人様のドウテーを奪うつもりで行くから本気になる。手加減は出来ないこれは精子を分けて貰う戦いだから」
大神さん、大神さんっ! それを言うなら生死を分ける戦いだっ。高校生の女子が精子を奪おうなんて事を平気で口にするんじゃない。
「じゃぁ言い直す。雌雄を決するために戦う。でも“雌雄を決する”って、雌と雄がなにを決するのか分からないけど、男女が結すること、イクかイカされるか。その決戦の場所に相応しいところと言えば一つしかない。さあ御主人様、私をベッドに連れて行って。雌雄を結しましょう」
と言いながら着物を脱ぎ出す大神 紅葉さん。
お前の脳内ではなんでそういう解釈に変換されるんだよっ! ……俺はとんでもなく恐ろしい奴を手懐けてしまった気がするぜ。
「皆さ~ん休憩ですか? ならちょうど良かったです。ついにそのキモい刀の事が、ちょっぴり分かりましたです」
蔵に籠っていた座敷童が蜘蛛の巣と誇りまみれになって駆け寄って来た。そう言えばこいつの名前聞いてなかったっけ?
「なぁ座敷童。刀の名前を教えてくれる前に、お前の名前を教えてくれないか?」
「あたし? の名前? ……あたしは、あたしの名前は……」
おい、なにも泣かなくていいだろ?
「う、嬉しくて……。あたし人前に余り出ないから名前なんて聞かれる事なんて無いし、皆も聞いてくれなかったし、あたしなんてどうでもいいのかなぁ~なんて思ってた。名前聞かれるなんて事は、九尾の美九音お姉ちゃん以来なんだもん」
「そっか……、ごめん悪かったな。それにありがとな、こんなに汚れて埃っぽい蔵の中に引き籠もらせちまって」
手を頭の上に乗せ撫でてやると座敷童はくすぐったがる様に目を細めた。
「あたしの名前は宇敷 枢です。それとどう致しまして、あたし引き籠もりだから蔵に篭ることなんて平気です。えへへ」
後頭部を掻きながら照れる前髪ぱっつん娘に……ここは突っ込んでやるべきなのだろうか? 悩むぜ。名前を告げた枢は涙を拭いて笑顔を作ってくれた。
To Be Continued
御拝読ありがとうございました。




