腐っても狼っ娘 7
おはようございます。
雛仲 まひるです。
さて第四章腐っても狼っ娘もいよいよおわります。
そして最終章へ
ではどうぞ><
「ここが七霧の生家ですか。思った以上に田舎ですね」
電車を降り駅の外に出ると、懐かしくも清清しいほどにド田舎の田園風景が広がっている。
ほっとけやっ! 人ん家の生家に文句つけんなやっ!
それはさて置き。
「言われるがままに此処に来たけども、なにをすればいいんだっけ? 座敷童の説得は兎も角として俺が短期間に強くなる方法ってなんかあんの?」
「そうね。先ず御主人様は私と契りを結んで貰う」
田舎道に差し掛かったところから、夏休み中の部活活動に向かうケッタマシーン(チャリ=自転車)を漕ぐ学生達と行き交っているというのに、人目も憚らず常に現れぱなしの獣耳をへにゃりと折って大神が顔を赤らめた。
「契りって主従関係のこと?」
「違う体の方、性的な意味。端的に言えば雄と雌との営み、つまり交尾」
顔を赤らめて言葉を紡ぐ大神に近付いて……。
「もっと言うなら男女の営み、セッ――きゃんっ」
殴った。この物語が18禁にランクアップしてしまう前にグーで殴った。
端的過ぎるわっ! 田舎とはいえ部活に向かうかなんかの女子高生たちが行き交う天下の往来で交尾とか〔パキュ~ン〕とか大声で言ってるんじゃねーよ。
「おい大神。お前は女の子にしか興味ないんじゃねぇーか」
「それは誤解。今の私は男の子にも興味がある」
はいはいそうでしたね。貴方、腐ってましたものね。
「今夜あたりリアル男の子同士も見れるかも♡と、内心、ウキ♡トキ♡している」
……ちょっと待て、お前は一体なにに期待を膨らませているんだ? 勝手に俺と間崎とのあれを妄想するんじゃない。
「あははっ。大神さんは面白い事を言いますね」
間崎っ。てめぇーは嬉しそうに笑ってんじゃねぇーよ。
「僕は満更でもないのですけどね」
……駄目だこいつら。
今夜あたり俺は全ての貞操を失うかも知れない。なんとかせねば……。
「なぁ大神。そんな事したら美九音に怒られるんじゃね? お前の大好きな御姉様に」
「それは駄目。でも……お仕置きには興味がある」
やっぱり駄目だっ! こいつのエロ脳はパネェー。
「ねぇ御主人様? 何故御主人様は御姉様をそんなに助けたいの? 幼馴染だからて言うのは分かる。でも御姉様を浚ったのは御主人様に深い縁のある人物だと聞いている。そんな人と御主人様が戦えるとは思えない」
……。
「優しい御主人様が痛みを伴ってまで、御姉様を助けたい理由はなに?」
「俺は、……俺が守りたいものを踏みにじって行った奴等を許せねぇーだけだ。大切なものを傷付けた奴を、奪って行った奴等を許せねぇーんだよ」
『ちょっと知くん? “守りたいもの”ってなに? もしかしてあたしっ』
おおっびっくりした。
大神が突然携帯を突き出して来て、そこから流れる未美の声。
なにしてんの大神。なんの脈絡も無しに携帯突き出しやがって、びっくりするじゃねぇーか。
「だって、御主人様から預かってた荷物の中にあった携帯を直ぐに取り出せる様にポケットに忍ばせておいたら、急に携帯がエッチな振動で私の下腹部を攻め立てたから……」
携帯電話のマナーモードを、バイブ機能をエッチな振動とか言うんじゃない。
「んん? 未美か。急に電話なんてしてきてどうしたんだ」
『だって気になるじゃん。平和、平和って何時も言ってる知くんが急に戦うって言い出すし、何時もならそう言う前に戦う事を避けて打開策を講じる知くんがさ。……やっぱり知くんにとって一番に“守りたいもの”って狐、なんだね』
「ち、ちげぇーよバカっ。お前だって俺が守りたいものに変わりねぇ」
『そ? ありがと。やっぱり優しいね知くんは。薄々は気付いてはいるけど、……でもね? 時には素直な気持ちを話してくれることも優しさだと思うよ? じゃまた後でねっダーリン』
……? なに言ってんだよ未美の奴。
「七霧君。七霧の生家が見えて来たましたよ」
どれだけの電車を乗り継ぎバスに揺られ、そして田舎道を歩き詰めてついに七霧の生家に着いた。
問題は先ず座敷童に会えるかどうかだな。
座敷童は七霧の生家に今も居続けているだろうと、美九音が以前に言っていたけども、七霧の生家は今誰も住んでいないんだよな。
家の状態を保つ為に毎日掃除や庭の手入れに来てくれる番頭さんが近くに住んでいるだけだ。
もしかすると座敷童は既に居ないかも知れないし居たとしても、人前に滅多に姿を現す事がない座敷童が俺達を出迎えてくれたり、ましてや出て来てくれる保証も呼び出す手立てもない。
どうすれば会えるかなんて分からないまま、俺達は七霧の生家の門を潜った。
かっこ~ん。
鹿威しの音が響く、手入れされた庭の見える座敷に通された俺達の前には……。
「粗茶ですが、なにか?」
「あっいえ……お構いなく」
俺達は客間に通され、お茶などを振る舞われている。
そのお茶を運んで来たのは波音ちゃんの見た目と同じくらいの容姿をした、つまり幼い容姿の童女だった。
前髪ぱっつんの肩口まで伸びた黒髪を触覚みたいに頭の上で結わえ、長けの短い着物っつーか浴衣に近い着衣を身に着けた座敷童だった。
さてどうしたものかと考えながら門を潜ったのだけれども、こうもあっさり簡単に座敷童に会えるなんて思いもしなかったさ。
座敷童の奴は俺達が玄関口に着くと同時に、こう言ったのさ「お待ちしておりました」ってな。
「ジジョウは知ってるよ。知泰お兄ちゃん達が来る前に小さな殺生石の破片を使って九尾のお姉ちゃんが此処を訪れて言ってたから、九尾のお姉ちゃんが大変な事になっているんだね」
「そうなんだ。あいつに妖力さえ戻れば美九音は自力で抜け出せると思うけど、あいつの最大級の妖力を封印している四つの殺生石の結界を悠長に解いている時間が無いんだ。率直に言う座敷童、結界の解除に力を貸してくれ、頼む」
「七霧の血統を持つお兄ちゃんの頼みだから助けてあげたいのは山あり谷ありなんだけど、ごめんね力添えしてあげられない。止められてるんだ九尾のお姉ちゃんに」
山々な。
「なんでだよ? あいつは力を取り戻したいんじゃねぇーのか? それでお前に会いに来たんじゃねぇの?」
「分かってないなぁーお兄ちゃんは……。だから女の子にモテないし、まだドウテーなんだよ」
大きなお世話だっ。てか、なんでそんな情報までお前が知ってんだよっ。
「妖の皆は分かってると思うけど、九尾のお姉ちゃんがその気になればいくらでも封印なんて自力で破って妖力を戻す事なんて出来るよね? だから鬼一族は九尾のお姉ちゃんを狙ったのだとわたしは思うよ? 鬼一族の頭酒呑童子の封印を破って貰うためにね。でもそれがままならなかったのは七霧の血統が何時も九尾のお姉ちゃんの傍にいたからだよ。傍にいるのが出来損ないとも知らずにね」
おい。
「だけど俺には七霧の秘術を使える力はねぇーし、秘術の事すらまったく知らねぇーんだぜ?」
「そうだね。そっちの退魔師のお兄ちゃんなら、もう気付いているとは思うけど?」
「まぁ一応の推測と仮説は立てられますけどね」
「それどう言う事だよ間崎」
「簡単に言うと術には二通りあると言う事ですよ。一つは僕が使う式神や他の陰陽師や退魔師が扱う術の様に素質がある者が努力を重ね精進し得られる人間が構築してきた術と、そうではない術が存在すると言う事です。つまり七霧から発現した術は元々“人ならざる者”の力だったと考える事が妥当なのです」
「俺は人間だ。七霧にお前が言うところの“人ならざる者”が混じったとでも言うのかよ」
「ええそうです。僕が組織のデータを洗い七霧一族について調べた限り、七霧に纏わる術は僕ら退魔師や陰陽師が使う一般的な退魔術に近しいものが多く、妖が最も七霧を恐れる術だけは初代以降、七霧にその力を発現出来た者はいない。七霧君もそれは知っていると思うのですけど」
むかし、じっちゃんもそんな事言ってたっけ……。
「七霧君は最早人間です。七霧の血統は長い時を経て純粋な人間へと成り代わったと言えるでしょう。今の七霧退魔術の多くは初代の血が濃かった時代に使用された退魔術の流れを残し、人間が扱えるように変化させ現代に伝えられて来たのですよ。しかし初代七霧が発現した術とは元来“人ならざる者”であった初代自体の力だったのです。その後に七霧名を持っている誰もが、人間の血が混じった事によって発現で出来なくなったというのが、七霧に秘術を発現出来た者が居なかった不可解な事実から推測した僕個人の私見です」
「けどよ。美九音が言うには俺は一度その“人ならざる者”とかいう力を発現したそうだぜ? なら俺はなんだってんだよ」
「先祖返りって言葉を御存じですか? よく植物の交配等で用いられる成長点を切り分けて増やすメリクロン培養でない、受粉し種から同じ性質の植物を増やす際や新種を作り出す種子交配の場合、その中に原種に極めて近いもの原種に戻ったものが出来る事があります。恐らく人間でありながら七霧 知泰という人物は初代のDNA情報にある“人ならざる者”の部分を強く持ち合わせて生まれて来たと考えられますね」
「もし間崎の言う仮説が正しければ、俺はどうすれば初代の術を発現出来るんだ?」
「それは分からないですね、僕には。初代七霧の秘術は努力や時間があれば得られる類の力ではないですから」
「お兄ちゃん? ひとつだけ勘違いしているところがあるよ。お兄ちゃんは力を一度も発現しちゃいないよ。九尾のお姉ちゃんを助ける時に発現しそうになってはいたそうだけど、その時は発現する一歩手前で九尾のお姉ちゃんが阻止しちゃったからね。お姉ちゃんのエナジードレインによってね」
「エナジードレインってなに?」
「人や妖が持つ生体エネルギーや生気、体力、気力なんかを吸い取るアビリティーだよ。吸い取る方法は相手に触れるだけだったりとかいろいろあるけどね。一気に吸い取る時とかは直に……。あっごめん、この方法は九尾のお姉ちゃんに口止めされてたんだ」
テヘペロ(o^-')ゞ♡
「? まぁいいや。それよりなんであいつに、美九音に纏わり着いてた妖や退魔師を俺が追い払った時に使おうとした術の名前なんてあまり覚えてねぇけど、言っている事すら分かんなかったけど、美九音は術の名前まで言ってたぜ? 確か荒……なんとかってさ。それに何故、美九音が俺の術の発現を阻止する必要があったんだよ? 自分が危ないって時によ」
「だからお兄ちゃんはなにも分かって無いんだって。……恋する乙女の心ってやつをさぁ~」
┐('~`;)┌
見た目、小学生女子に色恋ごとで呆れられる高校生男子の姿があった。俺なんだけども……。
「はっ? あいつが恋する乙女だって? 意味が分からん」
「御主人様は鈍い」
「やれやれですね」
「おいお前ら茶化すなよ」
「ああもうほんとお兄ちゃんは鈍感なのですっ。九尾のお姉ちゃんはね、人間としてお兄ちゃんと過ごす日々を失いたく無いんだよ。だから無理に九尾の力を使う事も封印に手を出す事もしなかったし、お兄ちゃんが術を発現して“人ならざる者”になっちゃって、人間の心を失う事を嫌ったのですよ。もし多少人ならざる者のDHA情報を持っているとしても、人間の身で“人ならざる者”の力を使っちゃったら、お兄ちゃんの身にどんな事が起こるか分かんないのです。まぁ人間が“人ならざる者”の力を求めた結末はだいたい決まってるもん」
座敷童よ。とっても頭に良さそうな情報だけれども、DNA情報な。
「その結末って?」
「“人ならざる者”ではない人間が“人ならざる者”の力を使えば使う程、身も心も“人ならざる者”に浸食され我を失い終いには肉体が耐え切れず命を落とすか暴走して誰かに始末される。……まぁどうなるかは分かんないですけどね。ほぼ間違いなく迎える結末は死以外は無いです」
「……それ本当なのか間崎」
「ええ。僕が知る限る100パーセントです」
「馬鹿それを早く言えってーの。急がないとあいつが危ない」
「九尾のお姉ちゃんがそんなに心配? でも九尾のお姉ちゃんの力が必要な鬼達が、そんなに簡単にお姉ちゃんの命を奪ったりはしないと思うけど? その裏を読むなら鬼一族の本当の目的は、九尾のお姉ちゃんを囮に誘き出した七霧の抹殺じゃん」
「……まぁあいつの事も心配っちゃ心配なんだけど、違うんだ」
「なにが違うの? 御主人様は素直じゃない。御姉様が心配で堪らないくせに」
「だよねぇー」
「違うんだって、本当に危ないのは俺の幼馴染の方なんだよ」
「それ御姉様」
「新田 綾乃。もう一人の幼馴染だ俺と美九音のな」
第四章 ほんとは? 腐っても狼っ子 おわり
最終章 第五章 ウチの名前は久遠寺 美九音。マジで! キュートな女の子へつづく。
御拝読ありがとうございます。
さて次回から最終章です。
お楽しみにっ!
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