腐っても狼っ娘 6
こんにちは
雛仲 まひるです。
さて腐っても狼っ娘6です。
美九音を浚ったのは一体何者なのか?
ちょっぴりコメディー控えめ回となってますが……
ではどうぞ><
更なる情報を得る為、ここは専門家の間崎が調査を終えて戻って来るまで俺と大神は美九音の家、つまり神社の社に向かう階段に腰掛けて待ったていた。
俺と大神は美九音の携帯を見付けて思わず入っちまったけど現場保全は基本だろ? 妖の痕跡探しは専門家に任せるとするさ。
「……!?」
大神が急に露になっている灰色掛かった獣耳をピクリと動し、鼻をひくつかせて息をしきりに吸い込み出した。
「大神?」
「なにか来る。間崎とか言う人間の匂いじゃない。これは妖の臭い」
「なにか分かるか」
「分からない。気配をしきりに隠しているみたい。けど覚えのある匂い」
大神は気配を探り様子を窺がっていた。木々が風に揺られる音が何者かが接近する足音を掻き消していて、俺には気配すら分からない。
しかし大神が匂いを嗅ぎ取ったなら、そいつは風上から来るはずだ。
俺は風が流れて来る方向に視線を向け目を凝らした。その時、大神が鋭い犬歯を剥き出し身を構えた。
ガサッと茂みが揺れ人影が現れる。
「……お前は」
俺は身を起こして飛び掛ろうとした大神を制した。
「と、知、くん?」
「未美、お前無事で」
「あっ……無事、てわけじゃないけど生きてるよ。……でも狐が」
「美九音がどうしたって」
「狐の奴、真面に戦う妖力なんて回復してないはずなのに……、あたしが知くんの家に来た時にはもう戦ってて……」
「それで美九音は今何処にっ」
「分かんない狐、連れて行かれちゃった。ごめんね、知くん」
「猫? 御姉様を浚ったのは鬼?」
「あ、あんたは海で仕掛けて来た狼っ。なんであんたが知くんと居んのよ」
「質問に答えて、御姉様を連れ去ったのは鬼ね?」
未美は大神に「あんた後で説明してよね」と言った後、質問に答えた。
「そう鬼の群れに襲撃されてたわ。あたしが学校から補習を終えて寮に帰る前に、知くんに会いにここに来た時には、もう馬鹿狐が半数くらいの雑魚は片していた。あたしも加わって数も大分減らした時、鬼の群れを引き連れて来た……あれは女だと思うんだけど、そいつが現れ狐が驚いた顔をして、なんか名前を叫んでたから顔見知りだったみたい。狐の奴、動きを止めて近付いて行ったから間違いないと思う。……でもその女、姿は人間なんだけど鬼の妖気を持ってて、でも普通の鬼とは放っている妖気の質が違ってた。よく分からないけど退魔師や陰陽師が扱う変な術も使ったし……、多分あれだけの数の鬼が暴れたにも関わらず、それほどの騒ぎにならなかったのは、そいつが使ってた人払いの術かなんかの為だと思う」
兎に角事の真相が見えてくるには、間崎を待って話を聞いてみる必要がある。俺達は間崎が来るのを待った。
「結界術?」
「そう黒井さんが言うように退魔術の一つで“人払い”の痕跡が見つかりましたよ。七霧君」
調査を終えた間崎が現れそう告げた。
「妖が退魔師の使う術なんて扱えるのかよ」
「常識的に考えて無理ですね。僕達退魔師や陰陽師などが用いる退魔用の術なんて物を妖が使えば、術を使用した妖の体に異変が起きるはずですからね。俗にいうところの妖術を使う妖も居るには居るのですけど、彼らが扱う術の大半は自然現象、超自然現象を極地的に起こす術が殆どで、我々人間が対魔物用に編み出してきた術とは異なります。まぁ中には例外も居るにはいるのですが、それでも退魔術とは異なっています。……僕が知る限り退魔術をそのまま扱える妖は確認されていません」
間崎が言葉を続ける。
「証言や痕跡から久遠寺さんを連れ去った妖は鬼で間違いないかと思います。しかしその中に一体というか一人と言うべきでしょうか人間が居ます。いえ正確には人間が恨み、妬み、憎しみから鬼と成った元人間です。残された現場の痕跡から退魔術に長けている人物であったと推測出来ますが……、それでも違和感を感じてなりませんが」
言葉を終えた間崎が現場から持って来た“破魔矢”を見せた。
「人払いの結界を張る際に使用したと思われる弓は競技用に使われている一般的なものですが、術者が矢に符を貼って放つための道具だと考えられ特別なものじゃない。また家の残骸に残っていた爪痕の一つに興味深い抓痕がありました。その鬼は人間の、僕等の間でもよく知られている“羅生門の鬼”が切り取られた腕だと判明しました。恐らくその鬼は腕以外は人間を残していて、その者が退魔術を用いたと考えられます。言いなれば強力な鬼の手を持つ人間という事になりますね」
「こ、この矢……どうして」
俺は間崎から手渡されたその矢を見て絶句した。
「知くん? 狐が囚われてる場所が分かったよ」
翌日の朝。美九音の居場所が分かったと未美から訊く事となった。情報源は事態を知った姫子先生と波音ちゃんからのものだった。
「美九音を奪還しに行くぜ」
「駄目。御主人様はここに居て」
「そうね、知くんは行かない方がいいとあたしも思う。鬼の巣に乗り込むって言うのに、妖と戦えない知くんが乗り込むって事は自殺行為だから」
「んな事ねぇー俺は戦える。俺だって学校に現れた鬼の一件以来、なにもしていなかったわけじゃねぇーよ」
「うん知ってる。……あたしも狐もね。始業式に鬼と戦った次の日から知くんがあたし達に気付かれない様に早朝から走り込みを始めた事も、トレーニングを始めた事も打ち込みを始めた事も知ってる」
「だったら俺も行かせてくれ」
「駄目だよ。仮に知くんが戦えたとしても、妖の事情に知くんを巻き込むなんて事、狐もあたしも望んでないから」
「美九音はっ! ……美九音は俺の幼馴染なんだよ。 助けに行きたいと思ってなにが悪いっ」
「御主人様、これ」
大神が差し出した手紙の様な一枚の紙切れに目を通す。
「馬鹿なっ、なんであいつが……」
「最初、狙われたのは狐への私怨か鬼一族が御姉様の能力を欲したから、だと思ってたけど事情が変わった。御主人様との関係もある」
「だったら……」
「その文を見ても戦えるの知くんに? あたし達は事情をよく知らないけど、この娘と戦えるの」
「……っ」
「それに真の目的が御主人様だと分かった以上、連れて行くわけにはいかない。それにまだ期限まで時間がある」
「短い時間ではあるけど鬼の巣に乗り込むには、手を打っておかなければならない事やその時間を利用してあたし達も力をつけておく必要があるの」
「手を打っておく事?」
「そうだ。九尾の妖力が封印された大きな殺生石がある四か所の内、最悪久遠寺の身を守るために一つでも解放しておかなくちゃいけない。鬼の巣には久遠寺を襲撃した女鬼の他にも強力な鬼が居る。恐らくこの巣の主は“いくしま童子”酒呑童子の配下、四天王に成れなかったとはいえ、300を超える鬼兵を率いる強力な鬼と思われるぞ。七霧」
この声は……。
久遠寺稲荷の社に、何時の間に来たのか姫子先生と波音ちゃんの姿があった。
「波音ちゃん、姫子先生。どうしてここに?」
「おいおい久遠寺が囚われている場所を突き止め、黒井に情報をリークしたのは私だぞ? 七霧。黒井が言うようにお前は行くべきじゃない。大人しく待っていろと言いたいが――」
「姫子先生。俺は……俺にはなにも出来ないのかよっ! ただ待っている事しか出来ねぇーて言うのかよっ」
なにも出来ない自分が腹立たしくて頭に血が上っていた。その事を肯定された様に思えて、つい姫子先生の言葉を遮って言葉を吐き出した。
「まぁ訊け七霧、そんな事はないぞ」
「そうですよ知泰さん。私達が妖力強化している内にやって頂きたい事があります」
「それに久遠寺(九尾の狐)奪還は我々の妖グループの総意だから、心配するな必ず助け出して来てやる」
「そうですよ知泰さん。久遠寺さんは確かに九尾の狐なのかも知れません。でもあなた達は私達の生徒じゃないですか。任せておいてくださればいいのですよ」
「波音ちゃん、姫子先生。……ありがとう」
「では七霧。お前には七霧の生家で自分の身を守れる力を得て来て貰う。この戦では我々は皆、自分の事で手いっぱいになるだろうから、七霧には自分の身は自分で守って貰うことになる。それともう一つ座敷童を我々に協力して貰える様に説得して欲しい。久遠寺の妖力解放は既に同士が始めてはいるが思いのほか結界が強力で手間取るのは必至、与えられた時間は限られているから結界に長けた妖、座敷童の協力は必須になるだろう」
「私は御主人様と一緒に七霧の生家行く」
「狼だけズルい。って言いたいところだけど、……でもあたしは自分がやるべき事をするよ。だから知くんをお願いね。けど抜け駆けは許さないからね」
「そうですよ大神さん。知泰さんは私の玉の輿でもあるのですからねっ。抜け駆けは許しませんっ」
は、波音ちゃん? 玉の輿ってなにっ!? ……だけど美九音お前は幸せ者だよ。皆お前の事をなんだかんだで大事に思ってくれてんだからさ。
「僕も行きますよ七霧君。短期間に君を強く出来る可能性があるのは僕ですし、同じ人間の僕なら対妖戦へのアドバイスでもお役に立てると思います。少しは聞き及んだ事はあるのですが七霧の退魔術にも興味がありますし、それに七霧の生家に七霧君でも扱える術などの秘伝書や文献が残っていたとしたら、このメンバーの中で解読出来る知識があるのは僕だけですしね」
と、ウインクするイケメン間崎。キメェーよ俺にそっちの気はない。
「残された時間は七日間。各々自分が成すべき事をしろ各自解散」
姫子先生の号令と共に解散した後、俺と大神、そして間崎の三人は急遽七霧の生家に向かった。
To Be Continued
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