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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 特別編 クリスマススペシャル!
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変態サンタとわろえない狐 18

 椿姫が見せた他の妖怪を遙かに凌ぐ圧倒的な力を目にした妖たちは、双方共に矛先を納めこの無意味とも思える闘争は幕を下ろした。


 こいつが先程見せた力。これが本来の三大妖怪がここに持つ力だとすれば、正直なところ穏やかな気持ちではいられない。


 美九音も本来の力を取り戻したら、これ程のものなのだろうか?


「我が主様よ? そう心配するでない。わらわの力は格別じゃからの」


「ぐぬぬぬっ。ウチだって本来の力を取り戻せば、あんたなんかに負けないんだからっ!」


 かつて酒呑童子と呼ばれた妖だと知れた椿姫と並ぶ、三大妖怪と謳われる白面金毛九尾の狐のプライドを刺激されたのか、美九音が犬歯を剥き出して椿姫に噛みついている。


 そんな美九音を無視して椿姫が言う。


「良いか我が主様よ? 主に解り易く言うとじゃな? 怪異の王、吸血鬼のわらわは“ぼくしんぐ”とか言う人間界の殴り合う滑稽な競技にたとえるなら、つまりわらわは世界チャンピオンじゃ。九尾の娘はまああれじゃ東洋太平洋チャンピオンというところかの? そしていけ好ん天狗に至っては日本チャンピオンというところじゃ」


 そう言って椿姫は快活に笑い、それを見て美九音はぐぬぬと肩を怒らせている。


 ……しかし俺にはまだ納得のいかないでいる事がある。


「……兄貴」


「なんだ知泰」


 俺は兄貴に詰め寄り胸倉を掴んだ。


「なんであの時、結界を解いたっ!」


 認めたくはないが兄貴が張っていたあの結界の中に逃げ込めば、周囲を巻き込む規模の水蒸気爆発が起こっていたとしても、少なくとも近くにいて逃げ込めた妖たちだけでも無事にやり過ごせたはずだ。


 だが俺の叫びを聞いた兄貴は、結界を解いた。


「なんでそんな事をしやがったんだよっ! 兄貴の答えによっては許さねぇーからな」


「知泰。お前には解らんよ。七霧の退魔術を受け継いでいないお前には術の何たるかすら理解出来ないだろう? ましてやあれは俺が組み上げた新術だ」


「てんめぇーぇっ」


 確かに俺は七霧の出来損ないの落ちこぼれだ。だから親父も御袋も俺に退魔術を一切教えず、稀代の器と謂われる才能豊かな兄貴の知隆ともたかに熱心に教え込んだ。


 体術においては、兄貴より術のセンスに劣る姉貴の飛鳥を徹底的に鍛え上げた。


 俺は古来から継がれてきた退魔の一族七霧に見放された七霧だ。


「違うな知泰。お前は何も解っていない。七霧が生まれてから1000年余り、お前ほど七霧で在る者は居ない」


「何を言ってやがるっ! 俺は七霧の何も継承させて貰えなかったんだぞっ」


 兄貴が何を言っているのか俺にはまったく理解で出来ない出来るはずもない。


「我が主様よ。そう知隆を責めるでない」


「……椿姫」


「椿姫、余計な事は言わなくていい」


 兄貴の制止に椿は「はぁ~」と溜息を吐いて、やれやれと嘆息しながら言葉を紡ぎ出した。


「まったく知隆は捻デレさんじゃの~。良いか我が主様よ? 知隆が結界を解いたのは、わらわを戒めていた縛りを解く為じゃ。あの結界は外からの障害を完全に遮断する絶対防壁じゃ。それだけの結界となれば内側から術を発動しても結界外へ術を干渉させる事は出来ぬじゃろう。故に知隆はあの結界を解いたのじゃよ」


 椿姫はそう言った後に「まあ、わらわを纏っていたとはいえ、どこぞのおバカな主様はその結界をぶち破ったけどの? やれやれじゃ狐の娘の事になると我が主様は理すらも軽く覆しよる。ちょっと妬けるの」とのたまった。


「兄貴? 椿姫の言った事は本当なのか?」


「ちっ。椿姫余計な事を……。あゝそうだ椿姫の言う通りだ。こんな事もあろうかと思って用意しておいて良かったよ。封神降魔の大刀大閻魔七斬りに封じた鬼の戒めを解く術をな」


 兄貴それ好きだよな? あんたは宇宙戦艦○マトのクルーであるところの真田技師かっ! もう何でも有り後付け設定上等!


「まあそんなところじゃよ我が主様よ。そんなに知隆を毛嫌いするでない。こうしてわらわも元の姿と力を取り戻せたしの。めでたしめでたしじゃ。わっははっ」


「あゝ言い忘れていたが、椿姫の戒めを解いたと言ってもほんの一時的にだ。その内にまた元の鞘に戻る。刀だけにな」


「なっ!? 知隆っ! またわらわを窮屈な刀の中に戻すつもりでワザと一時的な術を……。ということはじゃな? わらわが姿を現しても然程の力も無い幼女の姿で、という事になるのかの?」


「そういう事になる」


「くっ! このロリコンめっ!」


 しばらくして金髪超絶美女の姿から金髪超美幼女の姿に戻った椿姫は「ぐぬぬ覚えておれよ知隆! この隠れブラコンめっ」と毒を吐き散らかして大閻魔七斬りの中へと戻っていった。




「あっ雪、積もってる」


 ふと美九音がぽつりと呟いた。


 ぬらりひょん一味も引き上げ、戦いの折に展開された異装空間と化していた街並みに、クリスマスイブならではの喧騒が戻っている。


 でもわざわざ異装空間まで作り出して人間界に及ぶ実被害と霊的な影響を避けるとは、妖たちの心意気も粋だよな? 以前に学校に現れた鬼と戦った時には美九音がそれをやっていた。


 おそらくはGEOの結界師も事態を察知すれば、人知れず結界を展開しているんだろうけど……。ここにGEOの構成員である間崎 正宗が来たのも、おそらくは正宗が陽鱗学園に在籍しているのも学校に通っているという形で派遣されているんだろうさ。


 それに新たに分かった事もあれば分からない事も増えた。今回の大元となっている鬼の一族騒動は、椿姫が鬼一族の総帥である酒呑童子である事が判明し、それは新たに野望を抱いて暗躍する者の存在がいるという事だ。


 でも今は考えるのを止めよう。疲れたし考えても今すぐどうこう出来るわけもなく、余りにも情報がなさ過ぎて今の俺には手に余る。


 情報面は姫子先生にでも任せておけば、自ずとこちらにも流れてくるだろう。


 今日はいろいろ在り過ぎて本当に疲れた。もう休みたい。


 そういえば来八音ちゃんも大丈夫だった。軟禁状態だったとはいえ、当のぬらりひょんの奴が手厚く来八音ちゃんを扱っていたみたいで、人間界に派遣している部下の妖のボディーガードまで付けて既に実家へ送り返した様だ。


「ちょっと知泰っ! 今夜はクリスマスイブ楽しむわよっ!」


 ……どうやらまだ休ませては貰えない様だ。それにしても美九音、お前はなんでそんなに元気なんだよっ!




「ねぇ知泰? 真冬さんに聞いたんだけど、あんたウチの為にバイトしてくれてたんだってね? ……あの、そ、その、ありがとう……」


 俺たちはそれぞれ今回の後始末をして、いよいよ地元に帰ろうと紅葉が用意したソリの準備が整う間、近くの屋根付きベンチに腰掛けていた。


 紅葉たちも疲れているのに、あいつらだけに準備させて悪いとは思う。思うんだけど……。


 見れば随分楽しそうだなおいっ! あれかやはりあれだよな? 犬飼姉妹は勿論のこと紅葉も狼だし雪降るとはしゃぎたくなるの? 本能なの習性なの? お前ら野生の証明してんの?


 未美の奴は寒さに耐えかねたのか猫化してぬくぬくを求め、ソリに脱いだままのサンタの衣装に包まっている様だ。


 主に後始末とは今回の件についてGEOに報告する為の調書である。面倒事を増やしやがって正宗めっ。


「いやまあ、うん。結局バイトは上手く行かなかったし、バイト代も気持ちばかりのもんだったし時間も時間だし、お前の望んだプレゼントは用意出来そうにない。ごめん」


 美九音は蜂蜜色の髪の毛を揺らしてフルフルと首を振る。


「いいの。知泰がウチの為に頑張ってくれてた事がう嬉しいの」


 何時も高圧的な俺の幼馴染はほんと、本当にたま~にだけど、可愛い仕草でこういう控えめな態度を取るからずるい。ギャップ萌ってやつだな、うん。


 だからなんだか余計に何とかしてやりたくなる。


 あゝそうだった。


 こういうこともあろうかと思って、準備しておいて良かったよ。あれ俺まで真田技師化してね? 血は争えねぇー怖っ!


 そういえば捜査の途中でシルバーアクセサリーなんかを並べた露店で買って置いた物があるんだった。綺麗にラッピングまではしていないけれど、クリスマスシーズンということなのかパステルカラーにシンプルな柄のプリントと気持ちばかりのリボンを付けてある小袋に入れてくれてある。


「なあ美九音」


「それで知泰? あのソリに積んであったサンタっぽい袋なんだけど」


 美九音が紅葉たちが準備しているソリを指さし訪ねてきた。あちゃ~折角いい流れになっていたのに、もうこの先は嫌な予感しかしねぇーよ。


「随分沢山の女の子のパンツ集めたのね? サンタの姿で女の子のパンツ集め? とんだ変態ね、あんた」


 いやこれには深い訳がありまして――。


「クリスマスイブにサンタの格好までして、あまつさえ御丁寧に個別に名前入りの袋に入れて真空パックまでしているなんて、とんだ変態サンタも居るものね」


 さ~せんでしたっ! 言わないでそれ以上言わないでくださいっ! 他人から言われると物凄い変態に聞こえるから! なんで俺あんな事までしてんだよ? 馬鹿じゃないの俺?


「……でも全部ウチの為にしてくれたバイトで仕方なくなんだでしょ? ゆ、ゆゆ、許さないケドっ」


「面目次第もごさいません……はい。調子こいちゃいました。でも最初はそんなつもりはなかったんだぞ? 皆をからかうつもりでつい……」


「それで楽しくなっちゃったというわけね? そんなつもりじゃなかったのよね?」


「そうです。信じてください美九音さん」


「そうね? でも性犯罪者は皆、そう言うのよ。そんなつもりはなかったってね」


 もう見ているだけで分かるほどご立腹の美九音が「はぁ~」と大きな溜息を吐いて、強張らせていた身体から力を抜いて脱力した。


「まあいいわ。いやだけど、ほんとは超いやだけど許してあたげる。元はウチが無理言っちゃったんだから。……それに本当にウチの為に頑張ってくれたんだって事も分かるし笑って許したげる……許したげたいのに……でもなんだろね? 知泰、ウチ笑えないんだけど」


 いや今回は本当に俺も悪かったって。なにこれ? クリスマスにわざわざサンタコス着て女の子のパンツ集めてたなんて、どんだけ変態なの俺? 


 その変態サンタを笑って許そうと頑張ってもそりゃ無理だわな? 美九音も。


 広場に据え付けられた大時計に目を向ければ、俺と幼馴染のちょっと九尾な女の子のクリスマスイブは過ぎ去ろうという時間になっていた。


 戦いの最中に降り出した雪は、確かに真冬さんと波音ちゃんの能力でのものだった。しかし今も深深と降り積もる雪は、真っ白な世界を作り出しクリスマスイブの夜には最高の飾る付けになっていた。


「綺麗……今年はホワイトクリスマスね」と呟いた美九音に「そうだな最高のクリスマスイブだ」と俺も答えた。


「でもウチ……やっぱりわろえない。思い出しただけで腹が立つ!」


 いやほんとごめんて。


「何が腹が立つかって言うとね? ……知泰がウチのパンツだけ欲しがらない事が一番腹立たしいわねっ」


 エッ!? ソッチナノッ!


「いやまあお前のパンツは俺にとっては特別なんだよ。だから安易に手を出しちゃ駄目な気がするんだよ」


「と、特別!? ウチのパンツは特別なの? 知泰にとって……そ、それってウチの事を特別に想ってくれているってこと……なんだよね?」


 上目遣いで俺の様子を窺いながら、驚きの混じった声色で言った後、美九音は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。


 くそっ上目遣いの後照れて俯くのはずるい! なんだそれ可愛いなお前。


「御主人様、数々の変態発言乙。あっ間違えた。御主人様ソリの準備が整ったわ。本日はお疲れ様でした」


 あのね紅葉さん? 労いの言葉に至る思考過程が丸見えでしたよ?


 俺たちはこれから住み慣れた街へと帰路をとる。幾分弱まった雪が舞う空に浮かぶ分厚い雪雲の間からは、星の輝きがちらほら見えている。


 白銀に塗り直された街には、電気による人工の灯りも多くまだ眠らない様だ。


 白銀に世界を下に見ながら、紅葉と犬飼姉妹が曳く犬ソリに乗ってサンタの衣装に包まった一匹の猫と俺、そして隣に座っている幼馴染の女の子は、トナカイに曳かれたソリで空を掛けるサンタクロース宜しく大空へと舞い上がった。




 ちょっと? 九尾な女の子 クリスマススペシャル 変態サンタとわろえない狐


 おわり。

と思ったか! 次回は美九音ママ小五音ここねさんからの知泰と美九音へのプレゼント、小五音さんからサンタクロースの存在の有無を聞いているはずの美九音が未だに信じて止まないサンタクロースとは、知泰が用意したプレゼントとは! 次話はフラグ回収エピローグですよ。

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