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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 特別編 クリスマススペシャル!
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変態サンタとわろえない狐 13

 腕の中で口を尖らせ頬をぷっくり膨らませて、ぷりぷり怒っている美九音の目を見て俺は三度誓う。


 美九音、お前を傷付けようとした奴を俺は絶対に許さない。今日こそは見ていてくれ、俺の本気を見せてやるからなっ。


「と、知泰……。ウ、ウチの為に頑張ってくれるの?」


「あゝそうだよ、俺もたまには本気出す。何時もお前や皆に助けられてばかりじゃカッコ悪いからな。自分の大切な人が目の前で傷付けられいるのに、見ているだけでただ立ち竦んでいるだけで守ることさえも出来ない、何もしようとしない、そんなつまらない男にだけはなりたくねぇーんだよ」


 今回、こいつの留学騒ぎで嫌というほど思い知らされたことがある。


 この可愛げのない幼馴染の久遠寺 美九音が俺には、何時も隣に居るのが当たり前で気付けなかったけれど、こいつがどれだけ俺の心の容量を占めていたのか、どれだけ失いたくないものだったのかを思い知った。


 美九音が俺の傍から離れて何処かに行ってしまうのは嫌だ。美九音が俺の知らないところで他の男の隣を歩いているのなんてもっと嫌だ。


 そんなことを考えてしまい、胸の奥がチクリと痛んだ。この気持ちの正体にいい加減鈍感な俺も、そろそろ気付かなくてはいけないんだと思う。


「美九音? 今の事態を無事に切り抜けられたら俺、お前に伝えたい事があるんだ」


「なっ、なによ急に改まっちゃって……。も、勿体ぶらないで、い、今……言えばいいじゃん……」


 腕の中で怒っていた美九音の表情が一転して緊張した面持ちに変わった。不機嫌そうに眉を潜め、目を細め口を尖らせてはいるが、触れれば滑々して柔らかそうな頬は仄かに赤みを帯びている。


「俺な? お前のこと――」


「ちょ、ちょっと待ってっ! ウ、ウチもこ。心の準備をするから……」


 そう言って俺の腕の中から起き上がった美九音は、地べたに正座して姿勢を整え「こほん」と咳払いをした。


「あんたの言いたいこと……き、聞いたげてもいいよ?」


 何故に正座? 何故に上から目線? まったく……こいつはこんな時でも可愛げがねぇーな? でもまあいいか。


 俺は正座をしている美九音の前に膝を折って、目線の高さを合わせた。 


 覚悟を決めて美九音に俺が気付いた想いを伝えよう。


 こいつはまったく可愛げが無くて生意気で我が儘な幼馴染みだけれど、ムカつくほど可愛くて腹が立つほど愛らしい俺の幼馴染みに伝えよう。


 胸の奥に感じたチクリとした痛みの正体に俺は気付いちまったから……。


「俺さ、今まで認めるのが怖くて気付かない振りをしていたんだと思うんだけれど、もう認めねぇーとなって。今なら分かるから今なら胸を張って言えるから、俺は美九音をどんな物よりも家族や友人たちの誰よりも大切に思っている」


「と、知泰、やっと言ってくれた……ウチ、嬉しい」


 腕の中から一度抜け出して正座していた美九音が、涙を浮かべて再び腕の中に飛び込んで来るのを、しっかりと受け止める。


「もう……離さないでね?」


 胸の中で泣きじゃくる美九音の頭を優しく撫でながら、もう一度言った。


「見ていてくれ美九音。俺もたまには本気出す、たまには俺のカッコイイところを見せてやるからよ」


「うん。でも何時も何時も知泰は別にカッコ良くなくてもいいの。だって本当は知泰がカッコイイ男の子だってこと、他の女の子たちが知ったらちょっと困るもん。でも……今日はカッコイイところ見せてね」


 ついさっきまで怒ったり泣いたりしていたとは思えないほど、憂いに満ちた蕩けた表情を浮かべて美九音が俺を見て頷いた。


「ぬらりひょん、待たせちまったな。そろそろ始めようぜ、あんたの終わりをさ」


 胸に顔を刷り付けている美九音の肩を掴んでそっと距離を取る。腕の中から引き離された美九音は、離れる最後の一瞬、名残惜しそうに俺の服の袖をギュっと掴んで直ぐに離した。


「知泰? 無理しないでね……。こいつを倒したら、こ、こここ、今夜はウチがあんたに、ウチの、お、おおお、女の子の大切な……、と、とっておきのクリスマスプレゼントをあげる。だっ、だから精々が、頑張りなさいよね……」


「あゝ、お前からのプレゼント楽しみにしてる」


 美九音の「頑張って」って言葉は魔法の言葉だ。どんなに弱っていても疲れていても、こいつの言葉が俺に活力をくれるのだから。


 当主争いが始まった頃に、こいつの「頑張りなさいよねっ」って言葉が無ければ、とっくの昔に様々な事を俺は諦めていたんじゃねぇーか、と思う。


 最後に美九音の頭をポンポンと軽く撫で、ぬらりひょんとの戦いに向かう。頭を撫でられた美九音は可愛らしい狐耳をへこたれさせ、くすぐったそうに目を細めた。


 俺は可愛い幼馴染みから、これから対峙するべくぬらりひょんの方に視線を移した。




 ちょっと待て何時の間に……。


 ぬらりひょんに視線を移して俺は驚愕した。なぜならぬらりひょんの周囲には無数の妖が集まって来ていたんだ。


「貴様らがイチャコライチャコラしている間に儂も妖力の回復が出来たわい。大技の後じゃったからの正直、儂ほどの妖と言えども七霧が相手では、直ぐに仕掛けられていたならば、ちと辛かったのじゃが助かったわい小僧、勝機を逸したと思え。小僧が九尾の娘とイチャコラ時間を費やしている内に、儂のしもべたちが集まって来よったわ。小僧は兎も角、九尾の小娘よ、失念していたわけではあるまいな? 儂が数多の妖を束ねる首領だということを。貴様らは儂に勝つ万に一つのときを失ったのじゃ」


 ぬらりひょんから挑発とも受け止められる言葉を、美九音は動じることなく受け止めている。いや寧ろ「それがどうした」と言わんばかりの表情でむらりひょんを見据えている。


 そしてその視線を俺に向けた。


 美九音の眼差しは俺への信頼に満ち満ちたそんな目だ。


 美九音の信頼に応えるべく俺はぬらりひょんにこう言ってやる。


「あんまり俺をなめるなよぬらりひょん。俺は今、無性に腹を――」


 ぐぅ~。


「なんじゃ小僧? 腹の虫が鳴いておるぞ?」


 しまったっ! これはしまりましたよ俺。そういえば昨夜から何も食べてねぇー! 腹も立つているがそれよりも腹が空いていた件。(´・ω・`)


 ダメだ腹が減り過ぎて力が入らねぇー。


〔我が主様よ……、やれやれじゃな、なんということじゃ情けないのぅ。主が動けねばわらわを纏っていても戦えぬではないか〕


「小僧よ、なんだその体たらくは。七霧の神纏いも小僧では恐るるに足りぬということじゃ。儂が直接、手を下すまでもない男じゃ貴様は。我が僕たちよ……七霧の小僧を屠れ」


 ぬらりひょんの言葉が終わると同時に無数の妖が襲い掛かってくる。


 俺は襲い掛かって来る妖に背を向け、残っているすべての力を振り絞り一目散に走り出す。


「……失望したわ七霧 知泰、神纏いの小僧よ」


 ぬらりひょんの叱責の言葉も嘲笑も今は良い。それよりも妖力を使い果たしているはずの美九音を比較的安全な場所、紅葉や未美たちの下へ連れていく。


 ぬらりひょんが率いる妖の群れに追い着かれるよりも早く辿り着きたい。


「美九音っ」


 しかし力無く地べたに座り込んでいた美九音に飛び込む様にして、がっしりと抱き締め地面に伏せるのがやっとだった。


 もう動く力は俺に残ってない。


 美九音や紅葉、未美、犬飼姉妹の妖力が戻るまで俺の体がどうなろうとも、それまで美九音の盾にならなくちゃカッコ付かねぇーんだよ。


 縋る様に兄貴たちが居る結界の方へと視線を向ける。


 結界の中では紅葉と未美が兄貴に向かって何かを言っている様子が映った。


 ……俺は何を甘ったれてたんだ。


 兄貴は一度は俺を助けたけれども二度も助けたりはしねぇーだろう。そんな甘い人間じゃねぇーからな兄貴は。そんなことは当主争いをしていた俺が一番知っているはずだ。


 せめて紅葉たちの妖力が戻り結界の効力が溶けるその時まで、俺は持ち堪えなけりゃならねぇーんだ。


「知泰? ウチを守って……」


「大丈夫だ。幸い今の俺は椿姫を纏ってる。そう簡単には死にはしねぇーよ。(たぶん)」


〔我が主様よ。少しくらいはぬしの身を守れても、わらわはあくまで主の刃じゃ、防御としてはそんなに持たぬぞ〕


 椿姫の言葉を裏付ける様に妖たちの鋭い爪や牙、何かの武器や道具が背中の肉を切裂き、削ぎ、引き裂かれる感覚と殴打される重い打撃の痛みを感じて意識が飛び掛ける。


「知泰っ、しっかりして。ウチは大丈夫だからウチを庇うのを止めて逃げなさいっ!」


「嫌だっ断る」


「……お願い逃げて、逃げてよ知泰っっ」


「んんなこと、で……きるわけねぇーだろ。そんなこと出来るはずがねぇーだろっ! やっぱり俺はカッコ悪いままだけれど、せめて俺にもカッコ悪いなりに少しくらいはカッコつけさせてくれよ、なあ美九音?」


「……バ、カ。今の知泰、凄くカッコイイよ」


「そ、そうか? なら良かったよ」


 ……意識だけは途切れさせるわけにはいかねぇー。けど体の力が抜けて急に寒くなってきやがった。まあ冬だし寒いのは当たり前か……。


 だけど寒い、寒いってもんじゃねぇーな? 凍える感じに近い身も凍りつきそうだ。これってそろそろ俺の命は限界なのか?


 薄れて行く意識と視界の中で、俺の下に居る美九音の叫び声と蒼白になって涙に濡れた泣き顔が映り込む。


 美九音の可愛らしい顔に白い雪が舞い降りて、涙に濡れた顔を更に濡らして行く。まったくとんだホワイトクリスマスになっちまったもんだぜ。


 ごめん。あとは頼んだぞ。大神 紅葉、黒井 未美、犬飼楓、犬飼 柊。お前らの友達を助けてやってくれ。


「ぎゃぁーーーーっ」「ひやぁーーーーっ」「ぐるぅあらーーーーっ」人の背中で喚き散らすんじゃねぇーよ、クソ妖ども。


 あゝ、急に体が軽くなってきやがった。妖たちに群がられて、石臼でも背負わされてるみてぇーだったのによ……、いよいよ俺も死ぬのかな。


「お待たせ知くん、狐。あたしが来たからにはもう大丈夫よ」


「御主人様、御姉様。遅くなったわ」


 この声は紅葉と未美か? 良かったよく間に合ってくれた。


「でも猫も狼もあんたたち犬も、こんなに早くどうやって妖力を……ウチまだ戦えるほど戻ってないのに……」


「それは知くんのお兄さんが力を貸してくれたのよ」


「兄貴が?」


「七霧くん。この犬飼 楓があなたのお兄様からの伝言を承って来たから伝えるね」


「兄貴の伝言?」


「楓だけずるいよ。柊だって承ったのにっ! 七霧くんに伝えるのは柊なんだからっ」


「はいはい。楓はお姉ちゃんだから柊に譲るね」


 珍しく仲良し姉妹が喧嘩かよ? まあ喧嘩するほど仲が良いって言うし、案外こいつら喧嘩してんのかもな。


「七霧くん、お兄様からの伝言を伝えるね」


「頼んだわ柊、私は紅葉ちゃんたちと妖を蹴散らして来るわね」


「うん楓ちゃん、そっちは任せたっ。じゃあ伝えるね、七霧くん」


 ―― 知泰、お前も知っている様に七霧は古の退魔の業を統べる一族だ。確かにその術の多くは妖をほふわざだが、それは逆に妖を活かす業でもある。お前にはまだ分からないかも知れないが何れ知るだろう。お前に目覚めつつある“神纏い”の真の力を知れば何れ分かる。しかし分っているのかいないのか知泰、お前は既に妖を活かす術を知っているようだがな。 ――


「だそうよ。じゃあね私も楓たちと妖を蹴散らしてくるね」


 犬飼 柊も元気いっぱいで紅葉たちと共に妖を蹴散らしに飛んで行った。


 ほんと元気になって何よりだ。あれか? 雪が降り出したから喜んでるのか? 犬は喜び庭駆け回るってか? あいつら犬だし。


 でも兄貴の言葉……。俺が妖を活かす術を知っている? 兄貴の言っていることがさっぱり分からん。


「知泰、何時までウチの上に乗ってるのよ、まあいいけど……、命掛けでウチを守ろうとしてくれたから、今日は特別にゆ、許したげる……」


「悪りぃ美九音。でも動けなくて……ははっ」


「なに卑屈な笑い方をしてんのよ、バカ。怪我してるだろうから許してあげようと思っただけだからっ! 勘違いしないでよねっ。で、でもう、動けないんだったら、し、仕方ないわよね? も、もうしばらく……ウ、ウチに被さってこのまま、ギ、ギュってしてれば? ウ、ウチも知泰をギュってしたげるから……」


 美九音の腕が脇の下を潜って背中に回った。


「あんたってば、こ、こんなにも傷付いちゃって……ウチのことなんて放って置いて、さっさと逃げれば良かったのに……」


「そんなこと出来るわけねぇーだろ? ちょっと前にも言ったけど俺はお前が大切なんだよ誰よりも。お前が居なくなるのが嫌なんだよ」


「そ、そ? な、なら仕方ないわね……」


 お互いに動けない状態で仲睦まじく抱き合っている状態のまま、暫し見詰め合っていたのだけれども、美九音の視線が外れた。


 真っ赤な顔してるから照れてるんだろうけど、実は俺も結構照れてる。だけど暖かけぇーな。美九音ってこんなにも柔らかくて暖かかったんだ。


「姫様、七霧様、遅ばせながら銀狐衆が馳せ参じました」


 凍えそうに感じていた体が温められている様に感じていると、視界の外から聞き覚えのある声が聴こえた。


「ちよっ、ちょっと銀狐三人衆? じゃ、邪魔しないでよねっ……じゃなかった。知泰の怪我を診てあげて、相当酷いことになってると思うけど、あんたたち銀狐衆は秘薬って持ってないの?」


「姫、我ら銀狐三人衆は人間が言うところの“忍”でございます。薬売りに化けて旅をしながら情報を得るのが妖狐一族での我らの仕事でございました。薬に関してはお任せ下さいませ。しかし我らの薬だけでは治が遅うございます故、とある御方をお連れしております」


「知泰鬼ぃちゃ~ん。大丈夫?」


「あんたは座敷童」


「はい姫。宇敷 枢殿の結界のお力を借りれば我らの薬の効き目も数十倍、数百倍となります故に、お連れいたしました」


「そ。座敷童に銀狐衆、お願い。知泰を助けて」


「勿論だよ。九尾のお姉ちゃん」


「来たばかりで疲れているところ悪いんだけど、早速始めてくれる」


「御意」


 銀狐衆は治療に当たる1人、更に集まって来ているぬらりひょんの軍勢と戦う紅葉と未美たちの加勢に1人、結界に集中している座敷童の護衛に着いた。


 座敷童の結界の中で治療が始まると美九音は俺の傍にぺたんと、とんび座り(女の子座り)をして、俺の手をギュッと握った。


「ねぇ知泰、さっき言ったことほんと? そ、その……ウチが誰よりも大切だってゆったこと、ほんと?」


「あゝ、お前は大切な幼馴染みだからな」


「と、ととと、知泰のバ、ババババ、バカーーーーっ!」



 To Be Continued

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