変態サンタとわろえない狐 6
鍛冶妖一本だたらの果南の苦い思い出をポケットに詰め込んだ俺は、果南ちゃんにこんな酷いクリスマスを味あわせた変態サンタの後を追って、彼女が示した逃走経路上にある次の標的だと思われる雪女の真冬さんの従妹の雨降らしちゃんこと雨宮 紫雨ちゃん、店員番号027番が住んでいる家に向かうが、一足遅く被害者をまた1人増やしてしまった。
「トモトモ遅いよぉ~もう変態サンタ逃げちゃったよぉ」
頬を膨らませ眉尻を上げて怒っている紫雨ちゃん。
ここでも俺は聴いて置かなくてはならないことがある。本当は聴きたくは無いし興味もないんだが、一応これも手掛かりとして入れておかなければならない情報だからな。
「で、紫雨ちゃんはどんなパンツを盗られたの?」
「お気に入りだから何着か買い置きしてたぬこさんのバックプリントがある可愛いやつだよぉ。今も履いてるぉ」
どうでもいいが、その語尾に小さい「ぉ」を付けるのを止めろっ、頭が悪そうでイラっと来る。
「酷いよトモトモ、なんでそんなこと言うのぉっ!」
「そんなことどうでもいい。今は変態サンタの身柄を早急に確保することが一番だ。だからパンツ見せろ」
「ええっ!? それって必要事項なのぉ~」
「あゝそうだよ。変態サンタを捕まえた後に、被害に遭ったみんなにパンツを返すときに、知らないと困るだろ」
「ぅう~ん……わ、分かったよぉ、見せればいいんでしょ見せれば……」
プリプリ怒り顔を急速に顔を赤らめた紫雨ちゃんは、俺から顔ごと視線を逸らすと、スカートの裾を摘まんでゆっくりと捲くり上げた。
「こ、これで……良いのぉ?」
「ダメだなそれじゃ良く分らねぇーよ、脱げ」
「分からない分からないっ、パンツ脱いで確認される意味が私には分からないよぉ!」
黙れっ! 四の五の言わず俺に脱いだパンツを寄越すんだ。これも今後の捜査に必要な事なんだ聞き分けろ。
紫雨ちゃんは暫し思案するも、この後バイト仲間が変態サンタの被害を被ることを心配して、捲くり上げていたスカートを下ろすと、その中に両手を入れてパンツを脱ぎだした。
それでいいんだよ。君の勇気ある行動が今後に起きる被害を少なく出来るかも知れねぇーんだからな。
紫雨ちゃんの手の中で丸まったパンツを受け取り、じっくり特徴を記憶した。
「証拠の提出に協力してくれてありがとな紫雨ちゃん」
俺は捜査に協力してくれた礼を言って、紫雨ちゃんから渡された証拠品のパンツをそっとポケットに押し込めた。
「も、持っていくのぉ! ひ、酷いよトモトモ……、あとで真冬お姉ちゃんに言い付けてやるんだからねっ」
バッカお前、なにチクろうとしてんだよ?
「分かったよ紫雨ちゃん。はいこれ」
一度は証拠品として没収したパンツをポケットから取り出して紫雨ちゃんに渡してやった。
「ぅん……ありがと」
自分のパンツを両手に握り締めて恥ずかしそうに礼の言葉を述べる紫雨ちゃんに、俺はこう返した。
「いやお礼を言われることじゃねぇーよ。そんなことより紫雨ちゃん、1+1は?」
「にっ!」
パシャ。
「えっ? なに今の音……って、えぇっ! ちょっと私のパンツ」
混乱する紫雨ちゃんの手から証拠品のパンツを引っ手繰るようにして返してもらった。
「いいかい紫雨ちゃん? 真冬さんにチクったら、今撮った写メ、ネットで拡散するからな。俺だって本当はこんなことしたくはないんだが、これも乙女の敵である変態鬼畜サンタを捕まえるためなんだ分かってくれるよね? もしこのまま捕まえることが出来ずに万が一にも紫雨ちゃんの身に何か起きたら俺……その方がもっと辛いからさ」
「……ぅん、なんだかもう誰が変態鬼畜サンタなのか分かって来た、違った、分からなくなって来た気がするけど、ぅん、分かったよぉ。トモトモ? 私の心配してくれてありがと、優しいんだね」
ふんっ、このチョロインめ。
俺は紫雨ちゃんのパンツをポケットに捻じ込み、その後に聴いた紫雨ちゃんの証言を基に、次なる標的と予想される妖の一反木綿こと店員番号003番、織村 麻美ちゃんのところへと向かったが、麻美ちゃんのところでも一足違いで変態サンタに後れを取ってしまいまたもや苦汁を舐めさせられることになった。
麻美ちゃんのところでのやり取りは割愛させて貰うことにして、俺は麻美ちゃんの提供してくれた脱ぎ立てパンツをポケットにそっと詰め込んだ後、彼女からの情報を基に次に変態サンタが向かうだろう、場所をこれまで美九音に誤解をされ無視され挙句の果てには着信拒否までされるという代償を払ってまで得て来た「あいす・ありす」の子たちの住所や趣味、行動範囲や食べのに関する好き嫌いやどんな男が好みなのか、はたまた彼氏いない歴とか持っている下着の数なんかの情報を基に、予想し先回りすることにした。
変態サンタの奴は以外にも効率を重視する記当面なところもあるみたとうことが、これまでの足取りで分かってきた。
奴は必ず彼女らそれぞれの住居をひと筆書きの様に繋いで回っている。
そうなると今度の標的は、麻美ちゃん家から一番近い子の家じゃなく、麻美ちゃん家の真北に位置する場所に行くだろうと予測する。
少し離れてはいるが大通りを北上したところには、おっぱいの大きい子が多い「あいす・ありす」には美九音と共に異色ではある店員番号005番の“奇跡の絶壁”ぬりかべちゃんこと平壁 千早ちゃん、バストサイズ76のところへ向かうはずだった。
しかし千早ちゃんのところへ行ってみれば俺の予想は的中したものの、またもや変態サンタに先を越されてしまった。
「ちくしょ!」
「知泰くん? そんなに落ち込まないで欲しい。あなたは良く頑張ってくれているわ」
「ち、千早ちゃん……でも悔しいよ俺」
まただ。また俺は彼女らを護ることが出来なかった……。
「大丈夫、きっと皆もあなたに感謝しているわ。だからそんなに落ち込まないで」
肩を落としている俺の肩に手を乗せて、労いの言葉を掛けてくれる千早ちゃんバストサイズ76。
「でもやっぱり悔しいじゃねぇーか……、誰一人護れずに千早ちゃんも護れず俺はなんて不甲斐ない男なんだろうって……もし千早ちゃんの身に何か起きてからじゃ遅いってのにっ。ちくしょうっ!」
なぜだか分からんが少し赤らんだ顔をして熱を帯びた潤んだ瞳で俺を見詰めている千早ちゃん。
「うんん。あなたの予想は正しかった。それに……知泰くんが駆け付けてくれるから、私たちは誰一人として大事にならずに無事でいるわ」
「千早……ちゃん。俺、俺……」
「知泰くん、ほら泣かないで。あっそうだ、こ、これ、ちょっと恥ずかしいけど必要なのでしょ? ちょ、ちょっと待っていてね」
そう言って千早ちゃんは、自らパンツを脱いで俺に手渡してくれた。
「ち、千早ちゃん……」
「え、えと……お礼なんて言わないで、恥ずかしいから」
「うん、ありがと。一生大事にするよ」
千早ちゃん、君がくれたこのパンツのこの温もりは一生忘れません。
「えっ? いや一生大事にって……あ、後で返してくれるんですよね?」
「一生大事します。一生大事に保管しておきます」
「今、知泰くん二度言った? ……二回目は保管って言った?」
「ありがとう千早ちゃん。俺、少し元気が出て来ました」
「いやだから後で返してくれますよ……ね?」
「すみません千早ちゃん俺、急ぐんでこれで」
「ちょっ、ちょっと知泰くん待って! 待ってってば」
俺は千早ちゃんの呼び止める声に後ろ髪を引かれながら、温もりが残るパンツをポケットに仕舞い次の場所へと急いだ。
しかしその後も俺の予想をあざ笑うかの様に変態サンタは次々に俺の一歩先を行く。まるで俺の予想を予測して楽しんでいる様でもあり、俺の取る行動パターンを全て予想し把握されている様な、そんな気持ちの悪い気分にさせられる。
もうほぼ全ての女の子のところを回った結果がこれだ。あと残る子は……美九音だけ。
しかし肝心の美九音の居場所だけは俺も予測出来てなく、これじゃあいつのところに向かうことも出来やしねぇーじゃねぇーか。
着拒されている俺に美九音の居場所を探す手立てはない。頼れるのは美九音の足取りを追ってくれている紅葉と未美だけだ。
何も出来ねぇーことがこんなにも辛いなんて感じたのは初めてのことだ。焦りと苛立ちは募るばかりで何も出来ない歯痒さが俺の不安を煽りたてて来るばかりだ。
変態サンタの奴は美九音の足取りを把握しているのだろうか? もし把握されていたとしたら……俺はあいつのところへ駆け付けてやれねぇーのに万が一、美九音に何かあったら……くそっ! ぜってぇー許さねぇ―からな。
もしあいつに何かしやがったら変態サンタ、お前は俺がどんな手段を用いてでも、必ず地獄に送ってやるから覚悟しておけよ。
「おふぅ♡」
その時、流石にほぼ全員の女の子のところを回って証拠品、捜査の手掛かりとして収集してきたパンツはポケットに入り切らなくなってしまい、サンタクロースの必須アイテム白い袋に移し空になったポケットで俺の股間を刺激するエッチな振動が……否、サイレントモードにしてポケットに捻じ込んであった携帯が震えた。
慌てて携帯を取り出し着信が誰なのかも見ずに電話に出た。
「み、未美かっ」
「うおっ……びっくりした。知くん、そんな大きな声を出さなくても聞こえるからね」
「お、おう、悪い。それで美九音の居場所は分かったのかどうなんだよっ」
「だからそんなに声を荒げないでよ。ちょっと……ちょっとだけ悲しくなるじゃん……狐が羨ましくなるじゃん」
なに言ってんだ未美の奴、こんな時に?
「もういいよ……バカ。き、狐だけどね、あの子はもうお父さんと妹さんのところに向かったみたい。……それでね?」
なんだか歯切れの悪い口調で未美が付け加えた言葉が俺を不安な気持ちにさせていく。
「そ、それで……なんだよ」
「えと……実は知くんには黙っていたことがあって……えとね、狐の奴、明日の朝一番の飛行機でお父さんたちと海外に行くかも……」
「えっ何だって? 海外って……旅行?」
いや俺、そんな話は聞かされてねぇーんだけど……。
「……ごめん知くん。別に狐に口止めされていたわけじゃないんだけど、言えなかったというか知くんはもう知っているか、狐が自分の口から言うと思ってたから……」
な、なんだよ? 一体なにがどうなってるんだ?
「あの子のお父さん、来年早々に海外出張が決まったみたいで、それで留学の手続きをするかもって……」
「そんな……嘘、だろ?」
そんな……そんな大事な話をなんで俺に話してくれねぇーんだよ、美九音っ。
To Be Continued