やはり肉球いっぱい 俺の学園祭はまちがっている 4
我が2年9組は新学期早々に起こった大神 紅葉と樺木野 亜貴帆というふたりの美少女転校生キターーーーァ騒動も一段落ついて来て日常を取り戻そうとしている。
しかしその短くも平和な日常に終わりを告げる時期がやってくる。
いやまあ表立ったざわめきだけが形を潜め、その押し沈めたざわめきを秘めつつ、到来するこのチャンス期間を機にそれぞれ意中の異性に密かに、また秘密裏に表向きは潜めたざわめきをメラメラと燃やしているのだろうけどさ。
というもの9月初頭のこの時期に2年9組の教室ではとある会議が行われている。いやまあ2年9組に限ったことでもないんだけれども……。
それというのも本格的に秋も深まって来る10月半ばに我が陽麟学園では陽麟際というものがあるんだが、つまりは学園祭、言い換えれば文化祭、そして体育祭といった学校行事が近付いて来たということだ。
全生徒が各学年が各クラスが個人が、はたまた割り振られた自陣営が力を合わせ団結し協力し気持ちを一つにしながら、成していく学校行事最大のイベントと言ってもいいだろうな。
「知泰、あんた。「力を合わせ団結し協力し気持ちを一つに」って言ってること同じよね、それ」
隣の席に座っている美九音が冷たい声で突っ込んできやがった。
どうも夏休み明けから美九音の奴の態度がやけに冷たい。夏休みの間はあんなにもデレてやがったくせに。
まあそれはさて置きマンモス校である陽麟学園の1学年は1クラス40名程で普通科12クラスを始めとし特進クラスが1、スポーツ科が6、芸術科が2、音楽科が2とクラスが分かれている。
こんな大所帯の学園で年間行事が秋に二大イベントを続くとなると、日程を別にして行うことは会場を始め学園の運営側にしろ生徒、それに来賓や陽麟際に訪れる地元や市街からの来客人数を考えれば安全面での配慮や学園祭自体の準備期間を含めた時間的も余裕が無く会場確保も難しくなってくる。
そんなわけで陽麟際というのは文化祭と体育祭を纏めて一度にやってしまう。
その開催期間はまるっと一週間にも及ぶことになるものだから、年度が変わる4月には直ぐに実行委員会が立ち上がり、執行部を加えた各クラスから選ばれた実行委員たちは既にその頃から長い準備期間を確保して動き出しているわけだ。
そして本日のHRで話合われているのはクラスで執り行うことになるクラス展示についてであるが、展示と言っても表向き、名目上であって文化に因んだ何んらかを研究考察して発表しなければならない、というかたっ苦しいものじゃない。
模擬店や演劇など、ゆる~い協議と審査を経た学園側の許可は必要になるけれど、陽麟際は基本的には生徒主動で自主的によって執り行われる行事だ。
「それではHRを始めます」
眼鏡にナチュラル七三分けのクラス長、鈴木君(通称:めがね君)が教卓に立ち議事の開始を宣言した。
「本日の議事は一か月後に執り行われる陽麟際のクラス展示についてです。皆、案を出し合って議論してください」
鈴木君の後ろではボーイッシュな短い髪の毛が似合う副クラス長の佐藤さんが短いスカートの端を揺らしながらリズミカルに黒板に向かって議題を書き込んでいく。
「はいっは~いっ、猫カフェが良いと思いま~す」
後方から聞こえてくる元気の良い声に釣られて振り向くと、ツインテールが特徴の俺も良く知っている女の子、未美が目を輝かせて身を乗り出していた。
なにも立ち上がらんでも……。
未美の出した案にクラスのあちらこちらでざわめきが起き「猫、可愛いよね~」「子猫とか超カワイイ」など隣り合った女子たちが話す声が聞こえてくるが、男子はどうも盛り上がってねぇーな? 猫超可愛いのに。
「猫カフェか、いいかもな」
俺も猫カフェがいい猫超好き。猫超かわいいし超癒される。
「へぇ~知泰。あんたそんなに猫が好きなの?」
隣から低い憮然とした声が聞こえてきた。声の主は勿論、俺の幼馴染みの美九音さんなのだが、どうやら御機嫌が宜しくないようである。
なに怒ってんの? お前。
「おおっ、俺、猫好きだぜ。っつーかお前知らなかったっけ?」
「なっ……し、知ってたけど。あ、あんたって動物好きじゃん。でも――」
「と、知くん♡ それほんと? あたし嬉しい」
小声で話していた上に更に萎縮して行った美九音の声に大声が被さった。
びっくりするじゃねぇーか。
声の主に振り返ると未美が(♡ ▽♡ )←こんな顔をしていた。未美の奴、なにがそんなに嬉しいんだ?
「御主人様?」
今度は俺の前に座っている紅葉が疑問を投げかけて来る。まだまだ人間界については疎い紅葉のことだ大方「大方猫カフェってなに」とでも聞くつもりなんだろう。
「んん? なんだ紅葉」
「御主人様は猫派? 犬も可愛いわ犬も」
大事なことだから2回いいましたって感じだな紅葉。いったいなにアピールなんだ? 愛犬家アピール?
「ん~? そうだな犬も可愛いよな」
俺の言葉で紅葉の顔が華やいだ。
「どちら派ってわけでもねぇーよ。動物は大体すきだしな、まあでもどちらかというと俺は猫の方が好きかな?」
俺の次の言葉で紅葉の頬が膨らんだ。
「狼はもっと可愛い」
紅葉よ。流石に狼カフェは無理だぞ? 日本にはもう狼居ねぇーから集められねぇーし。
「御主人様のバカ」
紅葉が醒めた目をして俺を睨み付けた後、そっぽを向いてしまった。
紅葉にしてみれば寂しい話だもんな? そりゃ他の同族に会いたいんだろう。気持ちは分かるけど無理なものは無理。
「はぁ~……。ほんとあんたってさぁ~……まあいいわ、言うだけ無駄だもん」
あれれ? なんで美九音まで醒めた目で俺を見てんの?
「えと他に意見が無いようでしたら2年9組のクラス展示は猫カフェに決定しますが?」
暫く様子を窺がう様に鈴木君が言葉を止めた。
おい男子共、本当にこれでいいのか? 俺的には猫カフェウエルカムなんだが、でもほら学園祭でクラスがやることなんて、大体のラブコメや学園物だったら決まってるだろ? ったくよ、このクラスの男共はだらしがねぇーな、学園祭という気持ち的に開放的になる行事を大義名分にして、日々の煩悩をリアル化するチャンスじゃねぇーか、ほら誰か言えよ。
男子は皆、女子の様子を窺がっていて、どうも言い出し辛いようだ。
女子も女子で、てめぇーら男子、メイド喫茶とか猫耳喫茶とか言うなよ(怒)と目が言っている。諺の如し目が口ほどに物を言っている。
……仕方ねぇーな気は進まねぇーがここは俺が言ってやるとするか。いやほんと気が進まねぇーんだけど。
だって後で美九音に怒られるのは火を見るより明らかだし。
しかし俺は言うぞっ言っちゃうぞ! 身近な女子が赤面しながらコスを着る、こんな機会を逃してたまるかっ。
そして俺は意を決して手を挙げた。
「では七霧くん」
「猫カフェもいいんだけど、同じカフェなら他にもあるよな? おっ〇いカ――ぐふ……」
熱い想いの長を熱弁する前に、隣から拳が飛んで来て俺の顎を確実に砕いた。
「あがあがあが……」
「知泰、あ、あああ、あんたウチに喧嘩売ってんのっ! もうほんとなに言ってんのっバッカじゃない? そんなの却下に決まってんでしょっ! そ、そそそ、そんなのウチが不利だし……」
ちょっと美九音さん? お前がこれまで学校で装っていた御淑やかキャラが完全に崩壊してんぞっ! っつか顎、超痛い。
「……で、では他に無いようですので、猫カフェ運営についての詳細を――」
早々と次の議事に入ろうとしていたクラス長の鈴木君の声を遮った奴が居た。
その男の名はタジマハール。渾名を多嶋 陽という奴だ。
「七霧。俺はお前の無謀なまでの勇気に猛烈に感動したっ! 俺は猫耳メイドカフェを提案するっ!」
俺も馬鹿だがこいつも相当馬鹿だ。
知ってはいたけど更に冷たい目になっている女子の前で良く言えたもんだな? まあ俺の所為なんだけども。
副クラス長の佐藤さんが意見は意見だし仕方ない、みたいに溜息を吐きながら黒板に猫耳メイドカフェと書き留めた。
お、おい佐藤さん? 俺の意見は何故書き留めない。
「ちょっといいですか?」
俺とタジマハールの意見に堪忍袋の緒が切れた、と言わんばかりの不機嫌さの籠る女子の声が隣の席から聞こえた。俺の隣の席は一つしかねぇーから不機嫌な声の主と言えば美九音なんだけど。
「はい。久遠寺さん、なんでしょうか?」
「猫耳メイドカフェって猫耳しか駄目なんですか? それって不公平だと思います」
頬を膨らませ眉を寄せて抗議する美九音ちゃんの姿があった。っつーか美九音っそっちがお前の不機嫌の元だったのかよっ!
「は? それはどういうことでしょうか……」
「だって狐耳の方が可愛いもん」
ああ、そっちね。世間の猫耳崇拝が気に入らなかったのね、狐だもんなお前。
「はい……えと、大神さん?」
真面目に美九音の意見を聞こうとしていたクラス長の鈴木君は暫く顔を固まらせていたが、言葉を発せずに手を挙げていた紅葉に気付いたようだ。
紅葉よ、今俺は感動している。
人見知りのお前も自分なりにクラスに溶け込もうとしているんだな?
「狼も可愛いわ」
……ごめん紅葉。やっぱり今の無しな。
「いや大神さん? 他にクラスでやりたいことってありますか? ほら前の学校でやっていたことなんかでもいいですよ」
紅葉の発言にまたまた硬直してしまったクラス長の鈴木君に変わって副クラス長の佐藤さんが議長の代行した。
「……やってみたいことならあるわ」
ヤバイな。紅葉の奴だからきっと、とんでも無い事を言い出すに決まっている。
なんと言ってもあの大神 紅葉だぜ? 俺もこいつの奇行だけは把握し切れねぇー。幸い紅葉は俺の前の席を文芸部の青木君に強引に譲ってもらって(横取りともいう)俺の前に居る。いざとなったら後ろから口を塞ぐしかねぇーな。
「演劇……演劇をしてみたいわ」
あれ? 紅葉がまともなこと言ったぞ? 恥ずかしそうに下を向いて、あの紅葉が「演劇をしてみたい」と言った。
「おい紅葉? こっち向け」
「なに? 御主人様」
振り向いた紅葉の顔を両手でグッと引き寄せた。
「ご、御主人? あっそうね……」
何故か納得して目を閉じる紅葉さん。
周囲からの、特に美九音と未美から殺気の籠った視線を感じるが、確かめておかなきゃいけないことがある。
目を閉じたままの紅葉の顔に俺は更に顔を近付ける。
紅葉の艶やかな可愛らしい唇から吐き出される甘い吐息を感じるほど近くに顔を近付けて行く。
「と、ととと、知泰っ!」
「知くんっ!」
紅葉の小さな顔が近付くに連れ絹の様になめらかで長い桜色の髪の毛から漂う甘い香りが鼻孔を通り抜け、滑らかな髪の毛が肩口から零れ落ちて俺の頬を撫でた。
周囲のざわめきが耳障りだな。
「熱はねぇーみたいだな紅葉」
紅葉の額に俺の額を付けて確かめた結果、紅葉は熱にうなされて真面なことを口走ったわけではなさそうだ。
「ふぅ~……、良かった~あんたが狼にチューしたら、ウチあんたを殺してたところだったわ」
俺が紅葉から額を離して距離を置くと、紅葉は美九音に頬を抓られ引っ張られていた。
美九音に頬を引っ張られながらきょとんと首を傾げていた。
「ご、御主人様……」
今なにが起こったのか分からない、そんな感じで俺を見ていた紅葉の顔が急に赤く染まり出した。
「御主人様からキスしてくれようとするなんて私……狐に摘ままれた気分よ。寧ろちょっと唇が触れたわ」
いやキスしてねぇーし寧ろしようともしてないし、お前は正真正銘、実際に狐に摘ままれているんだが……。
To Be Continued
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