やはり肉球いっぱい 俺の学園祭はまちがっている 1
学園祭を控えた俺たちはそれなりに忙しい。
時間も無いと言うのに超監督様が納得行ってみたいで自主制作映画の取り直しを検討中なのである。
なので忙しい超忙しいのではあるが少しだけ学園祭までにあったことを踏まえて欲しい。
というのも夏休みが終わり俺たちの前にまた新しい妖が現れた。
彼女の名は樺木野 亜貴帆。まだ彼女の目的が何んなのか、何の目的でこの学園に来たのかは定かではない。
そしてあいつもやってきた。
騒動と共に大神 紅葉がついに陽麟学園に転校してきやがった。
とりわけ面白い話でもないのだが、その話を少しの間聞いて欲しいと思う。
高校生の俺たち、全てが何らかの様々な新しい体験をしただろう、名残と貴重な体験の記憶を残した長い夏休みが終わった。
各いう俺も夏休み明け2日目の今朝方に運命の出会いフラグをリアルで体験する嵌めになったんだが、現実に朝っぱらからトーストを齧りながら、激走してくる女子なんているなんて思わなかったもの。
運命のフラグっつても相手は俺の幼馴染みで、その正体は狐耳とフサフサの尻尾を持つ大妖怪、白面金毛九尾の狐でもあるところの久遠寺 美九音、その人であったのだが……。
まあいろいろあった俺のひと夏の体験は置いといて、多分、多分だけれども夏休みに入って、地元の夏祭りやらで浴衣姿の女子を見る事になった野郎どもの中には、これまで意識の外だった女の子なんかとも仲良くなって意識し始めたりして、また受験の準備に入った生徒なんかも夏期講習で一緒になった同校の生徒同士や他校の生徒なんかも仲良くなって、付き合い始めた奴らも多いんじゃねぇーか?
大体において夏休み明けには誰と誰がくっ付いただの付き合い始めただの、または別れただのという色恋沙汰の話題に花が咲いただのリア充爆発しろっ、と言いたくなる光景ばかりだ。
中には「内緒ね♡」とか言いながら初体験を済ませた、って話す声のボリュームを落とすこともなく行なわれているガールズトークや内緒話をしている様子を教室や休み時間の廊下や階段の踊り場など所々で見掛けたりもする。
まったく内緒話になってないんだが……。
今年の俺の夏休みといえば、なにがどうなればこうなるんだ? ってくらいに肉球でいっぱいの海に行ったり、あっ、もう言うまでも無いと思うが、一応言っておく事にする。
肉球と言っても女の子のおっぱいじゃねぇーんだなこれが、いやまあそいつらにはおっぱいもあるんだが……、そいつらも外見は一応、普通の女の子なんだけれども、獣系の付喪神、即ち妖っ娘たちが体の一部を、例えばケモミミ出したりケモシッポを出したりするのと同様に獣化したときの手の平にある肉球だぞ?
そんな妖っ娘たちと出掛けた海で犬神一族の女の子に突っ掛られたり、退魔師の野郎に出会ったりもした。
地元に戻れば海で突っ掛って来た犬神一族の1人で狼の付喪神である女の子、大神 紅葉に撃され殺されそうになったりもした。
その後で大神 紅葉に懐かれたんだが、こいつがとんでもない妖怪変態エロ美少女だったんだけどな。
それに一番の出来事と言えば御存じの通り鬼一族の一派であるいくしま童子の襲撃に遭い、家は崩壊するは幼馴染みの妖っ娘で、今は余り妖力は無いらしいんだが、あの大妖怪白面金毛九尾の狐の転生体であるところの久遠寺 美九音が巻き込まれ拉致られたり、それを助け出すために体を張っていくしま童子一派とバトったりした。
終いにはなにをどう間違ったんだか幼馴染みの美九音とは結婚式を挙げるわ、短い期間だったけれども住処を失って本家に帰れない事情がある俺は美九音の実家でお隣さんでもある久遠寺家に居候することになって美九音とプチ同棲まですることになった。
そして三学期の初日から様々なことがあったもんだぜ。
姉さんと幼馴染が何の意地を張りあって修羅場になるし、紅葉と未美からは告白されるしでいったいどうなってるんだろうな?
そして今日は今日とて朝っぱらには喧嘩中の美九音の野郎が、なんの嫌がらせなのかは分からんが、目覚ましに細工しやがった挙句に、遅刻すると勘違いして慌てていた俺を駅に向かう商店街の四つ辻で待ち伏せしてやがった。
喧嘩の原因って程でもないんだけれども、妖界だけの事だけと言えども紛いなりにも結婚式まで挙げちまった美九音とは幼い頃から一緒にいる。
いつも一緒、気が付けば傍にいる。
これが結構、曲者で余りにも近過ぎて見えない気持ちや分からなくなってしまった気持ちに“結婚”というまだまだ大人に成り切れてない俺たちには荷が勝ち過ぎている言葉を切っ掛けに気付いちまったんだ。
本当にこれでいいのか? 俺はこいつを……とか柄にもなく考えちまって美九音との距離をちょっぴり開けたかったことから結婚式云々は無かったことにしてくれと申し出た。
それは俺が美九音との距離を見失いそうで怖かったこともあるんだけれども、それがどうも美九音には気に入らなかったみたいだったけどな? その後はママゴトみたいな結婚に終止符を打って一応は元の鞘に戻して幼馴染みというこれまでとなにも変わらない関係で落ち着いた。
というわけで新学期2日目の登校になる本日、俺への嫌がらせに運命の出会いフラグを装って待ち伏せしていた美九音と並んで登校する羽目になっているんだ、なぜこうなった?
相変わらずこいつと一緒に歩いていると周囲からの視線が痛いぜ。
まあ今日は美九音の悪戯のお蔭で、やたらと早い時間に家を出たからまだましな方なんだけども、中にはクラブの朝練とかで登校してくる陽麟学園の生徒や近隣の高校なんかの生徒たち、特に野郎共の視線が俺様の敏感肌を刺激する視線を送ってくるんだよ。
同じ学校に通う生徒たちからは「七霧マジ死ねよ」って無言のプレッシャーを感じるし、他校の生徒からは、なにこいつ? 冴えない面してなにとびっきりの美少女を侍らせてんだよ「マジ死ねばいいのに」って言葉を代弁している視線が突き刺さってくるんだよな。
改めて目は口ほどに物を言うってこれのこと? もう慣れてるんだけども。
住んでいる場所は離れたけれども、これといって何一つ変わらない、いつもと同じ様に登校し2年9組の教室に入った。
まだ登校しているクラスメイトも居ない教室はやけに静かだ。
美九音といえば俺となにを話す訳でもなく、視線を合わす事もなく自分の席に着いて手鏡を出して、綺麗に纏められたポニーテールのチェックや前髪なんかを弄ったり直したりしている。
やがて時間は進み、ちらほらと登校してきたクラスメイトたちと挨拶を交わしたりしている内に、賑やかになって行く教室に黒井 未美が入ってきた。
「おはよ知くん♡」
「お、おう未美、おはよ」
いつもの様に交わしている朝の挨拶なんだけれども、未美は顔を赤らめているしなんだかお互いに照れ臭い。
というのも昨日、未美にはっきりと気持ちを伝えられ唇を奪われてしまったんだよな……。
「知くん、腕の方は大丈夫なの?」
未美が俺の両腕にぐるぐる巻かれた包帯を見て、上目遣いに視線を合わせた。
「おう。まあお蔭様でなんとかな」
「えへへ♡」
照れる未美の脇では美九音が「ぐぬぬぅ」と犬歯を剥き出しにしている。
おー恐えぇ恐えぇ。
一応説明しておくと俺の腕に包帯が巻かれているのは、昨日に姉の飛鳥と一線を越え……違った。一戦を交えた際に七霧古道体術奥義“神縫い”とその上位技であるところの“双連神威”を久しぶりに使った所為で腕の筋肉やら筋やら血管やらがズタズタになったんだよ。
未美の奴が浮かべる可愛らしい照れ笑いに見惚れていると、教室のドアが開かれると同時に騒がしかった教室のあちらこちらに散らばっていた生徒が一斉に自分の席に着いた。それを見計らって「起立っ、礼」と級長が礼を先導した。
「は~い皆さ~ん。朝のホームルームを始めますぅ~」
相変わらずのロリボイスで教壇に立っているのは、2年9組の担任でもあり、その正体は濡れ女という蛇の妖、水無月 波音ちゃん。
「皆さ~ん。始めに今学期から皆さんの仲間に加わることになった転校生さんを紹介しますぅ」
この時期にまた転校生? あっ!? 紅葉の奴か。
「では樺木野 亜貴帆さん」
廊下で待っていたのだろうか波音ちゃんに呼ばれた黒髪を三つ編みに編み上げた瓶底メガネの女子が教室に入って来た。
あれ? 紅葉じゃねぇーのか? そういえばあいつ、ちゃんと登校して来てんだろうな?
紅葉が転校してくることは知っていたから、俺はてっきり転校生っていうのは紅葉のことだと思い込んでいたんだが……。
それにしてもうちの学校は時期が外れても転校生が多い。流石は切ってのマンモス校で、一応は名門校で名が通っているだけのことはあるぜ。
「初めまして樺木野 亜貴帆です。皆さん仲良くしてくださいね」
三つ編みメガネの典型的委員長キャラの女の子が頭を下げて挨拶をした。
To Be Continued




