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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 連載1周年記念
101/130

~ 眠り姫 ~ その10

 未美が俺に向けた切実な願いが籠った言葉に、決して言葉には出さないが強い思いで応え、未美の言葉に詰まった想いを噛み締めながら紅葉の下へと向かっていく背中を見えなくなるまで見送って、鎌鼬をね付け、闇に溶けるかの様に黒いローブの様な物を羽織って立っている鎌鼬に対峙した。


 さてと俺も始めるとしますか?


 未美を紅葉の下へ遣ったのは他でもねぇー。これから俺が見せる戦いを未美や紅葉たちには見せたくはないからだ。


 俺は出来損ないでもいにしえから続く退魔師の家に生まれた人間だ。


 紅葉もみじ未美みびたちの様に折り合いを付けて人間界で生きることを選んでいる妖たちに、どんな形であれ人間が妖の“敵”である、というところを余り見せたくはねぇーんだよ。


 俺だって姉さんとの戦いで何も学ばなかったわけでもねぇーし、あれから何もしてなかったわけでもねぇーし、それなりに力をつけている。


 2年生に進級した春に学校に現れた鬼とのバトルでは、何とか戦いを優勢に進め鬼を追い込みながらも、あと一歩のところで斬首出来なかった甘さを知った。


 夏休みには美九音みくねが浚われたいくしま童子が率いる鬼一族とのバトルでは冷静さを失いって自我の暴走を許し、赴くままに無意識の中で術も未熟なまま七霧の秘術“神纏い”を解き放とうとした(らしい)。


 どちらのバトルも美九音が助けに入ってくれたお蔭で俺は命拾いしたし、美九音を慕う妖どもの力を借りて事無きを得てこれた。


 でも今、美九音はいねぇー。だから俺一人の力で今回ばかりは何とかしなくちゃならねぇーし、いきなり火狸と対峙することになって苦戦必至の紅葉を1人で戦わす訳にもいかねぇーんだ。


 ヘタレで弱っちい俺の意地とかつまらない男のプライド、だって笑われるかも知れねぇ―けどさ? 巻き込んでしまった紅葉や未美に傷一つ付けさせはしねぇーよ。


「解せねぇーな?」


「なにが……ですの?」


「鎌鼬? なぜお前は俺がチンタラ回想を交えている隙に斬りかかってこねぇーんだ」


 浮かれて無防備だった美九音の背中は斬りやがったくせに解せねぇーんだよ。まさかとは思うが向かい合った俺には桃〔ぱきゅ~ん〕郎侍に出てくる脇役でも気取ってんのか?


「なっ……なぜそれをっ!? ファンなんですぅーっ! 般若の面にサインして欲しいくらい桃〔ぱきゅ~ん〕郎侍のファンなんですっ!」


 気取ってた……だと。 


 しかも成敗され斬られる脇役の方を気取ったのかよ。なんてマニアっくなことをっ!


「いやぁ~、恐れ多くも桃太郎役の高橋〇樹さんのポジを、あの名台詞を真似るわけに行かないでしょ? 桃ファンとしてそこは不可侵の領域なんですのよ」


 知らんわそんなもんっ!


「ところで鎌鼬、なぜ美九音を狙った? なぜあいつを斬った? もしお前らの真の目的が九尾の狐の転身体である美九音なら術をかけたりして生かしておいたりはしないはずだろ? お前らの後ろにいる人間の陰陽師って野郎は、もしかして最近、鬼一族の四天王の封印を解き、その頭である酒呑童子の封印や九尾の狐の封印まで解こうとしている術者なのか? それとも真の狙いは七霧である俺を誘き出すために美九音を傷付け、眠りの術をかけたのか?」


「そんなこと素直に答える、とでも思っているのかしら?」


「いいや、答えねぇーだろうな」


 至極当然のことだ。端っから答えて貰えるなんて思ってなかったさ。誰がそんなことを期待してるんだっつーの。


「良く分っているじゃない? それなら最初から野暮な質問なんて止めt――って、えっ?」


 言葉半ばまで聞いたところで、怒りの余り反射的に火絶銀狼丸で闇を斬る様に薙ぎ払って、鎌鼬の眼前まで刀の切っ先をピタリと切っ先を止めた。


 端っから答えなんてどうでも良いんだよ? 


 たださ、美九音が奴らの真の目的なのか、それとも俺が目的なのかどうかだけは、出来ればはっきりさせておかなけりゃなんねぇーと思ったんだよ。


 鎌鼬の答えが前者なら俺はこの戦いで阿修羅になるかも知れねぇ―。でも後者なら美九音の前にこいつらを生かしたまま引っ張りだして術を解かさせた、そのあとと一緒に頭を下げさせてやらねぇーと気がすまねぇーんだ。


 あいつを巻き込んでしまった俺も同罪だからなっ。


「……っ」


 鎌鼬は一瞬、怯んで苦々しく舌打ちを打った。ほぼ同時に鎌鼬が纏っていた黒いローブの重ね合わさった裾がハラリと肌蹴はだけ、白く染まった大地へと落ちて行く。


 落ちるローブの下に隠れていた鎌鼬の容姿が現れる。


 若草色の髪の毛に鳶色の瞳、見た目の年齢は俺たちと変わらないくらい、身長は美九音や紅葉と然程変わらなく見える、なぜか超ミニの忍び衣装くのいちを纏った美少女が両手に鎖鎌を持ったいた。


 一見すればスレンダーだが出るところは、たゆんと出ていて……、いや細身で頼りない体つきの様であるが鍛え抜かれ洗練された無駄の無い体、その体を守る忍び衣装の重ねからは着込んでいる編み目模様が重なりあった鎖帷子が肢体に密着していて何だかエロい……、いや重いはずの鎖帷子を羽毛の如く着込み、ミニの衣装からしなやかに伸びる白い太腿辺りまでを覆い、とても鎖鎌などの殺伐とした武器などを持つに相応しくない、両腕には手の甲から肘にかけて籠手が着けられ、若草色の髪の毛には可愛らしい小さな獣耳とミニ忍び衣装の布を押し上げながら揺れる獣の尻尾を晒していた。


 鎌鼬の正体は見惚れてしまうほど白くしなやかな肢体、均整のとれた顔立ちのくのいちケモミミ、ケモシッポを有する美少女だった。


 あぁ~あ、ほんと嫌になるぜ。


 何でこんな美少女と戦わなきゃならねぇーんだ? 美九音よ、後でこの代償はきっちり払って貰うからなっ!


「どうしましたの? わたくしの美しさ、可愛らしさに屈服するなら許してあげてもよろしくてよ?」


 けっ誰が。悪いが俺はケモミミ、ケモシッポの美少女には慣れてるんだよ。初心なネンネじゃあるまいし、今更そんな魅力に屈服なんかするかっつーの。


「……ねぇーよ」


「えっ? 聞こえませんわね。もう一度言って頂けます?」


「俺に屈服の二文字はねぇーってんだよっ」


 次の瞬間、俺は手の平を地に着け低い姿勢で頭を地面に擦り着け「だから俺を踏んで下さいーーーーっ」と叫んだ。


 いわゆる土下座である。


 だってさ? 可愛いは正義だもん。


「変態キメェーーーーっ」 


 唖然としていた俺の頬を撫で通り抜けて行く冷たい風に、鎌鼬の若草色の髪の毛をアップに結って留めている金柑の簪きんかんのかんざしと両前に長く下りているロールした髪の毛もふわりと揺れた。


 驚きの余り彼女の頭の天辺から爪先までを舐め回す様に……、いや地上に降りて来た天女でも見る様に何度も往復させてしまっていた。


「なっ!? お、お前ぇ、な、ななな、なにを見ているのですかっ」


 鎌鼬が俺のエロい……、いや蕩けた視線に気付いて、自分の身を守る様に両腕で細い肢体を抱いて斜に構えた。


「なにをそんなにわたくしをエッチな目で見ているんですっ」


 そんなに怯えなくてもいいのに。(´・ω・`)


「し、忍び衣装がそんなに珍しいのですか?」


 いや寧ろ興味があるのは中身であって、衣装にはそんなに興味ないんだが……。


「余計に乙女の危機を感じて怖いですわっ!」


 鎌鼬が身を守っていた両手を開いて鎖鎌を構え戦闘態勢を取り直した。


 ちっ……美少女を相手に戦うなんて俺の性には合わねぇーんだが仕方ねぇー。


 俺は学生服の内側に手を忍ばせ――。


「忍びクナイ? ちょ、ちょっと七霧に忍びの技があるなんて聞いてないですわよ」


 懐に忍ばせてあった最終兵器リサールウェポン、マネー諭吉さんブロマイドを財布から手始めに3人ほど抜きだした。


「……なっ!? なぜ今、お金を出したのですっ? しかも何気に微妙にリアルな枚数ですわよねっ。「交渉はここからだ」みたいなっ」


 微妙……だと? 俺はこれでも学生なんで、さん諭吉はちょっと痛いんだぞっ。いやかなり痛いんだけど。


「そんなことは聞いてないですわっ」


 まったく……可愛らしい顔して強欲な女だぜ。仕方ねぇーな、この件についてはあとで七霧に必要経費として追加の仕送りを要求するか。


「ほれこれで手打ちにしようじゃねぇーか? 鎌鼬、お前も綺麗な肌を傷つけられたくはねぇーだろ?」


「……5枚に増やして……だと」


 まだ足りねぇ―っつーのかよ? このアマお高くとまりやがってパネェ~。


「ここはこれで大人しく俺に身を委ねてくれねぇーかな?」


「……更に倍……出した、だと。この男やはり七霧ですわね、財力を活かしてのマネーパワーを使うことに躊躇いがないですわっ」


 おいおい、命は金に換えられねぇーんだぞ? ここは大人しく俺に従っておけば万事、上手く収まるんだって。


 手にした諭吉さん10人を美少女鎌鼬の前に差し出しながら近付いた。


「い、いやぁーーーーっ! 来るなっ、来ないでっ! 初めては好きな人にあげたいですわっ。お金の問題じゃありませんわ」


 美少女鎌鼬が手にしている鎖鎌を闇雲に振るい出し、静かに雪が舞い降りる闇の冷たい空気だけを切裂いて暴れだした。


 そんなに暴れんなやっ! 大人しくしていれば痛い目に遭わずに済むっつーのによっ。


「あ、あなたっ今、悪い人が浮かべる笑みを浮かべてましたわよっ。きゃぁーっ来るなっ来ないでっ! きゃぁーきゃぁーっ」


 尚も鎖鎌を振りかざして闇雲に暴れる美少女鎌鼬さん。


「……っ」


 鎖鎌の刃は空気だけの空間を切裂いていたはず、だった。しかし確かに今、俺の頬を切裂いて通り過ぎて行った鋭い斬撃があった。


 暫くの間を置いてから頬からは生温かい血が流れ落ち始め出した。


「ほぇ? ……な、なんですの? 急に頬なんか紅潮させて」


 いやこれって血で赤く染まってるだけなんだけど……。


「はっ!? おっほほほっ。引っかかりましたわね、おバカさん。わたくしの風の刃は目に見えませんわ。見えなければ避けることも出来ませんわよ?」


 美少女鎌鼬が俺に起こった異変に気付き冷静さを取り戻した様だ。


「どうしても交渉には応じて貰えないようだな?」


「あ、当たり前ですわっ」


 交渉決裂。


 ほんと俺は女の子と血で血を洗う戦いなんてしたくはねぇーんだよ。


 それが例え妖であろうともだ。


 でもこうなっちまったらもう仕方がねぇ―よな? 


「力尽くでやらせて貰うっ」


「強姦魔!? 本性出たーーーーっ」


 だから違うっつーの! 折角、俺が提案した平和的解決策を反故にしたのはお前だろっ。


「お金で解決だなて、援〔ぱきゅ~ん〕は平和的解決じゃありませんわっ! 犯罪ですわっ」


 何の話だ? っつてももう刃を交え始めちまったからには、戦うしかねぇーのかよ。




 鎌鼬が繰り出す見えない風の刃を鎖鎌が薙がれる動きだけを頼りに軌道予想し躱すしかない。とはいえ速い攻撃を全て躱し切れる訳もなく、確実に被弾し切り傷は増えて行く。


 もう制服がボロボロだぜ。


 とはいえ戦い初めてから、いや戦う前から鎌鼬から殺気を感じねぇーんだよ。だから交渉に出てみたんだが……。


「どうかしら? わたくしの鎌鼬現象は、見えない刃は恐ろしいでしょう。 しかしあなたは良く躱しましたわ。それに免じて降参しなさい、そうすれば命だけは助けて差し上げますわよ?」


「……するかよ。お前の鎌鼬、見えない風の刃はもう俺には通じないぜ?」


 解せねぇーんだよ。なんだこの殺気の無さは? なんだよこの悪戯の延長線みたいな温い攻撃は? 鎌鼬現象を引き起こし作り出す風の刃とは、即ち空間に真空を作り出た際に起こる真空波による見えない刃での攻撃は予測不可能じゃねぇーんぜ? 最初は分からなかったが鎌鼬現象を起こし風の刃を発生させる際に、必ず二振りの鎖鎌の太刀筋は通常の鎖鎌を振るう時の物とは違っている。


 それはそうだよな? それなりのエネルギー運動を生じさせて真空波を作り出さなきゃならねぇーんだから。


「なら躱して貰いましょうか? わたくしが繰り出す最大級の鎌鼬を。言っておきますが躱せなければ、あなたの体は真っ二つですわよ」


 わざわざ宣言して大技を繰り出してくれるなんて親切な奴だぜ。真空波を起こして見えない刃が来ることだけは分かるってもんだけれども、見切るための一番の肝になる見極めるポイントを解消してくれるなんてよ。


 しかし躱し切るには見えないことは最大の難点でもある。見えなきゃその刃の質量おおきさが分からねぇーから、どれだけ避ければいいのかどれだけの距離を躱せばいいのか分からねぇーからな。


 でもさ? 見えなきゃ見える様にすればいいだけのこと、だろ?


 美少女鎌鼬が鎖鎌を持った腕を交差して構えた。


「では参りますわよ」



 つづく

御拝読アリガタウ。

次回もお楽しみにっ!

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