九尾な女の子 1
雛仲 まひるです。
俺得作品ですが拝読くださる皆様に楽しんで頂ければ幸いです。
ではどうぞ><
イラスト:久遠寺 美九音 絵師様:TOTO様
「さあみんなっ! ちょっと? 九尾が始まるわよっ。ウチの前に跪きなさい」
狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子
清々しい春の朝、小鳥の囀りと窓から差し込む柔らかい日差し、そしてけたたましい目覚ましの――バシッ☆ っと景気のいい音と頬の痛みで目を覚ます。
爽やかな朝って……って、おい。
「こらっ! いつまで寝てんのあんたはっ」
「うぼぉぁ!? おまっ……お前なっ」
バシッ☆
「うっさい黙れっ」
この女は人の話なんて聞きゃしない。何時も何時も問答無用である。
「ほらもう早く起きないと遅刻するよ。今日からウチら高校2年生になるんだから、ちょっとはあんたもしっかりしてよねっ。……ぅんとにっ、だらしないんだからっ」
目覚まし代わりのビンタをくれた女に、ぐいぐい手を引かれ布団から強引に引きずり出されて、ベットから半身を乗り出した。
「痛てぇっ、手離せっ」
「ふん。ちょー可愛い朝イチ、美九音ちゃんボイスをシカトして寝ているからよっ」
体半分ベットから出た、という中途半端なところで手を離されドタッと床に顔面から着地し床とモーニングキスをする俺。
俺の初めてを返してっ!
強かに打ち付けた鼻と目覚まし代わりのビンタを喰らって、ヒリヒリ痛む両頬を摩りながら顔を上げ寝惚け目に映り込んだのは、物凄い形相で両手を腰に当て仁王立ちしている女の子であった。
この女の名は久遠寺 美九音。 こいつにはちょっとした秘密がある俺の幼馴染だ。
短い制服のスカートから伸びる美脚は白いニーソックスに隠れていても分かる程、キュっとしまった足首と無駄な肉が付いていないしなやかな腿を、グッジョブ……もとい。けしからんニーソックスのゴムに締め付けられ、ムチッと零れ出した絶対領域から覗く艶めかしい魅惑のしなやかな太もも。
そして両腿の付け根でチラリと見え隠れする最近背伸びし始めた美九音のおぱんちゅ――。
コホン。
ストライクウィ○チーズでいうところのズボンが見え隠れしている。
ちょっと見でも分かるプリッと張り出した上向きの尻、最近妙に女らしくなってきた括れた腰、まぁ可もなく不可もなくって言ったところで成長を止めたと思われる残念極まる胸――!?
ぎゃぁーーーー!
「今なんか言おうとした?」
そ、そして人間の姿には、大よそそぐわないアイテムが蜂蜜色の髪に、ひょっこり姿を現わしている。
美九音の感情が高ぶったり、気を緩めたりすると出現する獣耳と尻尾が見える。
キリリッと凛々しく耳を立て、御自慢のふさふさ尻尾を何時もの三倍近く膨らませ、短いスカートの裾を盛大に持ち上げながらワッサワッサと苛立たしげに揺らしていた。
どうやら御機嫌麗しくない御様子の美九音さんを見上げる。
ゲシッ。
「さっさと布団から出るっ」
ついさっき褒めたばかりのしなやかな足を惜しげもなく顔面にくれやがった。
「ご、ごめん、なひゃい」
おお痛てぇ。……油断ならねぇな、この女だきゃー。
伊達に長い付き合いをしてねぇってこと? 俺の顔を見るだけでなにを考えているのか分かっちまうの? ったく……俺の幼馴染は何時からこんな凶悪に育っちまったんだ? そっかそうだった俺失念してたわ。
そう、こいつは…… 妖 、九尾の狐だった。
ゲシッゲシッ。
「あぁぁんっ? なんか文句あるっ?」
「……いえ別に」
そして背中まで伸びた甘ったるい匂いを放つ、蜂蜜色の長い髪を後ろ側で纏めて大きな赤いリボンで結わえ、雪原の様な白い肌に乗る赤い色の大きな瞳を鋭く細めジト目にして、俺を蔑む目で見下ろしている。
「さぁ早く起きなさいよねっ」
「わぁーったよ。起きます、起きますからっ」
そんなに蔑んだ目を向けないでくださいお願いします。
心機一転、新しい始まりの朝から俺は泣きそうだよ……。
名残惜しい我眠りの園よアディオス。
毎朝寝癖でボッサボサになる頭をガシガシ掻きながら、不機嫌面全開で立ち上がる。
こいつだきゃぁ毎朝毎朝、理不尽な起こし方しやがって、一度ガツンと言ってやらねぇと……。
意を決して精一杯強い言葉を紡ぎ出した。
「あの……美九音さん?」
「なにっ」
ギロッ。こんな擬音がしっくり来る鋭い眼差しに、俺のチキンハートはブレーク寸前になるね。
「なんでもないっす……」
弱っ、弱っ! 俺弱っ!!
「なら、いいけど?」
恐ろしさの余り反射的に視線を逸らす俺。
怖えぇー超怖えーって、美九音ちゃん思春期特有の触るものみな傷付けるみたいなフレーズがしっくりとくる研ぎ澄まされたナイフのような眼光を向けられてチビるかと思ったぜ。
「ウ、ウチね、頑張って早起きして朝ご飯作ったんだぁー。あ、あのね? ……そ、その、ね? 知泰は朝弱いから今日も朝抜く、かなぁーって思って」
……?
「おお……サンキュ」
なに? なんの嫌がらせ? ころっと急変したこいつの態度にとてつもなく嫌な予感しかしないんだが……。
つい先程までの不機嫌美九音ちゃんボイスから打って変わって、胸の辺りで指を捏ねくりながら俺の顔色を窺がう様に、上目使いで恥じらいブリっ子美九音ちゃんボイス全開で顔を赤らませ俯いている美九音の姿があった。
「うん。そんなのいいよいいの。……あのね、ウ、ウチね? 気付いちゃった、んだよね……きゃっ」
なんだか様子がおかしい。
変な妖でも食ったのか? それとも拾い食いでもしたのだろうか、美九音がこんなにしおらしいわけがねぇ。さてはなにか企んでやがんなこいつ。
「どうした美九音? 拾い食いでもしたのか?」
「もう知くんのバカっ。ウチの気持ちが分かんないの? ウチね、知くんがね? 好き、かも。何時も素直じゃなくてごめんね?」
と、知くん……だと。
凶悪な瞳は何処へやら一転、しょんぼりとへこたれた狐耳とパタパタと御自慢の尻尾をフリフリしながら、きょとんと小首を傾げ潤んだ瞳で見詰められると、思わずゴクリと唾を呑み込んでしまうほど可愛く化けてやがるな、こいつ。
「ねぇー知くん? ……チューぅ、しれっ♡」
な……なに? この可愛い生き物。
「な、なんだよ……み、みみみ、美九音、き、きき、きょ、今日は変だぞ?」
ヤベっ声が上ずっちまった。
「バカっもう知らないっ。ハズカシイなぁもぅ……。それより早くしれっ、お・は・よ♡ のチューしれっ」
パタパタと忙しなくふさふさ尻尾を振って、何時もは俺をこき使おうと企んでいる時に見せるオネダリの意を含んだ仕草と潤んだ瞳を閉じ、小ぶりな唇を更に小さくして突出しながらググッと顔を近付けてくる。
何時も踏んだり蹴ったりにされいる俺も、突如豹変しデレた幼馴染の余りの可愛さに再びゴクリと唾を呑み込んだ。
いやいや、いやいやいや、なに言ってんのお前? 幼馴染ってさ友達超えてもう兄妹みたいなもんだろ? それにこいつ妖だし、今までそんなこと(チュー)一度だってした事ねぇじゃん。
そっか分かった。お前なんか嫌なことがあってトチ狂ってんだな? そっかそっか分かった分かった。
さては何処かで拾い食いして食べ過ぎたんだな? 育ち盛りだし食欲が増す春だし、高身長でスタイル良い割りに、一点においては成長期失敗しちゃってるし、俺が一人暮らし始めてから今朝みたいに、たまにガラにもなく甲斐甲斐しく朝食とか、夕飯とか作ってくれたりとかするようになって自分の好物だけつまみ喰いしたりしてるよな?
料理をするっつーか主に買ってきたお惣菜を皿に盛り付けるだけだし、目玉焼きを作ろうとした形跡が残る中央だけがスクランブルエッグや野菜丸ごとサラダとか出すけどなお前。だいたいこんな時って決まって新しい服とか買わされたり、俺の大事にしていた物を壊してたり、いろいろ無理難題etsets強請られるけどなっ。
んな訳で食い意地張ってるお前は、ついつい味見し過ぎてお太りになられたのな美九音ちゃん。そんでもって最近毎日体重計に苛められでもしているんだろ?
そう言えば昨夜、家に来た時ニコニコおはよー∠(#`Д´)/プリン今週分俺の分まで全部たいらげてたっけ……orz
そりゃ太るって。
そっか……やっと分かった今日のお前が「好き、かも」なんて言ったのも、俺に対して可愛らしい態度を取っている理由はそれね。
一応悪いとは思ってんだな――そんでもって今日の分が無いから用意しとけよコラって事ね。どんだけプリン好きなんだよお前は? それとも卵か、卵が好きなのか? そうだな狐とか卵好きそうだもん。
そう言えば近くの養鶏所に卵泥棒が入ったて聞いたけどお前じゃねぇよな? 卵やプリンくらい俺が腹いっぱい食わしてやるから早まんなよ。
だって嫌だろ? 幼馴染が卵泥棒とかさ。
世間一般で言うところの良く見なくても美少女の美九音は、俺の前では終始高圧的ではあるが、たまにほんとたまーにだけど、ドキッとするくらい可愛い仕草を見せる事があるから、こいつは性質が悪い。
騙されねぇーぞ俺は。
「んもぅ早くしれっ、お・は・よ♡ のチューしれっー」
くそっやっぱり可愛いじゃねぇかチクショウ! 覚悟を決め美九音の肩を掴み顔を近付けると、美九音は細い肩を小さく震わせた。
pupupu^q^
「ぎゃははっ。なにマジになってんの、あんた? ウチみたいな妖の中でもとびっきり気高く優美で賢くて可愛い妖、白面金毛九尾の狐が人間の雄如きに惚れるわけないじゃん。っつても……、ほら目は醒めたでしょ?」
こいつの腹パンァーンんてしてぇー!
腹を抱えて一通り大笑いし人を散々からかって満足したのか、笑い泣きして目に浮かんだ涙を拭うと美九音は短い制服のスカートの裾と自慢の尻尾をヒラリと宙に遊ばせ「いつまでもキツネに摘まれたみたいに間抜け面してないで、早くごはん食べてガッコ行こ♡」と嬉しそうに言って微笑んだ。
お前は正真正銘狐だけどなっ! それもとびっきり性質の悪い狐のはずなんだけども……。
っんと可愛い笑顔見せてんじゃねぇよチクショウ……。
ああもうああもう、ほんといろいろとチクショウっ! こいつの性格さえ最悪、最凶の妖じゃなけりゃ惚れてるっつーの! くそっ女ってやっつぁほんと分んねぇ。
その後、案の定「プリンが無いじゃんプリンくれないとガッコ行かない。直ぐ買って来てっ」と駄々を捏ねられたものの、なんとか宥め賺し言いくるめて平和的に朝食を済ませ、身支度を整えて学校へ向かう七霧 知泰、高校2年生16度目の春。
幼馴染と玄関を潜るとそこには春の蒼い空が広がっていて、心地良い清々しい風が大地を駆け春の香りと共に頬を撫で通り過ぎて行く。
今日も平凡な日常が始まるんだ。
To Be Continued
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