第50話 それから、これから
side:キヨシ
「だっからー、待ってって言ってるじゃないですかぁーー」
「話しぐらいどーですかぁ~。同盟は損させませんよ~~」
はいっ、こんにちは!! 絶賛逃走中のキヨシですっ!
魔王騒動から約20年、無茶やらかしたツケで文字通りの植物状態だった俺も、ようやく目覚めることができた。ルークと久遠もすっかり和解したようだし、物語の通りルークは勇者の娘にベタ惚れだ。問題っていえば、見てるこっちがイタイってぐらいなんで…。
俺の方も、魔王との一件で単体で動く方法も思いついたし、もうオールオッケーって感じだ。
とはいえ、いつまで続くかも分からずひとりっきり、というのは想像以上に辛かった。目覚めても誰も生きていないかもしれないのが恐かった。
だから、誰かに呼ばれたような気がして目覚めたとき、実際にトキがいたのは驚いた。それに、ちょっと…いや、かなり嬉しかった。
トキは俺が責任全部おっかぶったみたいなとこを気にしていて、ちょくちょく俺んとこに来てたらしい。待ってくれていたことにすげぇ感動した。俺自身、もう会えないかもしれないと思っていたから。
再会早々「殴らせろ!」ときたのはちょっと引いたけど、それだけ心配してくれたのだと考えると申し訳ないぐらいだ。なにせケントさんの話じゃ、10年も過ぎるころには霊樹とトキ以外諦めモードで、ほとんどが俺はもう死んだもんだと考えていたらしいし、待つだけでも相当つらかったと思う。本当に感謝してる。
…まあ、そんなこと本人には気恥ずかしくて言えるわけもなく「酒手向けるなんて、それこそ墓前みてぇじゃん。」なんて茶化してしまったけどさ。
それから、シンたち〈黄李の楯〉組や久遠たち勇者一行、ほかの人たちにも会いに行った。当然だけどおじさん、おばさんになってしまったのにショックを受けたり、成人前後の子供がいると知ってさらに驚愕したり…
そういや、魔術がそのまま使えてるのは驚いたな。ただ、魔道具は一時期不調だったらしいけど。
そんで俺自身は冒険者に復帰して大陸回ったり、いろいろやっている。みんなのことも気になるけど、晴れて自由の身だし、できる限り好きなことをやりたいと思ってる。
そんなこんなで、最近俺は、シュベリエの王都――あ、今は首都か――で屋台を気ままに引いてたんだ。ちなみに商品は、肉まん、餡まん、カレーまん!冒険者ならではの軽いフットワークを生かして大陸中から厳選した素材と低価格が売りだ。
けどまあ、その低価格が問題だったらしく〈商業同盟〉に目ぇ付けられちゃったんだわ。俺は冒険者稼業の傍ら、趣味半分でやってたし、小麦粉以外は原材料費0だから若干価格破壊だったんだろうな。
そのうち、なんでか〈冒険者協会〉には俺=霊樹キヨシだってばれちゃって。もともと冒険者に専念してくれって言ってたのが、今度は名誉幹部になれとか言うし…面倒極まりないだろ?
せっかく自由に動けるようになって、見た目年齢も変えて再登録したのにさあ。
というわけで冒頭なんだけど―――
「屋台の材料、定期契約しませんか~?お安くしますよ~」
「自分で獲りますんで、結構です!」
―――〈商業同盟〉しつこい!!
こんだけ回想しててまだいんのか!? 狸親父のクセにどんな体力だ!?
あー、もう、いっそのことレセビア大陸とかいっちゃおうかな。
カレーの味もまだまだ納得いかないし、米もみつけたいんだよな。粟とか稗の雑穀はあるのになぁ。
この大陸も回りきってはないけど、行ってみる価値はありそうだなあ。
「強気にでますねぇ~。後で痛い目見ても知りませんよぉ~~」
よしっ! 高飛び決定!!・・・犯罪はしてないけどな?
『えっ!?冒険できないんですか?』はこれにて一区切り、とさせていただきます。自分でも中途半端で、粗どころか穴ばかりだとは感じていますが、自分には正す技量もないように思います。受験期に入ることもあり、ここで一応の終りという形をとらせていただきました。
このような拙作を今まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。