第39話 同じ轍を踏み抜く
やや長いです。
でも話があんまり進んでない…。
side:勇者
「いいか。たしかに元の俺には匡って兄貴がいた。だけど、俺が知る限り、兄貴が名前を呼ばせるぐらい親しい奴に”久遠音羽”なんて人間はいねぇ。それにな俺のいた世界じゃアンタ、物語の主人公だぜ? もちろん、アンタの住んでたって設定の廿楽市なんてねぇんだよ!」
少年の周りでは轟々という音が聞こえそうなほどの魔力が渦巻いて木の葉や砂礫を巻き上げている。
ドサッ、という音に振り向くと魔力に耐性の少ない獣人族のセレナが青い顔をしてしりもちをついていた。「魔力あたり、みたいです…。」とセレナを診ていう治癒師のユナも顔色が悪い。普段通りなのは俺と、魔術師のクレハ、あとアリアさんくらいか。
…いや、俺も相当参ってるか。
正直 全然イミわかんねぇ。 俺がフィクションの主人公?コイツが俺の名前知ってんのはそのせいってか?…俺が死んだのも筋書、なのか?
たしかにこの世界が虚構じみてるとは思ってたけど―――
「っぐ…ゴホッ…キヨシ、君 落ち着いて。」
「…ぁ、うわッ!? ごめんケントさん! 俺、またやっちゃったのか…シュワさんも、エスピアさんも大丈夫!?」
赤毛の眼鏡をかけた男のエルフが、咳込みながらも声をかける。その顔色の悪さに底なしにはまり込みそうだった思考を止めた。
キヨシというらしい少年――姿で匡だと思い込んでいたけど、最初にキヨシだと言ってたな――も魔力を抑えて雰囲気も和らいだ。ケントというらしい赤毛のエルフを気に掛ける少年は見た目相応の幼さがある。
それにしてもあのエルフ、ひどく顔色が悪い。よく見れば少年とかなり太い〈魔力の糸〉がつながっている。アレが原因だろうか?
…と落ち着いたはいいが被害は大きい。そんな中冷たいとさえ言える落ち着き払った声がした。
「それで、”革新者”殿 お話というのはなんでしょう?
魔王が動き出した以上、勇者様を筆頭、私たち一同そうのんびりするわけにはまいらないのですが?」
――アリアさん…ここぐらいは空気読んでくれてもいいと思うんだ……。ちょっと、魔力にさらされたくらいでそんな敵対オーラ出さなくていいだろ…。
side:キヨシ
どうしよ、俺 またキレちまった……。ケントさんまだ本調子じゃないのに、ほかの人もなんか顔色悪いし
…なんで俺こうなんだろう、いつまでたってもガキのまんまで、前世のことも全然割り切れてない
今にも倒れそうなケントさんを支えて周囲を見回すと、ひどく申し訳ない気持ちになる。
そんな俺の気持ちを知ってかケントさんの念話はやわらかい。
=キヨシ君。君と勇者の過去の関係は僕には分からない。でも今の彼らは謂わばシュベリエの顔として来ているはず、あまり悪感情を抱かせちゃいけません。=
そうだった、俺も大使レベルの扱いだったんだ…と内心さらに深く頭を抱えていると妙に落ちついた風の声がした。
「それで、”革新者”殿 お話というのはなんでしょう?
魔王が動き出した以上、勇者様を筆頭、私たち一同そうのんびりするわけにはまいらないのですが?」
え、ちょっ…あの人もしかして"アリアさん"?
KYとかいうレベルじゃなくてただの鬼畜じゃねえか。ケントさんに注意されての今だけど怒ってもいいかな。いや、だめか…ここは大人なってかまともな対応してどうにか場を取り直さないとか。
「(フーー、無理な気ィする…)ゴホン…少し取り乱してしまいました。荒唐無稽と思われるかもしれませんが、私には”前世の記憶”というのがあるらしいんです。さっきのもそれでなんですが。
話しというのもそれに関してで、私はこの世界のことを物語として知っているのです――たとえば魔王の誕生とか勇者クォーン・トワの活躍だとか……人柱にされた先王の庶子のコトだとか―――」
最後のところでアリアさんの眉がピクリと動く。ほかの勇者一行の上には”?”が。
というか、こんなことまで知ってるなんてアリアさんって何者なんだ?同僚との差がありすぎじゃないだろうか?
「…それで?」
代表するように勇者が先を促すが、俺はちょっと躊躇ってしまった。
だって内容が内容だし、最悪切りつけられても可笑しかない…。
「―――勇者殿。魔王は今でこそ『ヒトを滅ぼす』という凶行に走っていますが、もとは目的あってのことなのです。『世界を危機から救う』という正義とさえ呼べるような目的が。」
”正義”という言葉に反応して殺気とも言えそうな敵意が向けられるが、ここまで来たらゆうよりほかにないだろ。
「その救済のヒントを知っている魔王を討っては根本的解決ひいては恒久的な平和あるいは繁栄は望めません。どうにか魔王を討たずに、できれば武力でなく話し合いで解決してほしいのです。
―――勇者殿はともかくとしても、事態悪化の原因たる〈シュベリエ王国〉にはその責任があるのでは?」
事態悪化云々は極端な言い方だがそれでも効果はあったようで、アリアさんと(たぶん)カミオさんは殺気が溢れ、ほかの面々の表情は驚愕と困惑に染まっていた。
※注)勇者が「ちょっと魔力に――」とか言ってたり、キヨシ自身「ほかの人もなんか――」と自覚がなかったりしますがそれはコイツ等2人の魔力がバカ高いからで、キヨシが撒いた魔力は一般人なら卒倒しかねない量となっております。