閑話 理の綻び、世の歪み
消しちゃったり、学校の課題だったりで更新できませんでした。
ホント申し訳ないです。
本話は「流し読み推奨・読み飛ばし可」です!
side:*****
〈シュベリエ王国〉のはずれ、とある寒村に美しい娘がいた。たいそう歌のうまい娘だった。
娘は世界の意思を聞くことができた、古の人々がそうであったように。
そんな娘も成人を迎え、かねてより思いを寄せていた樵の息子と祝言を挙げた。
リュートがうまい平凡だが気のいい夫、すぐに生まれた息子と幸せに暮らしていた。
ところがあるとき国王の使者を名乗る騎士がやってきて、娘を連れていってしまった。
国王ははじめ、息女が生まれるまでの病に伏した”予言の巫女”の代わりとして娘を取り立てようと考えていた。
しかし、娘の美しさに気が変わってしまった。
王は娘を城の奥に隠すように囲って帰さなかった。
王城に連れてこられてから2年がたったころ、娘は国王の子を身ごもったのに気付いた。
―――ちょうど正室ご懐妊が報じられていた。
ただでさえ夫への罪悪感を抱えていた娘、喜ぶ国王とは反対にふさぎ込んでいった。
優しい娘は子をおろすこともできず、かといって愛しきることもできなかった。
お腹が目立つようになってきた頃、娘は”魔術”を避けるようになった。
それだけでなく国へも魔術を控えるように進言してきた。「”大地”が嘆いている」と
その少し前とある宮廷魔術師が一つの具申書を草していた。
それは「魔術使用後に残留する”歪み”によって世界が悪影響をうけている」
そして、「そのために遠からず魔術が使えなくなるであろう」というものであった。
その具申は一笑に付され、魔術師は職を追われたが
娘の言葉にそれが思い出され、王の中でにわかに真実味を帯びていった。
* *
王城近くの森の奥、金髪の少年が美しい声で歌っていた。
歳は十ばかり――あの娘の息子であった。
帰ってこない娘をあきらめた男は村を捨て、息子とともに行商をしていた。
幸いに才もそこそこにあり、売れない時も息子とともに歌で日銭を稼ぐことができた。
その日は王都で大口の商談があった。暇を持て余した少年は城の周囲を見て回り最後にここにたどり着いたのだった。
ガサリ、と少年の背後の茂みがなった。驚いて振り返ると真っ白な少女がいる。
肌も髪も真っ白な少女は青い目をいっぱいに開いていたかと思うと頬を赤く染め「上手ね」と恥ずかしそうにつぶやいた。
胸の奥がじんわり暖かいようなむず痒いような気分になった少年は「じゃあ、歌ってやるよ」と照れ隠しをした。
王都に出向くたび少年はそこを訪れた、少女に会えることが多かったが会えないこともあった。
少年は少女が愛しくてたまらず「これは恋だ!」と、そう思っていた。
そうやって何年かがたったある日、少年はあることに気が付いた。
少女が最初に出会った時とほとんど変わらないのだ。しかも、最近では苦しそうに胸を抑えることもある。
心配になった少年はどうしてなのかと詰め寄った。
しばし問答があった後、少女は「信じてもらえないかもしれないけど…」と話し始めた。
「わたしね、この国の王様の娘なんだ。でもね、巫女様になれるぐらい魔力があるのに魔術が使えないデキソコナイなんだって。ユガミ?をね吸収しちゃうんだって。
それでね、世界に悪い影響をあたえるユガミをね、吸収しろって。
デキソコナイ、の王女、でも少しは、役にたつ、だろうって。
はじ、めは髪が、白、くなっちゃって…つ、ぎは、手で…。
もう、わたし、大きく、なれ、な、い、んだって。…うっうぅっ」
初めは何でもないことのように話していた少女だったが、次第に声がつまり最後は顔を覆って泣き出してしまった。
話し出したときは折り合っていたつもりだったのだろうが、少女が負うには重すぎた。
一方の少年は困惑した。到底信じられないが、少女が嘘をついているようには思えない。
少年は泣いている少女をなだめて家に帰し、とりあえず自分も宿に戻った。
きっと少女を助けてみせる、そう決意して。
そこからさらに二、三年。少年は吟遊詩人として各地をめぐりながら少女を救うすべを探し回った。
”歪み”の危険性を唱える学者にも話を聞いた。辺境の村の秘術を調べにも行った。
そして、〈スロキア国〉でとある可能性に出会った。霊樹という魔力でできた分身を作れる種族であった。
吸収した”歪み”を彼らのように使えれば…そう思って、王都に向かった。
世界というのは残酷なもので、彼がいつもの場所で出会ったのは少女ではなかった。
そこにいたのは彼女がいつも身に着けていた真っ白なワンピースを抱えた侍女と思しき女性であった。
女性はお化けでも見たような顔をして「あ、貴方名前は?」と聞いてきた。
「ルーク・マイレン。」むっとしたものの少女に何があったのだろうかと思い直し答えた。
「ルーク…マイレン…。――あぁ、ごめんなさいメリア様…」
小さく少年の名を繰り返し涙を流した女性から出たのはなんと少年の母の名だった。
「なぜ…」
困惑につぶやくことしかできないルークに女性は語り始める。忌むべき、事実を。
* *
彼女は少年の連れ去られた母メリアの侍女であった。
王の子を身ごもり衰弱していくメリアを彼女は献身的に看病したが、その甲斐なくメリアは子を産んですぐに亡くなった。
このメリアが産んだ子こそが彼の少女アリスであった。
大きな魔力に将来を期待されたアリスは、魔術が使えないとわかると疎まれ異母妹が生れると城の外の別邸に追いやられた。
それだけならまだよかった。
しかし”予言の巫女”が死に際に放った言葉がアリスの運命を変えてしまった。
『ヒトの不始末より出でたこの世の”歪み”、理を侵すならばその源を消すことを已むを得ん』
その言葉を証明するかのように部屋の魔素・魔力が消え魔道具も魔術も使えなくなったという。
王や大臣、貴族たちは予言が現実となることを恐れた。
すでに魔術は生活に深く根をおろし、国の運営にも不可欠であった。
しかし根本的な解決方法――”歪み”を無くす術は見つからない。
そんな中王の側近の一人がぼそりとこぼした「あの娘を使えばいい。」
”歪み”を吸収してくれる少女、彼らにとって実に魅力的な提案であった。
* *
「…実の御子であるにも関わらず王はソレを許可なさってしまいました。
宰相はアリス様の体に”歪み”を集める術式を刻ませました。まだたった、たった5歳であったのに…。
身に集めた歪み”はアリス様を蝕み、アリス様はつい先日…きっ、消えて、しまわれました……
…母君を、妹君をお守りできずっ、もうしわけっあ、ありませんでした―――」
国に代わって…と声を震わせる、侍女の言葉はすでにルークには届いてはいなかった。
怒りが、憤りが、悲しみが、絶望が、アリスに対する兄弟愛親愛を超えてしまった思いが
――溢れる激情が出口を求めルークの中で荒れ狂っていた。
まだ若くそれを御すことができないルークはその思いのままに魔力を放ってしまう。
何もしなかったこの女が、大切なものを奪った国王が、
それを許すこの国が、すべての根源たる理が、壊れてしまえばいいと願いながら…
”すべての根源たる理”つまり、魔術を壊すというルークの願いは、奇しくも世界の意志に沿っていた。
そして、エルフをして高いと言わしめる彼の魔力のほとんどをつぎ込んだソレは願いの対価足るものであった。
かくして、彼は魔法によって強大な力を得ることになる。世界の意志の代行者として
しかし正規に得た力が正しく使われるとは限らない。
真実を知り、荒み歪んでしまった彼の心は世界の意志とはずれた方向に進んでいく。、ヒトを滅ぼさんと