第1話 説明
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気がつくと、俺は何もない不思議な場所にいた。
まあ、俺がいる時点で何もないって言い方自体おかしいんだが。強いていうなら、前後左右、上下の感覚がさっぱり掴めない真っ白なトコ。
「………ここは、どこだ?
俺は死んだんじゃなかったのか?」
「死にましたよ。」
何ともなくつぶやくと、背後から答えがあった。
「はっ!?」
驚いて振り向くと、そこには黒い大きな鎌を持ち、真っ黒なスーツを着たサラリーマン風の男がいた。さっきまでいなかったはずのそいつはごく自然にそこにいて、俺の方を見ていた。
降ってわいたように現れたそいつを薄気味悪くかんじたものの、こんなおかしな場所ではなにがあっても不思議ではないと気を取り直し、現状を確認することにした。
……ただ、俺 こいつ見たことあるような気がするんだよな
「はぁ…、とりあえず状況説明お願いします。
それと、あんた誰ですか?」
「あぁ、自己紹介がまだでしたね。私こういう者です。
ちなみにここは”狭間”と呼ばれています。まぁ、三途の川あたりだと思ってください。」
そういって、そいつはどこからともなく名刺を取り出して渡してきた。
「……日本死神連盟(霊) 転生科 素晴? 」
「はい。日本死神連盟(霊)は日本で魂の数の調整や転生の管理を請け負っている死神の会社です。」
「………。」
死神ってことはアレか?俺が死ぬ間際にみたのもこいつか?
どうりであんなもん(鎌)持ってんのに周りが騒いでないはずだよ。
っていうか、死神に会社なんかあるのか。仕事内容も服装も死神のイメージからずれてるし、なんか役所の公務員みたいだな。戸籍関係とかさ。
まぁ、ある程度 現状もわかったし話を進めてもらうか。
仕事内容からして転生についてだろうな。でも、わざわざこんなトコよばれたんだからなんかあるはずだよな。最近のネット小説みたいに異世界転生とか冒険とかできんのかな。
…それはねぇか。
「えっと、素晴さん?
話からすると、俺 転生するんですよね?
なんでここにいるんですか?」
「えぇ、そうですが ずいぶん落ち着いていらっしゃるんですね…。
それでですね、あなたがここにいるのはあなたの今回の転生が特殊なので、説明と質問が必要だからです。」
「特殊?」
「はい。説明しますのであちらへ」
そいつが指さす先にはまさに会社にありそうな応接セットがあった。いつ置いたのやら、ホントでたらめだ。
「山口 清さん、あなたは前世で相当な善行をしたらしく転生先を決めることができます。記憶の引き継ぎも可能です。」
「!!それって魔法がある世界とかもあるんですか!?」
「えぇ。お望みの世界にいけます。もちろん、物語の中はストーリーが変わってしまうんで無理ですが、限りなく近い物ならあります。」
「マジ!?じゃあ、俺の読んでた『トワノウタ』っていう小説でも!?」
「はい、大丈夫です。記憶は引き継ぎますか?」
「はい!」
よっしゃー!まさか本物じゃないとはいえ『トワノウタ』の世界にいけるとはな。
魔法と剣の世界で冒険できるなんて夢みたいだ。
「記憶は転生したモノの自我がある程度できてから思い出すようになってます。
では、いってらっしゃい。」
その声を合図に俺の意識は薄れていった。
ただ、魔法と剣の世界への転生を喜んではしゃいでいた俺は気付かなかった。
「魔法が使えるようになる」とか「冒険できるようになる」とか、ましてや「転生するのは人間だ」なんて保障されていないってことに…
『トワノウタ』は全3巻+番外2でRPG風な世界で主人公たちが激闘、奮闘、葛藤する剣と魔法の冒険物語。