第36話 アトとサキと
戦闘描写はカットで(‐‐;
side:ケント
周囲はかつて駆け抜けたどの戦場よりもひどい有様だった。
炎は消えず、風は渦巻き、巨大な氷塊が横たわり、いたるところで魔術の残骸がくすぶる。
並んでいた建物は土台すら残さず瓦礫と化し、鉱物を多分に含んだ固い石畳で覆われていたはずの大通りは抉られ、あるいは隆起して道であったことさえ分からなくなっていた。
しかし、それも一定の範囲の話だ。ある距離から先は何事もなかったかのように家々が並んでいる。
そう、彼は…キヨシ君はこの国を守ったのだ。魔人2体と、その上位の存在から。
だというのに、僕のこのザマはなんてことだろう。かばってもらったうえに、手助けをするどころか、すべてが終わった今でも妙な倦怠感で動けずにいる。
ちら、と腕の中を見る。少女は気を失って、多少ケガをしてはいるものの、命にかかわることはなさそうだ。あとは、キヨシ君が戻ってくれば…
しばらく待ったが、キヨシ君が戻って来ない。魔力体である彼はケガをしないハズなのに…何かあったのだろうか。…もしや、あの吟遊詩人の姿をしたナニカに連れ去られてしまったのだろうか。
「ぁ…―――」
とりあえず誰かを呼ぼうと出した声は、かすれてまったく意味をなさなかった。
焦りが高まる。……もし、キヨシ君が連れ去られてしまっていたら…
「ケントさん…女の子も、無事でよかったぁ」
念話をつなごうと思ったとき、慣れ親しんだ声がかかる。安堵してみあげて、愕然とする。
「 ッ―――!?」
「あはは、ちょっと頑張りすぎました。」
困ったように無理な笑顔を浮かべたキヨシ君はもうほとんど消えかかっていた。
「〈魔力の糸〉が切れかかってるんです。俺が無理に魔力引っ張り出したから。…ケントさんにもかなり負荷がかかってしまってるし。ヤツもそうすぐには出てこれないでしょうから、あとは――――」
「キヨシ君!!!」
声が戻ったがそんなことはどうでもよかった。
ついにキヨシ君の姿が完全に見えなくなってしまった。何てことだ!!
なにか、伝えようとしていたがなんだったのか…。
近づく、救援の足音に気づいても、僕は安心することなどできなかった。
side:キヨシ
「ヤツもそうすぐには出てこれないでしょうから、あとは勇者に協力してやってください。…って言い切んなかったか…。」
しばらく、森で大人しくしてれば大丈夫だってことも伝えれていないのに、すでに視界はケントさんでなく木々の梢を映していた。…どうやら本体にまで戻ってしまったようだ。
弱った魔力でどうにか分霊を出して自身を見上げるとところどころ葉が変色し、樹皮の状態もあまりよくない。
ほんとに酷使しすぎてしまったらしい。
集中して〈魔力の糸〉の様子を探ってみる。
…ケントさんとのだけでなくトキとのまで切れかかっている。こっちは2,3日で回復できそうだけど……ケントさんのほうは念話も難しいかもしれない。
「…どうすっかな。まあ、俺自身のことを考えればケントさんの体も心配だし、勇者と共闘なんてすすめなくってよかったかもな。」
さっきは頭に血が上って、というかパニック気味でとにかくアイツを倒さなきゃだと焦ってたけど、未来のことを考えれば、あんまり意味がない。自己中な話だが、俺が生きてくにはどうしたって魔力が必要だから原作のアレは阻止しないとだし、そのためにはどうしたってアイツの知識が必要だし…。
でも、原作通りに進むのか? 最初に襲われるのはスワ首長国連邦だったはずなのに、スロキアだった。…多分、俺がいたから……自分の存在を後悔ってのも変だけどすごく申しわけない。
でも、重要なのはこれからだし。
「とりあえず……寝るか。」
英気を養うこと(現実逃避ともいう)を選択した俺が長をはじめとする霊樹たちに詰め寄られたのは翌朝のこと。
さらにその翌日、驚異的なスピードで駆け付けたケントさん他数名のエルフとともに”魔王”について話し合うことになったのだった。
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