第33話 忘レモノ
シリアス回ですよ。たぶん
そしてやや急展開しますが、しばらく触れないかもしれません。
side:キヨシ
冒険者協会に対する非敵対宣言とその書類への署名をしたあとすぐに、俺とケントさんは学院都市を出て王都に向かった。ちなみに、現役時代すでに非敵対宣言をしていたケントさんは粘りに粘る支部長殿に協力宣言をさせられそうになっていたが、逆に〈商業同盟〉への推薦状をもぎ取っていた。
そんなこんなで〈商業同盟〉に出店の急募依頼を出すのもスムーズにいった。まあ、ぶっちゃけてしまえばテクノリアからの推薦状(理事長も書いてくれた)とケントさんのネームバリューによるところが大きかったみたいだ。
余った時間は店の下見…という名の観光を堪能した。なんでも、第三王女の誕生から3か月、未だ冷めやらぬ熱気と歓喜の中にあるだとかで王都は非常ににぎわっていた。
…んー、”第三王女”ってなんか引っかかるんだよなあ。なんでだろ?
最終日、ターヒルに行くついで、あるいは道すがらできる依頼を受けようと俺たちは〈冒険者協会王都支部〉に向かった。
依頼版を見ながら常時討伐依頼を受けに行ったケントさんを待っていると、近くの三人組の冒険者の会話が耳に入った。
「なあ、なんか最近の魔物強い…ってかしぶとくないか?」
「ああ。しかも、常時討伐依頼だけじゃ足りないぐらいに増えてきてるらしいぞ。 噂だけどな」
「…これも噂なんだけどさ。 なんか、そういうの魔物の頭領みたいのが出てくる予兆なんじゃないかって話があるんだよ。」
「なんだそりゃ。どっからそんな噂仕入れてきたんだよ」
「いや、割といろんなとこで言われてんだよ。”魔王誕生説”唱える学者なんかもいてさあ」
「「ぶっははは。ま、魔王だぁ?」」
「ま、これには俺も笑ったけどなっ」
周囲の音が消えた気がした。
魔王…誕生…、第三王女…。なんで、忘れてたんだろう。
ココは『トワノウタ』の世界だってわかってたはずなのに、なんで思い出さなかったんだろう…トキやシンが、ケントさんが、みんなが巻き込まれるかもしれない…なのになんでっ俺は何の準備もしてこなかったんだろう…。
「…あと、何年だ?魔王出現まで。俺に、何ができる?」
意図せずつぶやく。そして、気付く、世界が”筋書き道理”進むとは限らないことに。
俺が、俺というイレギュラーが世界に影響を及ぼしていないとは限らない。魔王出現はないかもしれないし明日かもしれない、勇者が召喚できないかもしれない……どうしたら、いいんだろう。
side:ケント
ソレ に気付いたのは、〈シュベリエ王国〉を出て〈ターヒル〉に向かう途中。たぶん、二日目の野宿の時だったと思う。
「―――ん、ご――な。…ぁぁ」
僕は火が灯っていることを確かめに起きただけだった。だから、何もなければそのまま寝るつもりだったんだけど、キヨシ君のほうから声がした。寝言にしては声がはっきりしているから、起きているのだと思って声をかけながら近寄ってみた。
「キヨシ君?」
けれど、キヨシ君からの返事はない。心配になって顔を覗き込むようにしてみれば、呻きながら何事かつぶやいて泣いている。ひどく魘されているようだった。
起こしたほうが良いだろうと思って、肩をゆすっても起きる様子はなく僕は不安を募らせた。しかし、そんな僕の気を知ってか知らずか、キヨシ君の声は次第に小さくなり寝息も規則的なものに戻っていった。
翌朝、キヨシ君に夢見について聞いてみたが驚いた顔をした後に「大丈夫。」といったきり、あとはどう聞いても苦く笑うだけだった。
あれから四日、キヨシ君は毎晩魘されている、そして今も。
普段は笑顔の彼の涙に心配が募る。が、判然としない呟きからではやはり何もわからず、悪いとは思いながらも念話をつないだ。
=うぅぅ、ごめん。ごめんな。トキもシンもリズも、ケントさんまで…。俺が大人しくしてれば…早く、思い出してれば…。うあ、ぁぁごめん…=
なにやら、僕たちに謝っているようだ。
かなり必死なことはわかるが、そんなに謝られるようなことをされた覚えはない。しかも、トキやシン君も一緒だとすると最近のことだろう。そこまで考えた僕は思いもよらない言葉を聞いた。
=世界が変わっちまった…。ううぅぅ、魔王が…来る…=
「…っは、はは。キ、キヨシ君は魔王の噂が怖かったのかな…。」
そんな言葉しか出なかった。いや、そうであってほしかった。
けれど、300年生きた経験が、戦場で培った勘が、生き物としての本能が告げている、彼が”思い出した”が真実であると。
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