第22話 魔術偽装 世間一(逸)般を知りましょう
side:キヨシ
受付さんの追及を受けた俺は、逃げるように(実際問題逃走だ)して協会へ向かい、閉館時間ギリギリで依頼完遂を届け出て報酬を受け取った。そして、翌朝トキたちには申し訳ないが当初の予定より早くシュベリエへ向け発ったんだ。
しっかし…
「〈碧風式〉使ってるトコ見つかるなんて、ヘマしたなぁ。」
「んー協会が利用者の不利益になることをしやしないだろうが、移動中は気に掛けた方がいいだろうな。」
「やっぱり、シンもそう思うか」
あ、ターヒルに着く前日くらいからシン達とは名前で呼び合うようになった。
なんか実年齢知ったら、みんな敬語になっちゃって俺には敬語で話すなっていうんだけど外見的に年上の人たちに敬語遣われるのは俺が居心地悪いし、人格的にはトキと同い年だしみんなタメ語で行こうということで落ち着いた。
「でもさぁ、詠唱付けたんでしょ?ダミーの魔術符があれば素人にはわからないよ。」
「本物の魔術師のリズがそういうならそうなのかなぁ? そこんトコ、どうなのケントさん?」
「そうですねぇ、僕は魔術陣を空中展開するタイプなんで、符の使い方はよく知らないんですよねぇ。ただ、最近は技術も進歩してますから魔術もわりとお手軽で原理をよく分からず使ってる冒険者も多いらしいんですよ。」
「そうなのよ。形だけの魔術師が冒険者内で増加してるのよ、まったく…」
「えー、リズもケントさんも結局どうなんですか?」
「あのさ、実際に見て決めればいいんじゃないかな。」
「「「 ??? 」」」
今まで黙って聞いていたジェイが唐突にそういったので俺たち三人はさっぱり意味がわからなかった。でも、シンさんはわかったらしく、そういえばそうだな、といって納得してしまう。え、何がわかったんだよ…
「ん。だからさ、キヨシ君は戦闘内での魔術の使い方を知らなければ、そういう戦闘を見たこともないわけだろ? だから、どう対処したものか決めかめてる。なら見て決めりゃいい、イマドキの魔術師も彼の”紅の教授”もいるんだ。」
おお。さすがジェイ良い考えだ。そういや、普通の冒険者がどう魔術を使うのか知らなきゃ、装うことも出来るわけないよな。ただ、リズさんって同年代じゃトップクラスとか言ってなかったか?基準として正しいのか?
「それもそーね。」
「じゃあ、とりあえず僕とリズさんが向こうの岩に向けて攻撃してみようか。そのあと、キヨシ君が考えた詠唱を付けてやってみて、みんなで意見を出そう。」
そういいながらケントさんは15ルゥほど先の岩を指す。
それを受けてリズが、じゃ早速、とかいいながらポーチから紙の束を取り出す。アレが魔術符か?札束みてぇ…
side:リズ
私はポーチから魔術符の束を取り出して、水系の一枚を右手に他を左手に持ち半身に構える。これが一番動きやすいのよ、拳闘士の構えみたいだけど…。
にしても、”紅の教授”の前でなんて緊張するよぉ。……よし、いこう。
符に魔力を込めつつ
「符よ、思い起こせ清き力を。猛き水と為りて討ち砕け[シ・ウル・ラグス]」
符から水が一直線に岩へ飛び出し、抉っていき、10秒ほど続くと符が自壊した。うん、成功ね。
ちょっと気になってケントさんを窺うと、微笑んでくれる。う、嬉しいかも///
「凄いですね。〈結印魔術〉の符でここまでできるなんて…。僕も頑張らないとかな」
岩に向き直るケントさんの笑みに好戦的なものが混じり、私は自然とみんなの方へ下がっていた。ケントさんの手元に魔力が集まり 「水よ―――」 ケントさんの一声で直径 半ルゥの青い魔術陣が描かれる。
簡単にやって見せるけどアレはすごく難しい。なにせ陣を隅から隅まで正確にイメージしなくてはいけないのだから。私だってすごーく集中しないとでき無い。…あっ
「穿て」
発動した陣は大きくうねり水球となって、岩へ襲いかかる。一見ただの水系下位魔術だけど一発で水系中位の10倍くらいのダメージを与えた。すごい…
「こんな感じだよキヨシ君。とりあえず、やれそうな形でやってみてください。」
あ、そうかキヨシくんのための見本だっけ。ケントさんの魔術の凄さに忘れてたけど、キヨシ君は…どうするんだろ?
*魔術符・・・魔術印を1つないし複数書き込んである札状の魔術補助具の総称。材質によって強度・値段が異なり、紙は一度のみの使い捨て、金属だと10年ほどもつ。発動方法は〈結印魔術〉と同じ規定の音だが、詠唱を付けると威力が増す。
※1ルゥ≒1m