第16話 建国祭の準備と一芝居
side:ケント
会場となる氏族長自宅の広間にはほかの9氏族の代表者が既に集まっており、遅れてやって来た僕ら―――特にキヨシ君には興味津々のようだ。
「おぉ、貴方が"豊饒の使者"いや、噂の霊樹様ですか。私〈川の氏族〉のセガールと申します。」
氏族長の紹介も待たないで、名乗り始めたのは100歳そこそこの若者で、大袈裟な身振りで頭をたれ、僕に握手を求めてきた。
どうやら、他氏族に先んじねばと焦って間違ってしまったようだね。まあ、噂の"豊饒の使者"が見た目14、5の子供だとは思えなかったんだろう。
どうしたものかと、氏族長に目線を送ると先を促すような目線が帰ってきた。勝手にやっていいってことかな?
問題はキヨシ君だなあ。そわそわしてるし、僕が"豊饒の使者"だと思ってそうだな…
=キヨシ君、キヨシ君。ちょっと、口裏合わせてくれますか?=
=え…。まあ、いいですけど"豊饒の使者"とかって…?=
=説明は…後でしますから。=
「ははっ。僕は魔術演出担当のケントと言いまして、れっきとしたエルフですよ。セガールさん。そして――――」
差し出された手をしっかり握り返してにこやかに言い、焦る若者をしり目にキヨシ君を少し前に押し出す。
「貴方のお探しの彼の世話役であり、契約相手です。」
さて、〈川の氏族〉は脱落だろうし、他の氏族も牽制できたかな?
side:キヨシ
あー、これはもしかしなくても信仰・取り込みの対象に成っちゃってるパターンか?
ケントさんは、ノッてほしいようなこと言ってたし、ひと芝居うつか。
なるたけ不遜そうに…ケントさんとの関係が対等なふうを匂わせて…
「ああ、俺がお探しの霊樹族大使、キヨシですよ。…にしても、"豊饒の使者"は初耳だな。ケントは知ってたのか?」
=牽制だとこんな感じですか?ケントさん。=
=ククッ、そこまでやってくれなてもよかったんだけどね。=
「まぁね。もともと霊樹ってことで神聖視されてたし、君の魔力は作物にいい影響を与えるから。"豊饒の使者"って言われ始めたのは…"疑似精霊"を開発した後だったかな?」
…"疑似精霊"?あっ、精霊もどきのことか?
うわぁ、俺の私欲のための開発物(没)がありがたがられてるとか、良心の呵責が…
なんて思っていると、
「キヨシ殿の疑問も晴れたようだ、そろそろ会議を始めてはどうだろう。
ああ、申し遅れましたが、私は〈太陽の氏族〉の代表、ジュネーヴです。キヨシ殿」
一番奥に座っていた男が切りだした。
あぁ、こいつが提案者ね。”殿”っつーことは信仰じゃなくて取り込みたかった方か、面倒だな。
「そうですな。さ、霊樹様、大地のお二人も、かけてください。」
好々爺然としたエルフ―――
=〈月の氏族〉のルシゼフ老です。=
=ありがと、トールズさん=
―――らしい。そのルシゼフさんとやらに促され、3つ並んだ空席の真ん中に座ると幾人かが目を瞠る。ん?ミスったか?今演じてる性格で霊樹なら長を差し置いて真ん中に座ると思ったんだが…
「す、座れるんですね。」
「…座れますよ。契約の強さのおかげですがね。で、建国祭の計画の方 説明願えますか?」
「では、提案者の私から説明させて頂きます。まず、今回の計画の概要は―――」
そっちかよ、セガールさん!!とか思わんでもなかったけど 周りもうなずいてるし、リサーチしなさすぎじゃね?
ジュネーブさん自慢げに説明し始めてるけど、この分じゃ、提案もせいぜい国民へのアピールどまりかもなあ。