第8話 再びの”狭間”で
side:キヨシ
夕方俺は〈真名定〉の儀式とやらを受けるために大型テントに向かった。けれど中にはサリサさんとミュラさんしかいなかった。
「リーン様は着替えて戻られますのでこちらに座ってお待ちください。」
「あっ、はい」
ミュラさんに座布団(と思われるもの)をすすめられ、腰を下ろす。どうやらまだ早かったらしい。
はぁ、にしても煙いな…香を焚いてるみたいだ。
しばらくして帰ってきたリーンさんだけど、帰ってくるなり頭を下げる
「キヨシ様、お待たせして申し訳ございません。」
「いえ、構いませんよ。それと、敬語は止してください。俺なんてまだまだヒヨッコなんですから。」
しかも敬語…
しきたりとかいろいろあるんだろうけど、俺のキモチ的に(元日本人としても)落ち着かないのでやめてもらった。わりとあっさり了承してくれてよかった。
その後、酒飲まされたり(いいのか?)、座りなおすのに正座して変な目で3人に見られたりしたけど、いよいよホントに始まるみたいだ。
リーンさんたちは俺が首肯するのを確認して詠唱だろうか、何か唱え始める。さざ波のように満ちてくるそれを聞いているとだんだん五感が鈍ってきて、意識もぼんやりとしてきた。
やばいなあ、なんて思っているとグッと引き上げられるような浮遊感を感じ、気付けばこの前の”狭間”の応接セットに座っていた。
「お久しぶりです。」
「えっ!?俺また死んだの!?」
至極当然のようにそんな声をかけ、自分の前に座る素晴さんを見て大声を出した俺は間違ってないと思う。ホント、どうなってんだ?
「いえ、死んでませんよ。儀式による瞑想状態を利用してこちらに呼んだだけです。」
「呼んだだけって…、こっちは相当焦ったんだが…。まあ、いいや。
んで、呼んだ理由はなんですか?」
「はい。実は山口くん…今はキヨシくんでしたね。きみの真名がないのはこちらの手違いみたいなもんでして、原因は―――――」
衝撃事実発覚って感じだな。長いから割愛するけど、簡単に言うと俺をあの世界に入れたら並行世界に追い出されて真名だけ落っこちたってかんじらしい。
んで、肝心の真名は破棄されたあとなんで新しいのをくれるらしく素晴さんが書類を探してる。
「あぁ、ありました。これがきみの真名です。魂のデータから割り出したので適合率は90%以上ですよ。…読めたらここにサインを。」
――境界を越える碧い風――
受け取った書類の真名の欄に書いてあるのはまったく知らない文字と言えるのかもわからないシロモノだったけど、そんな言葉が自然と浮かんできた。
「発音はあってますね意味の方も大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です。」
どうやら声にも出ていたらしい。書類にサインをしてわたす。
「そういえば、まだ冒険したかったりします?」
書類を確認していた素晴さんが急に聞いてきた。そりゃしたいけど…
「いえね、きみ自身は冒険はできないんですけど、真名を交わして契約をするか、真名を刻んだものをわたすと魔力の糸が繋がって分霊が出せるんですよ。」
「ホントですか?!俺分霊だし行けますよね」
「行けますけど、きみが想像してるのとはちょっと違うと思うんですよ。今のきみは持ったり食べたりできる〈半物質状態〉だけど、魔力の糸から出るのはただの分霊だからホント見るだけですよ。」
「そう、です、か…」
「…そう気を落とさずに。そろそろ時間ですし……」
何の、と聞く前に目が覚めた。
テントを出て朝日を浴びながら力が満ちているのを実感する。良く考えたら外に出る術を知れただけでもめっけもんだよな。
よし!とりあえず長に報告に行くかな。
補足
〈半物質状態〉:魔力の密度を物理干渉できるまでに高めた状態。
キヨシと長は常に発動しているが、魔力消費が激しい普通の霊樹はしない。
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