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対掌的双子

「いけませんね……気軽にこのようなことをなさっては……」

 鏡の向こうからやってきたのは、真っ黒なスーツを着た、白髪の男性だった。老人、という言い方は似合わない気がしたが、相当な高齢であることは間違いない。眼鏡にはチェーンがついていてそこがまたオシャレだ。

「あの、誰ですか?」

「私は……あなた方を止める為にやってきました。まあ、鏡の精霊だとでも思って下さい」

「精霊……」

「全然違いますがね」

「違うんだ」

 だったら言わないで欲しい。

「格好からすると執事って感じね」

 ちさが感想を漏らした。まあ、確かにそうかも。上品な感じだし。白い手袋もしてるし。

「あなたがた、鏡像召喚を行いましたね」

「きょうぞー……なに?」

「鏡像、つまり鏡の向こう側の世界にあるものを召喚する術です。……厄介な術でしてね。ええ、あなた方のおかげで、かなり大変なことになりました。もうてんやわんやですよ」

「よくわかんない。私たちがその術を使ったってこと?」

「すごーい。魔法じゃん」

 なんか、ちさがちょっと他人事気味なのが気になる。

 一方でお爺さんは頭を抱えた。

「やはり事の重大さがわかっておられない……。よろしいですか、あなた方のせいで世界が2つに割れてしまっているのですよ」

「2つに……?」

「って言われても……」

 顔を見合わせるちさと私。

「本来、鏡の向こう側の世界は瓜二つ。左右こそ違っていても、同じ世界が広がり、同じ人々が暮らし、同じ現象が起こる世界です。それをあなた方が鏡像召喚などをやったおかげで……。今や2つの世界はまったく違う運命を辿ろうとしています」

「どんな運命?」

「向こうの世界には貴女がいなくなってるんですよ?」

 言いたいことはなんとなくわかった気がした。

 私がまだ本来の世界にいた昨日までは、二つの世界では全く同じことが起こっていた。唯一の違いは伸司兄ちゃんと会ったあたりだけ。でも……今は違う。なんたって、向こうの世界では私が行方不明なのだ。お母さんは方々探し回っただろうし、学校や警察に連絡したかもしれない。たくさんの人が知らせを受けて驚いたり一緒に探し回ったり噂をしたりしているだろう。こちらの世界の様子とは全然違うってことだ。

「向こうでは……どうなってるんですか」

「どうなっていると思いますか?」

 お爺さんは笑いもせず、怒りもせず、ただ淡々と問い返した。

「……騒ぎになっていると思います」

「騒ぎ? そんな些細なことではありません」

 ぴしゃりと言い切られる。

「些細なことって……」

「いいですか? 向こうの世界で起きていることとこちらで起きていることが、同じではなくなったのです」

「え、だからこっちでは騒ぎになってないのに向こうでは騒ぎになっているってことでしょう?」

「騒ぎが起きただけではありません。その騒ぎの影響は、どんどん様々な行動に波及していきます。あなたの噂話をする人、その為に時間を取られて予定が変わる人、人の行動が変われば様々なものが変わります。起きたケンカが起きなくなり、起きなかった事故が起きる。バタフライ効果という言葉は知ってますよね? 因果の鎖はひとたび組み違えれば全く違う模様を織り上げるものです」

「要するに、他にも色んなことが変わってしまっていると言いたいんですね?」

「全てです。歴史が変わってしまいました。こちらの世界で約100年後にやってくる異星人は向こうの世界では2300年後まで現れません」

「そんな大きな影響が……。まるで想像もつきません」

「想像どころか、理解が追いつきません」

「というかお爺さんを信用できません」

「信用してくれなくても結構ですよ」

 失礼な私たちに、お爺さんは気分を害した様子はなかった。

「あの、私、小学生なんで……難しい話は抜きにして貰って」

 お爺さんの言ってることは理解できなくもなかったが、私が聞きたいのは結論だけだ。

「……私、帰れるんですか?」

 お爺さんは、あいかわらず表情の無いままに答えた。

「帰れるわけないでしょう」

「なんで」

 そんな。まさか。いやだ。

「なんでもかんでもありません。もうあなたのいた世界は鏡の向こうには無いと言ってるんです」

「……」

「……無い? 今、向こうでは騒ぎになってるって話をしてたじゃないですか? どういうことですか?」

 絶句して何も言えなくなっていた私に代わって、ちさが聞いてくれた。

「向こうの世界はあります。でも鏡の向こうじゃない。2つの世界での出来事がずれてしまったので、鏡写しではなくなって全く別の並行世界になったということです。もうこの鏡を潜り抜けたとしてもそこは元の世界ではない。そこは別の世界、今のこの世界の鏡写しの世界になっているだけです」

「また新しく鏡の向こうの世界ができたってことですか?」

「そういうことです。こちらにはこちらの、あちらにはあちらの、ペアになる鏡の中の世界が新しく発生しました。ちょうど、細胞が分裂するように。二つが四つに」

「で、でもおかしいじゃないですか。私もさちも、鏡に姿が映りません。それは、私の鏡像がこの子、さちだからですよね?」

「そう。あなた方は鏡写しだった頃の最後の名残、いわばバグです。この世界に残ってしまった、イレギュラーな存在ですね」

「バグ……」

「バグは取り除かなくてはなりません」

 お爺さんが静かな口調になった。

「と、取り除くってまさか」

 お爺さんはにやりと笑った。

 ……消される。

 とっさに、私たちは動いた。ちさと目配せしあい、同時に動いた。姿見をずらし、合わせ鏡にならないようにする。合わせ鏡の奥から現れたのなら、そうすれば消えないだろうか……と考えたのだ。

「無駄ですよ。これはただの出入り口。それに、私は合わせ鏡でなくてもここに来ることはできます」

 お爺さんは消えなかった。

 瞬間、私とちさは、ドアを開けて部屋を飛び出した。鏡の無いところに逃げるのだ。二人して階段を駆け下りる。

「!!」

 階段の下にお爺さんが先回りしていた。

「洗面所、廊下、お風呂。家の中は鏡だらけですね」

 くっ……。

「さち、二階! 窓!」

 ピンと来た。自分たちの部屋の窓から出れば鏡は無い。部屋の中の姿見さえやりすごせば……。

「往生際が悪いですね……」

 階下でつぶやくお爺さんを置いて、二階に戻った私たちは、しかし部屋のドアを開けたまま、固まってしまった。

「はじめまして」

 姿見を通り抜けながらその女性は言った。やはり黒服の……若い女性だった。

「ま……また鏡の精霊……ですか?」

「鏡の精霊……?」

 お姉さんは不思議そうな顔をした。

「ああ、来てしまいましたか。残念残念。もう少しからかいたかったんですが」

 後ろから、なんだか急に口調の柔らかくなったお爺さんが現れた。

「室長、どこまで進んだんですか?」

 長い髪を後ろで束ねたお姉さんは、お爺さんに聞いた。

「世界が分離したという話をしたとこまでです」

 お爺さんは部屋に私たちを押しやりながら、ドアを後ろ手で閉めた。

「どうぞ、座ってください」

 お爺さんは自分の部屋であるかのように、お姉さんにベッドに座るように促した。自分は私たちの勉強机に座る。私たちはなんとなく立っていた。

「あの、あなたは誰ですか?」

 ちさが聞いた。

「私はじく……」

 しかしお爺さんがさえぎった。

「ああ、所属の説明なんかしてもわからんよ。君たち、この女性は私の部下だ。まあ鏡の精霊2号とでも呼べばいい」

「鏡の精霊って……室長が言ってたんですか」

 あきれたようなその女性とは逆に、お爺さんは楽しそうだった。

「じゃあ2号さん……」

「ちょっと、2号さんはやめてよね。人聞き悪いわ」

 2号さんが人聞きが悪い? どういう意味だろう。

「えーと、じゃあ……おばさん、さちがひゅ」

 言いかけたちさの両頬が、お姉さんの左手によってがっちり握られていた。

「おばさんって言った?」

 ちさが首を振ろうとしているがホールドされていて動かせない。代わりに私がフォローした。

「……ちさ、それは失礼だよ。初対面なのにおばさんって」

「何度会っても失礼よ」

「それじゃあ、私から聞きます。おばさまはこのじゅ」

 私の頬もがっちり握られた。どうもこの言い方も気に入らなかったらしい。

「君たち、そのお姉さんをからかってるとキリが無いですよ」

 お爺さんが咳払いをした。

「さっき私が説明したとおり、君たちは世界を分裂させるというとんでもない罪を犯しました。その責任を取って消えてもらいます。その刑を執行するのがそのお姉さんというわけです」

「ちょ、ちょっと室長、何を言ってるんですか」

 あれ? お姉さんが慌てている。

「ちなみにそのお姉さんはこう見えて、凶暴で残忍ですからね。いつもなら、まず両手両足をもいで、耳と鼻をそぎ落とし、その上で首を引きちぎるんですが……。どうやら手順を省略して首をちぎるところからやろうとしているようですね」

 私とちさは、あわてて自分の頬を抑えているお姉さんの手を振り解こうともがいた。

「あ、違うの、違うの、そうじゃなくて」

 お姉さんは慌てて手を離した。

「ごめんなさいごめんなさい、どうか手足をもぐのはやめて下さい」

「耳も鼻も切らないで。どうか一思いに殺して」

 私とちさはお姉さんに土下座してお願いした。

「ち、違うの、そんな残酷なことしないから。大体、私そんな力ないし」

「嘘付きなさい。こないだドアノブを逆に回して壊してたじゃないですか」

「室長! あれは元々壊れてたんですってば」

「握力が250くらいあると専らの噂ですよ」

「嘘嘘嘘嘘。いつもグレープフルーツサワーを絞るのだって一苦労なんだから」

 お姉さんがおろおろしながら必死に言い訳している。確かにこの人で遊んでるとキリが無さそうだった。

「で、何しに来たんですか? お姉さん達」

 ちさが、お姉さんをからかうのに飽きたのか、素に戻った。私も続けた。

「結局、私が元の世界に帰れないというのは本当なんですか? 私たちを消すとかいうのは嘘っぽいですけど」

「ほう。察しがよくて肝も座っている子供達ですね。代わりに私の部下にしたいぐらいで」

 お爺さんの最後の「す」は聞こえなかった。お姉さんの回し蹴りで三人とも壁に吹っ飛ばされたからだ。

 残酷かどうかはともかく凶暴というのは本当だな、と思った。


 *


「君達ねえ、大人をからかうのはよしなさい。わかった?」

「はーい」

「はーい」

 私たちは仲良く返事をした。

「さて……。で、室長、元の世界がもう鏡の中に無いことまでは話したんですね?」

「……話しましたよ」

 お爺さんは腕を抑えながら答えた。まったくお年寄りに……酷い人だ。

 お姉さんはうなずいて、話を続けた。

「私たちは君たちを消す為に来たわけじゃない。ただ……君たちの姿が鏡に映らないのは気付いてるよね? そのままでいると……君たちはほっといても消えちゃうのよ」

「え? そうなんですか?」

 私とちさは顔を見合わせた。

「三週間くらいはどうってことないけど、だんだん薄くなっていってそのうちパッとね」

「それはやだよ。なんとかなりませんか?」

 ちさが泣きそうな声を出した。

「あのね、室長が何を言ったか知らないけど、元の世界に帰せばいいだけのことよ」

「え? じゃあ、帰れないというのは嘘なんですか?」

 私とちさはお爺さんを振り返った。

「嘘です」

 あれ、あっさり認めた。

「なんだったんですか? 今までの一連のやり取りは」

「暇つぶしですね」

「私たち、暇じゃないんですけど」

「私が暇なんですよ」

 お爺さんがしれっと言ったのを見て、お姉さんが言った。

「ごめんね君達、室長は厄介な人なのよ」

「お爺さん、きっと寂しいんだね……」

「きっと家族に愛想つかされて相手にされてないんだね……」

 私とちさはお爺さんをチラチラ見ながらヒソヒソ話をした。

「ちょっとそれやめて貰えますか? 傷つきますので」

 無視してお姉さんのほうを向いた。

「じゃあ、帰れるんですね?」

「ええ、帰れるわよ」

「でも、私の元いた世界は大騒ぎになってるんですよね……」

「なってるでしょうね。ま、いいじゃない」

「私なんて言って帰ればいいんですか?」

「神隠しにあってましたーとか言っときゃいいんじゃないの」

「そんな適当な……」

「あのねえ。その程度で済むなら安いものよ。いい? 別に罰を与えたりはしないけどね、君たちのやったことはかなり迷惑なことなのよ? 世界が一つ増えるってことは、物凄くこっちの仕事が増え……じゃなかった、えーと、負荷がかかることで……とにかくダメなの。いい? わかった?」

「あ、はい。すみません……」

 ちさが頭を下げた。でも私は反論する。

「でも、私たちだって、わざとやったわけじゃないんです。正直、なんでこんなことになったかもわかりません。偶然なんですよ」

 私は昨日こっちに来る前の一連の出来事を話した。

「あら……じゃあ別に鏡像召喚と知っててやったわけじゃないの」

「知りませんよ、そんなの」

「だいたい、鏡の向こうとこっちで違うことが起き始めたのは、こっちに来るより前です」

 そう。最初の、伸司兄ちゃんと会ったところだ。あのとき既に世界は違う様子を見せ始めていた。

「変ねぇ……じゃあ貴方たちのせいじゃないのかしら……」

 その時、お爺さんが話しに入ってきた。

「君達は以前から互いに話をしていたのですか?」

「え、ええ……ずっと小さい頃から、お互いに話をしていました」

 お爺さんは腕を組んだ。

「稀な例ですが……無いことじゃあありません。それが原因です。鏡像間通信ですね」

「きょうぞうかん……?」

 また知らない言葉が出てきた。

「鏡像召喚の情報版といって……わかるわけないですね。まあ鏡の中の自分と話をすることをそう言うんです。これだけでも世界の分裂を引き起します」

「え、室長、そうなんですか?」

 お姉さんも知らない話だったらしい。

「そうです」

「どうしてですか?」

「鏡像間通信も広義には鏡像召喚の一種だということです。こう言えばわかりますか? 君達の思考に限ってみれば、鏡の向こうとこっちで「違うことが起こっている」ということです。ちょっとした思考実験ですが、例えば二人で「違うことをやってみよう」と話をすることもできます。そしてそれを実行に移せば、簡単に二つの世界で違うことが起こります。一気に世界は別の運命を辿ることになる」

「そういうことか……。君達、二人で話をしていた頃、二人の行動は全く同じだったの?」

「同じだった筈です……。全部確認したわけじゃないけど」

「性格も全く同じ?」

「それは……私から見ればちさはちょっと軽率かなと思うけど……」

「さちが慎重すぎるんだよ」

「ほら、性格もわずかに違っているでしょう? ということは、気付かないうちに少しずつ行動も違ってきている筈」

「もしかしたら……伸司兄ちゃんに会いに行こうって話になった時、ちさのほうが少しだけ早く、中学校に着いていたってことなのかも」

「……だから私は彼女と一緒にいないところに会ったってこと?」

「そう。私は一瞬遅くて、彼女と伸司兄ちゃんが合流してしまった」

 私とちさは同じ人間だと思っていた。でも性格も行動もほんの少しずつ違ってきていたのだ。

「少しずつの違いが……それが中学校前での出来事に違いを与えてしまった。世界は分裂を始めていたというわけです」

 お爺さんがうんうんと頷いている。でもお姉さんが首をかしげた。

「でも、そもそも、なんで君達はお互いに話ができたの? お互いの声が聞こえるようになったのはどうして?」

「どうしてって言われても……小さい頃からだったし……」

「お母さんにそう言われたからかなぁ」

 ちさがそう言った。私もうなずいた。そうかもしれない。

「お母さんが?」

 お姉さんの問いかけに私が答える。

「ええ。私は本当は双子だったって話をされたんです。で、もう一人は鏡の中にいるって。そう言ってたんです。それで私、鏡の中の私に話しかけるようになったんです。そしたらいつの間にか返事が聞こえるようになってきて……」

「……偶然の産物ということですね」

「そんなこともあるんですかねぇ……」

 お爺さんとお姉さんは何事か頷きあっていた。


 *


「じゃあ、帰すわよ。準備はいい?」

 お姉さんが腕まくりをした。

「あ、一つ聞きたいことがあります」

 私が口を開く。

「何かしら?」

「あの、私が帰ったら、鏡に姿が映るようになるんですよね?」

「なるわね」

「映るのは、ちさなんですか?」

 私はちさを指差した。

「いいえ。違うわ」

 やっぱり違うか。それはそうだろう。もう2つの世界は鏡越しには無いのだ。

「じゃあ、ちさとはもう会えないんですか? 話はできないんですか?」

「え、そんなのやだ……」

 ちさが私と同じように必死な顔でお姉さんを見上げた。

「話ができないかどうかはわからないわ。パラレルワールド間で通信しあうような事例は無いわけじゃないからね。はっきりしているのは、鏡に映るのがもうお互いじゃないということね」

「誰なんですか?」

「誰でもないわ。ただの鏡像よ」

「ただの鏡像……」

 お爺さんが続けた。

「本来、ちさちゃんだって君にとってはただの鏡像だったのですよ。ちさちゃんにとっての君もそうでした。ところがお互いを一人の人間だと強く思い込むと、鏡像世界が実体を持ち始めてしまいます。鏡像間通信とか鏡像召喚の正体は、つきつめればそういうことなのです」

「私の思い込みだったって言うんですか……」

「お互いの思い込み、というべきですね。世界が分裂を始める前は、君らは一人でした」

「……一人の人間が分裂したのよ。あなたたちは」

「それって……」

 お姉さんは微笑んだ。

「ええ、双子ということよ」

 お爺さんも表情を和らげた。

「……そうです。だから我々は君達のような鏡像世界への干渉者を、こう呼んでいます」

 私とちさはお爺さんを見つめた。

「対掌的双子とね」

「たいしょうてき……ふたご」

「対掌体という言葉がありまして……まあつまり鏡像の関係にあるような立体のことを指します」

「あなた達はね、元々は一人の人間だった。でももう今は違う。世界も違う。それぞれが違う世界を、違う人間として生きていくの」

「バラバラになるの……?」

「そう。バラバラよ」

 私とちさが涙をこらえているのがわかったのか、お爺さんはフォローするように言った。

「たぶん、互いが望めば話くらいできる可能性はありますよ。保証はできませんが。……例えできなかったとしても、君たちがお互いのことを思い出している時間は、話をしているともいえます」

「……」

 お爺さんの気遣いがありがたかった。

「ちさ」

 私はちさと向かい合った。

「何、さち」

「私たち、もしかしたら話ができるの、これで最後かもしれない」

「……うん」

「でも、さよならは言わないからね。ちさはちさで、自分の世界を頑張って生きて」

「さちこそ、大変だからね。行方不明扱いになってるんだから」

 私はうなずいて、ちさの手を取った。

「私はいつも、ちさを応援してる」

「私もいつも、さちを応援してる」

 私たちは同時に言った。

「あなたに出会えて良かった」

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