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ただいま

作者: 一月 海
掲載日:2026/10/14

秋の始まり。日が落ちるのが、少しずつ早くなってきた頃。


私はひとり、ぽつりぽつりと歩いていた。


辺りを見渡すと、会社帰りのサラリーマンや、買い物帰りの親子の姿が目に入る。


両親と手を繋いで歩く子供を見ると、なぜだか「いいなあ」と思う。


いや、違う。


「愛されているんだなあ」


きっと、そう思っているのだ。


私だって、小さい頃は同じように両親と手を繋いで歩いていたはずだ。記憶だって、まったくないわけじゃない。


それなのに、今の私には、その光景がひどく眩しく見えた。


心の奥に、小さな針を刺されたような気がした。


リードで繋がれた犬ですら、羨ましいと思ってしまうほどに。


私は愛されている。


私は大切にされている。


そう感じられるのは、いったいどんなときなのだろう。


優しくされたとき?


好きだと言われたとき?


それとも、何も言わずとも隣にいてくれるとき?


言葉なのか、行動なのか。


考えれば考えるほど、分からなくなっていく。


もしかしたら私は、ただ寂しいだけなのかもしれない。


小さな幸せを見つけることが、下手なだけなのかもしれない。


あるいは、見つけたとしても、それを幸せだと信じることができないのかもしれない。


そんなことを考えながら、私は家までの道を少し早足で歩いた。


これ以上、ひとりであるという実感に包まれてしまったら、この寂しさに押し潰されてしまいそうだった。


早く帰ろう。


そう思って、足を速めた。


玄関の扉を開ける。


すると、奥の部屋から「ワオーン」と、聞き慣れた鳴き声が響いた。


愛猫だった。


まるで、帰りを待っていたとでも言うように。


私は靴を脱ぎながら、小さく息を吐いた。


「ただいま」


愛猫の姿を見つめながら、ふと思う。


「ただいま」と言える場所がある。それだけで十分なはずなのに。


私はこれ以上、なにを求めているのだろう。


私は、私をどうしたいんだろう。

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