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鐘崎ゆきこの友人 F川さんの話

 ゆきこちゃんはね、ひどく心配性な子だった。

 昔からずっとそう。遠足で忘れ物をするのが怖くて、一晩中リュックの荷物をひっくり返して並べ出すような子。

 大人になってもそんな性格は変わんなかったよ。旦那さんが早くに亡くなったことも、一人息子の翔太くんが行方不明になったことも、ゆきこちゃんの心配性を膨らませるだけだった。

 翔太くんは無事に見つかったんだからいいじゃないって言ったけど、あの子、そんな言葉で安心できるほど強くなんかないから。

 ゆきこちゃんね、翔太くんが生まれる前にこう言われたらしいの。


「あなたの一番上の子は自分自身にも、あなたの身にも、その周りにも不幸をもたらす子です」


 調べてみても、特に有名ですらない占い師だか霊媒師だかわかんない、胡散臭い奴だった。

 その不幸を回避するために高いブレスレットを売りつけられて、困ってたから私が追っ払ってやったのよ。

 無理やり縁を切らせたんだけど、今思えばもっと慎重に切り離せばよかったのかもしれない。

 ゆきこちゃん、怖がりのくせに小学生の時から色んなおまじないとか都市伝説とか信じちゃうタイプなの。

 だからその後に旦那が亡くなって、息子がいなくなったでしょ?

 ゆきこちゃんはきっと霊媒師の言葉を聞かなかったからだって思い悩んじゃったの。


「このままじゃ、私は不幸になる。私だけじゃなくて翔太の身も危ない」


 翔太くんは無事に見つかったのに、ゆきこちゃんはそう言って泣いてた。

 私はどうしたらいいかわからなくて、つい……

 でも、あんなこと言わなきゃ良かったんだ。


 私ね、「それじゃ、一番上の子が翔太くんじゃなければいいんじゃない?」って言ったの。


「翔太くんの上に、子どもがもう一人いたことにするの。翔太くんは弟だった、ってことにしたらいいじゃん」


 私だって、こんなことになるとは思わなかったわよ。

 ただ、ゆきこちゃんの心が軽くなれば良いと思ったの。想像の中だけでも安心できるように提案しただけなの。

 元々いない子どもが行方不明になったって、誰も困らないし。


 ほら、あるじゃない?ナントカの証明ってやつ。

 その物が存在することは証明しやすいけれど、存在しないことを証明するのは難しい、みたいなやつ。

 だからさ、『ゆきこちゃんの一番上の子どもが存在しない、ってことを証明するのは誰にもできないよ』って言った。


 本当に、それだけなの。

 ゆきこちゃんが、あそこまでするとは思わなかったの。

 行方不明のチラシまで作って、存在しないみきこちゃんなんて娘を作り出して、町を探し回るなんて思わないじゃない。

 私は最初、心配性のゆきこちゃんが、わざと大げさにやってるんだと思ってた。

 でも、きっと違うの。

 あの子はただ、自分の一番上の子どもが家から消えたふりをしているだけじゃない。


 ……だって、それなら家の窓にも換気扇にも、玄関以外の壁の全てに金網を打ち付ける意味がわからない。

 ゆきこちゃんに、一番上の子どもの『みきこ』は存在しなければならない。

 でも、ゆきこちゃんの元に『みきこ』は絶対に存在する訳にはいかないの。


『みきこ』は今、ゆきこちゃんの身にも、その周りにも不幸をもたらす一番上の子なんだから。


 みきこなんて、存在しないの。

 でも、それならあの子、何が家に入ってくるのを怖がってるの?


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