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第43話:『前提』

疑問が消えた場所から、

世界が軽くなり始める。

違和感は、

もう誰の言葉にもならなかった。


朝の資料には、

説明が省かれている。


「詳細は割愛」

「前提は共有済み」


共有した覚えはない。

だが、

共有されていないと言える根拠もない。


配合表を見る。


以前は注釈が必要だった箇所が、

そのまま数値として置かれている。


(説明、消えたな)


誰かが削った形跡はない。

会議で決めた記録もない。


ただ、

不要になった。


後輩が言う。


「ここ、

 今さら触るところじゃないですよね」


今さら。


時間の問題ではない。

重要度の話でもない。


触らないことが、

 常識になっている。


「そうだな」


返事は短い。

理由は言わない。


理由を言わなくても、

話が進む。


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

画面の端にある。


中心でも、

俯瞰でもない。


背景。


「これ……

 もう疑問にならないな」


問いというより、

確認に近い。


一行。


《前提、固定》


固定。


決定ではない。

合意でもない。


疑われなくなった。


昼の打ち合わせ。


話題は早い。

前段の説明がない。


「では、

 この形で次へ」


誰も止めない。

質問も出ない。


(速いな)


効率がいい。

摩擦がない。


だが、

どこにも

立ち止まる点がない。


机に戻ると、

別部署から資料が届く。


書式が、

こちらのものに近い。


表現も、

並びも、

似ている。


(合わせに来てる……)


頼んでいない。

指示もしていない。


合わせた方が、

 楽だから。


アークの表示を見る。


「この前提……

 どこまで広がる?」


未来の話ではない。

現在地の確認だ。


一行。


《標準化、進行》


進行。


正しいからではない。

優れているからでもない。


説明が要らない形だからだ。


窓の外を見る。


人の流れが、

同じ速度で動いている。


遅い人はいない。

速い人もいない。


揃っている。


(前提になると……

 選択が消える)


選ばなくていい。

考えなくていい。


それは、

楽でもあり、

危うくもある。


世界は、

静かに軽くなっている。


軽いものは、

遠くまで飛ぶ。


同時に、

重さを測れなくなる。


今日は、

何も問題は起きなかった。


それが、

この段階の特徴だ。


前提は、

壊れるまで

問題にならない。


そして壊れる頃には、

どこから始まったか

誰も覚えていない。


自分は、

そこに立っている。


始めた覚えも、

決めた実感もない。


ただ、

前提の中に

含まれてしまった。


影は、

さらに輪郭を失い、

広がっている。


世界は、

疑わない形を

ひとつ手に入れた。


それが、

次に何を呼ぶのか。


まだ、

語られていない。


だが、

語られなくても

動く段階に

入っている。


それだけは、

確かだった。

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