第42話:『連鎖』
一度だけ整えたはずの配置が、
別の場所で同じ形を取り始める。
最初に戻ってきたのは、
自分が関わっていない案件だった。
朝、端末を開くと、
見慣れないスレッドが上に来ている。
「参照:南条方式」
方式。
名前を付けた覚えはない。
まとめた覚えもない。
ただ、
通った配置があっただけだ。
(……もう呼び名があるのか)
配合表を見る。
その案件は、
自分の担当ではない。
数値も、工程も、
以前から存在している。
それでも、
説明の順が
どこか見覚えのある形をしている。
(あの並びだ)
誰かが真似たのではない。
楽な道が、残った。
後輩が声をかけてくる。
「このやり方、
別のチームでも
使っていいですか」
許可を求めているようで、
実際は確認だ。
止めれば、
手間が増える。
止めなければ、
流れが広がる。
(選択、
またか)
だが、
今日は選ばない。
「……問題なければ」
言い切らない。
線も引かない。
それでも、
十分だったらしい。
ホログラムはすでに起動している。
《稼働中》
アークの表示は、
一段高い。
俯瞰というほどではない。
だが、
範囲が広がっている。
「これ……
どこまで続く?」
問いは、
抑止の確認だ。
一行。
《連鎖、進行》
進行。
止まっていない。
加速もしていない。
次が、自然に出ている。
昼、
別部署の打ち合わせに顔を出す。
自分の名前は出ない。
だが、
話の前提に
見覚えがある。
「最初にここを固定して……」
その“ここ”が、
以前、自分が
半歩ずらした点だ。
(触ってないのに……)
触っていない。
だが、
触れた形が、残った。
誰も責任を負っていない。
誰も主張していない。
それでも、
決まりごとのように
使われている。
(連鎖って、
静かだな)
衝突もない。
反発もない。
ただ、
同じ形が
別の場所で再生される。
机に戻ると、
質問が一つ届く。
「この前提で、
さらに簡略化できますか」
簡略化。
つまり、
次の変形だ。
アークの表示を見る。
「これ、
止めた方がいい?」
問いは、
倫理でも責任でもない。
配置の安全確認だ。
一行。
《不可逆、拡散》
拡散。
広がっている。
だが、
暴走ではない。
同じ方向に、
薄く。
窓の外を見る。
人の流れが、
遠くで分岐している。
こちらからは、
細部が見えない。
それでも、
向きだけは分かる。
(もう、
全部は見えないな)
制御しようとすれば、
止まる。
止めなければ、
形が育つ。
どちらも、
正しい。
だが、
どちらかを選ぶ前に、
世界は一歩進む。
今日は、
何も決めていない。
それでも、
三つの案件が
同じ形で動き出した。
連鎖は、
命令を必要としない。
配置が残れば、
次が生まれる。
そしてその次は、
こちらの視界の外で
別の形になる。
世界は、
もう一人分の意思では
測れない速さに入っている。
足元は、
まだ同じだ。
だが、
影はさらに
遠くへ伸びている。
どこまで届くのか。
それを知る必要は、
まだない。
連鎖は、
起きてしまった。
それだけが、
確かな事実だった。




