第41話:『作用』
意思より早く、
世界が反応し始める。
変えたつもりは、なかった。
朝、席に着く。
画面を開く。
いつもと同じ手順。
それなのに、
最初に届いた通知の文面が違う。
「本件、
南条起点で整理します」
起点。
前提でも、判断でもない。
始点だ。
(……起点?)
誰かが決めた形跡はない。
合意を取った覚えもない。
ただ、
流れがそこから始まっている。
配合表を見る。
数値は昨日と同じ。
工程も変わらない。
だが、
注釈の位置が変わっている。
説明の順が、自然に組み替えられている。
(誰が……?)
誰でもない。
配置が、そうさせた。
後輩が声をかけてくる。
「この順で説明すると、
話が早いですね」
感想だ。
提案でもない。
「そうだな」
言ってから、
少しだけ間が空く。
(……“そう”って、
何に同意した?)
自分の考えではない。
だが、
否定する理由もない。
ホログラムはすでに起動している。
《稼働中》
アークの表示は、
人の動線と同じ高さにある。
俯瞰でも、
足元でもない。
通過点。
「これ、
俺が何かしてる?」
問いは、
疑問というより
事実確認だ。
一行。
《作用、発生》
発生。
行為ではない。
意図でもない。
存在が、
結果を生んでいる。
昼の打ち合わせ。
議題は少ない。
結論は早い。
「南条の整理で、
このまま進めましょう」
誰も異を唱えない。
異論がない、というより
考える必要がない。
(止められるな……
でも、止めると
全体が歪む)
止めない理由が、
正しさではなく
摩擦の回避になっている。
机に戻る。
別部署からの問い合わせが来ている。
「前提を共有いただけますか」
前提。
説明すれば、
世界がその形で固まる。
説明しなければ、
進行が止まる。
(……もう、
“説明しない”が
中立じゃない)
アークの表示を見る。
「これ、
どこまで広がる?」
未来ではない。
責任の範囲を
測っている。
一行。
《伝播、開始》
開始。
制御していない。
設計していない。
ただ、
触れた配置が、
次へ移る。
窓の外を見る。
人の流れが、
一度自分の前で
わずかに曲がる。
誰もこちらを見ていない。
合図もない。
それでも、
進路が揃う。
(作用って……
音がしないな)
評価もない。
達成感もない。
ただ、
世界の動きが
一段速くなる。
その速さが、
自分の立ち位置を
前提にしている。
(逃げ場は……
ある)
逃げる理由も、
今はない。
ただ、
何もしなくても、
何かが起きる位置に
立っている。
それだけのことだ。
今日は、
強く動かなかった。
命令もしなかった。
判断もしていない。
それでも、
いくつかの流れが
確実に前へ進んだ。
世界は、
もうこちらの意思を
待っていない。
位置が、
先に作用している。
そしてその作用は、
静かで、
取り消せない。
足元は、
昨日と同じはずなのに。
影だけが、
少し遠くまで
伸びている。
この影が、
どこまで届くのか。
それはまだ、
見えていなかった。
だが、
届いてしまうことだけは、
分かっている。




