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第39話:『選択圧』

選ばなくてもいいはずの場所で、

立ち続けることが難しくなっていく。

最初に変わったのは、

頼まれ方だった。


依頼ではない。

確認でもない。


前提だ。


机に置かれた資料には、

いつもの付箋が貼られている。


「念のため」

「確認用」


だが、その下に

小さく追記がある。


「※南条確認後、進行」


(……後、か)


順序が、

いつの間にか決まっている。


配合表を見る。


数値は安定している。

工程も問題ない。


空白の時間で、

世界は何も語らなかった。


だが、

語らなかった世界は、

待っていたらしい。


後輩が声をかけてくる。


「この件、

 南条さんの見方で

 進めていいですよね」


“見方”。


判断ではない。

決定でもない。


だが、

進行方向を委ねている。


「……少し、

 様子を見たい」


そう答えると、

後輩は一瞬だけ戸惑う。


「様子、ですか」


否定も反論もない。

ただ、

次の言葉が出てこない。


(待つ、

 が成立しなくなってる)


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

以前よりも

はっきりと中心にある。


俯瞰でも、

外側でもない。


判断点。


「これ……

 圧が来てるな」


独り言に近い。


一行。


《選択圧、発生》


発生。


命令ではない。

強制でもない。


環境が、

 選択を要求している。


昼の打ち合わせ。


話題は整理されている。

議論も短い。


「では、

 この方向でよろしいですね」


視線が、

自然に集まる。


返事をしなければ、

会議が終わらない。


(……空白は、

 もう置けない)


「……大枠は、

 その方向で」


言葉を選ぶ。


断定しない。

余地を残す。


それでも、

一つの線が引かれる。


会議は進む。

決定事項が並ぶ。


(今の一言で、

 どれだけ固定された?)


分からない。

だが、

戻れない感覚だけはある。


机に戻ると、

メールが数件届いている。


「先ほどの方向で進めます」

「判断ありがとうございます」


判断した覚えはない。


だが、

判断として受け取られている。


アークの表示を見る。


「これ……

 選ばない、は

 もう選択にならないな」


問いではない。

確認でもない。


受け取りだ。


一行。


《中立、不可》


不可。


どちらかを選ばなくても、

立ち位置は選ばれてしまう。


窓の外を見る。


人の流れが、

一方向に揃っている。


誰かが

号令をかけたわけではない。


ただ、

止まる理由がなくなった。


(圧って……

 こういう形か)


押されている感じはない。

追い立てられてもいない。


ただ、

立っている場所が、

 流れの中になった。


空白は、

逃げ場ではなかった。


次の配置を

受け取るための

準備だった。


そして今、

受け取るかどうかを

問われている。


アークの表示が、

一瞬だけ揺れる。


「次は……」


言葉が止まる。


先が見えないわけではない。

選択肢がないわけでもない。


ただ、

どこに立つかが

問われている。


今日は、

まだ決めない。


だが、

決めないことの重さを

はっきりと感じている。


選択圧は、

背中を押さない。


前に立ち、

道を狭める。


世界は、

静かにその準備を終えていた。


あとは、

こちらが

どこに足を置くかだけだ

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