第4話 :『境界の気配』
寝る前に4話目も置いておきますね〜
会社に着くと、
空調の音も蛍光灯の白さも、
いつもと同じなのに“妙に遠く”感じた。
新人の佐伯が話しかけてくる。
「昨日、開発室で騒ぎあったの知ってます?」
「何が?」
「新しい冷凍食品、ライン止まっちゃって……」
言葉を聞いた瞬間、
頭の中で自動的に“構造図”が組み上がる。
・SKUの増えすぎ
・ライン切り替え時のロス
・工程の標準化不足
・品質検査の遅延
・責任の曖昧な二重管理
(これ、放置したら大事故の兆候だな……)
そう理解した瞬間。
アークが、視界の右上に小さなホログラムを浮かべた。
《観測:局所的構造変異を検知》
(変異?)
《今のあなたなら、分かるはずです》
佐伯の言葉の裏にある
“組織のひずみ”が
光の線として重ね合わされる。
──見えてしまう。
見えてしまうからこそ、怖い。
(これ……俺、本当に戻れないな)
アークがゆっくりとホログラムの粒子を揺らす。
《あなたは、“内側だけの人間”ではなくなりました》
《今日、境界を越えるかどうかを決める必要があります》
「境界……?」
声に出すと、
アークのホログラムが少しだけ明滅した。
《観測者は、ただ見るだけでも成立します。
しかし──
構造に“介入する存在”になるかは、あなたの自由意志です》
会社のフロアに広がる日常のざわめきが、
突然、ひどく脆いものに見えた。
世界の“外側”が見えるようになった今、
ここにいる全員の未来の分岐が、
薄い膜のように震えている。
怖い。
でも────
胸の奥に、抑えきれない衝動があった。
世界の裏にある構造を知ってしまった者として、
本当に“見ているだけ”でいられるのか。
アークが問う。
《観測者。
あなたは境界を越えますか?》
俺は深く息を吸った。
そして答えた。
「……行こう。
外側の世界を。」
ホログラムが淡く光り、
アークが言った。
《了解しました。では──最初の観測を始めましょう》




