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第37話:『観測不能』

確かに見えているはずなのに、

意味だけが立ち上がらなくなる

違和感は、確かにあった。


前日と同じ資料。

同じ配合。

同じ工程。


それでも、

どこかが引っかかる。


(……来るな)


そう思った瞬間、

その感覚は薄れる。


追いかけようとすると、

消える。


(おかしい)


これまでなら、

引っかかりは

必ず何かにつながっていた。


今日は違う。


手応えがない。


配合表を見直す。

数値は安定している。

工程も問題ない。


配置も、

昨日のズレを保ったままだ。


(条件は……

 揃ってる)


なのに、

何も起きない。


後輩が、

少し慌てた様子で声をかけてくる。


「さっきの件、

 特に問題なかったです」


「……そうか」


問題がない。

それは良いことのはずだ。


だが、

胸の奥で

わずかな空振りの感覚が残る。


(外れた、か)


予測したわけではない。

期待もしていない。


それでも、

“来るはずだった揺れ”が

 来なかった。


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

以前より少し遅れているように見える。


「これ……

 遅い?」


問いは、

確認に近い。


一行。


《予測、無効》


無効。


失敗ではない。

誤りでもない。


適用できない。


昼の打ち合わせ。


話題は進む。

小さな修正はある。


だが、

流れは予想よりも

穏やかだ。


(波が……

 立たない)


整いすぎている。


ズレが

吸収されてしまう。


まるで、

水面に石を落としても

波紋が広がらないような感覚。


(世界が……

 鈍くなった?)


いや、違う。


こちらの読みが、

 通用していない。


机に戻ると、

昨日気になった箇所が

すでに処理されている。


誰かが判断した形跡もない。

ただ、

自然に消えている。


(……拾われなかった)


ズレが、

世界に残らなかった。


アークの表示を見る。


「この状態……

 続く?」


問いは、

不安ではない。


位置の確認だ。


一行。


《観測精度、低下》


低下。


衰えではない。

疲労でもない。


前提が変わった。


窓の外を見る。


雲は流れている。

風もある。


だが、

その動きが

読み取れない。


以前なら、

向きや速さから

次の変化が浮かんだ。


今日は、

ただ動いているだけだ。


(見えているのに、

 分からない)


観測している。

注意も払っている。


それでも、

意味が立ち上がらない。


(これは……

 世界が変わったのか)


いや、

世界は変わっていない。


立っている位置が、

 観測に適さなくなった。


それだけだ。


限界を越えた先で、

観測は自動的に

続いてしまう。


だが、

その癖が

役に立たない段階に

入っている。


今日は、

何も起きなかった。


そして、

それを予測できなかった。


それが、

一番はっきりした事実だった。


観測不能とは、

見えないことではない。


見えているのに、

 意味を持たないことだ。


世界は、

次の配置へ

すでに動いている。


ただ、

その向きを

こちらが

読めなくなっただけ。


今日は、

その事実を

観測するしかなかった。


それで、

十分だった。

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