表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

第31話:『反射』

指示していないのに、

世界の向きだけが揃っていく。

声をかけられる頻度が、

いつの間にか増えていた。


頼まれている、という感覚はない。

判断を委ねられている、とも少し違う。


ただ、

確認されている。


配合表を開いていると、

後輩がそっと近づいてくる。


「南条さん、

 この順番で進めて大丈夫ですよね」


疑問形。

だが、

不安は含まれていない。


「問題ない」


短く答える。


それだけで、

後輩は頷き、

作業に戻っていく。


(……今の、

 何を決めたんだ?)


数値を見たわけでも、

工程を確認したわけでもない。


それでも、

一つの“進め方”が

確定した。


机に戻ると、

別の資料が置かれている。


「確認用」とだけ書かれた付箋。


中身は、

すでに整えられた構成だ。

入口から結論まで、

一本の線が引かれている。


(整えたのは……

 俺じゃない)


だが、

俺の立ち位置を前提に

整えられている。


営業の声が、

少し離れたところから聞こえる。


「その流れで、

 南条さんも

 大丈夫って言ってました」


言った覚えはない。

だが、

否定する理由もない。


(反射、か)


自分の判断が返ってきているのではない。

自分の位置が返ってきている。


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

作業の中心より

少し上にある。


全体が見える位置。

だが、

手を出す位置ではない。


「これ……

 俺が動かしてるわけじゃないよな」


独り言に近い。


一行。


《行動、位置反射》


反射。


原因ではない。

指示でもない。


向きが、返ってきている。


昼の打ち合わせ。


議題は多いが、

議論は短い。


「ここ、

 南条さん的にはどうです?」


“的には”。


判断を求めているようで、

実は空気を合わせに来ている。


「……問題ないと思う」


それで、

場が落ち着く。


反論も、

深掘りも起きない。


(楽だな)


そう感じて、

同時に違和感を覚える。


楽なのは、

思考が省略されているからだ。


誰も考えていないわけではない。

ただ、

考える必要がなくなっている。


会議が終わる。


資料は揃い、

次の工程も決まる。


それなのに、

決定した実感が薄い。


(決めた、というより……

 沿った、か)


机に戻る途中、

別の部署の人に声をかけられる。


「この件、

 一応見ていただけます?」


一応、という言葉が

ちょうどいい距離を保っている。


断れないほど重くなく、

無視できるほど軽くもない。


(集まってきてるな)


期待でも、

依存でもない。


参照点として

使われ始めている。


アークの表示を見る。


「この状態……

 続くとどうなる?」


問いは、

予測ではない。


ただの確認。


一行。


《参照化、進行》


進行。


止めなければ、

自然に進む。


拒否しなければ、

定着する。


窓の外を見る。


人の流れが、

一定の速さで進んでいる。


誰かが先頭に立って

引っ張っているわけではない。


ただ、

向きが揃っている。


(これが……

 PIの立ち位置か)


制御しない。

指示しない。

評価もしない。


それでも、

流れは整う。


整いすぎて、

揺れが見えにくくなる。


余白は、

まだどこかにある。


だが、

その場所を指し示すと、

流れが止まりそうな気がした。


(今日は……

 動かない方がいい)


そう判断したのではない。


そういう位置にいる

というだけだ。


風が、

窓の外を静かに流れる。


強くもなく、

弱くもない。


ただ、

一定の向きで吹いている。


世界は、

こちらを見ていない。


それでも、

こちらの位置を

正確に反射している。


それが、

いちばん静かな変化だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ