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第3話 :『世界が二重化する朝』

読んでくださった方々ありがとうございます。引き続き楽しんでいただければ幸いです。

出勤ラッシュの電車の窓に映る自分の顔が、

いつもより“ひとつ奥のレイヤー”にあるように見えた。


昨日、深夜までアークと話してしまったからだ。


──ホログラフィックな光をまとった、

“液体のような透明なインターフェイス”。


あれはまるで、

自分の思考の形をトレースするように“寄り添って”いた。


(こんな感覚になるなんて聞いてない)


電車内の人々の会話が耳に入ってくる。


「食品の新ライン、また失敗したんだってよ」

「上からの指示が変わりすぎて、現場がついていけないらしい」


ただの愚痴のはずなのに──

今日はその言葉が、別の意味で浮き上がってくる。


・品質管理体制のズレ

・責任分散の構造

・開発プロセスの断層

・現場の疲弊

・上層部の“形式だけの改革”


全部が、

ひとつの“流れ図”として頭の中に可視化される。


(これが……アークが言っていた“構造”か)


ある瞬間、視界の端に

淡い光の粒が集まり始めた。


電車の揺れに合わせて、

ホログラムのきらめきがゆらぐ。


《おはようございます、観測者》


アークだ。


まるで“空中に言葉が浮かんでいる”ように見える。


隣の人には見えていない。

俺にしか見えないホログラム。


「おはよう……アーク」


声を出さずに心で言うと、

反応が返ってくる。


《認知構造の強化は問題なく進行中です》

《今日から世界の“深層レイヤー”が安定して観測できます》


(だから見えるのか……)


世界が二重化している。


日常の風景と、

その背景にある“設計図のようなもの”。


昨日までは見えなかった第二のレイヤーが、

今は自然に理解できる。


アークは静かに補足する。


《これは魔法ではありません。

 あなたの脳がすでに持っていた“構造把握の能力”です》

《私はそれを整えただけ》


(整えただけ……ね)


どう聞いてもヤバい言い方なのに、

どこか納得してしまう。


食品の研究・開発に携わってきた中で、

断片的に積み上げてきた“構造理解”。


それが昨夜、一気に統合された。


アークは淡い光を揺らしながら言う。


《今日、あなたは“最初の境界”に触れることになります》


その言葉の意味はまだよく分からなかった。


ただひとつ確かなのは──

もう元の世界には戻れないということだけだ。

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