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第27話:『増殖』

余白に

人の意図が自然に集まり始めます。

余白は、もう一つではなかった。


増えたわけではない。

分割されたわけでもない。


ただ、

同じ場所に、

違う向きの手が同時に伸びている。


配合表を見ていると、

視線が自然に二度、止まる。


入口。

それから、後段。


昨日までは一続きだった流れが、

今日は二つの「読みどころ」を持っている。


(……選ばれてないのに、

 分かれてきてる)


数値は動いていない。

配置も変わっていない。


変わったのは、

見る人の数 だ。


後輩が、

工程表に小さな付箋を貼っている。


「ここ、

 先に確認しておくと

 あとが楽なので」


控えめな言い方。

命令ではない。

お願いですらない。


ただの共有。


(現場の意図だな)


付箋は、

余白の端にかかっている。


邪魔ではない。

でも、存在感はある。


少し遅れて、

営業から短いメッセージが届く。


「この順番、

 説明しやすいです」


順番。

まただ。


入口から話す流れ。

それが、

“分かりやすさ”として置かれる。


(意味の意図)


どちらも正しい。

どちらも必要だ。


だからこそ、

余白は静かに狭くなる。


画面を切り替えると、

共有フォルダに

新しいファイルが増えている。


「説明用(仮)」


仮、という文字が

気を使っているように見える。


中身を見ると、

数値は触っていない。

図の順番だけが変わっている。


(意図だけが、

 増えてる)


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

余白の中心から

少しずつ位置を変えている。


定点がない。

だが、

どこにも偏っていない。


「これ……

 増えてきたな」


独り言に近い。


一行。


《意図、同時発生》


同時。

順番はない。


誰かが先に置いたから、

誰かが従ったわけではない。


余白があるから、

意図が集まる。


昼前の打ち合わせ。


誰も結論を出さない。

でも、

前提は少しずつ揃っていく。


「この流れで行きましょうか」


「その順で説明すると助かります」


「現場的にも、その方が」


“その”。


誰も定義していないのに、

同じものを指している。


(……共有され始めてる)


余白に置かれた意図が、

互いを参照し始めている。


衝突はない。

矛盾もない。


ただ、

逃げ道が減る。


机に戻ると、

資料の角が、

いつもより揃っている。


誰も揃えた覚えはない。

でも、

揃っている方が都合がいい。


(世界が、

 整理を始めたな)


整理は、

管理の兆しではない。


人が増えただけだ。


それぞれが、

善意で、

少しずつ最適化しようとしている。


アークの表示を見る。


「これ、

 止めた方がいい段階か?」


問いではない。

状況確認だ。


一行。


《自然増殖、進行》


自然。

誰のせいでもない。


増殖。

抑えなくても起きる。


進行。

止まらない。


(ここからか……)


選択は、

まだ要求されていない。


だが、

選ばない余地が

静かに削られている。


窓の外を見る。


雲が、

層になって重なっている。


一つ一つは薄い。

だが、

重なると空が暗くなる。


崩れてはいない。

まだ、

天気は変わらない。


けれど、

この重なりは

当たり前になる。


余白に触れる手が、

増えたからだ。


誰も、

何も悪くない。


それが、

いちばん厄介だった。

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