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第26話:『重なり始める』

ひとつだった余白に、

複数の意図が触れ始める。

余白は、まだ余白のままだった。


埋められたわけでも、

狭くなったわけでもない。


ただ、

一つだけだった場所に、

複数の視線が集まり始めている。


配合表を開く。


数値は規定値のまま。

どれも、

いまの配置から

一ミリも動いていない。


それなのに、

目に入る順序が昨日と違う。


入口。

中間。

余韻。


その流れの上に、

別の流れが薄く重なって見える。


(……二通りあるな)


どちらも正しい。

どちらも自然だ。


ただ、

同時には走れない。


画面を切り替えると、

営業用の説明資料が表示される。


文言が一つ、

昨日より前に出ている。


「最初の印象を大切に」


強調されてはいない。

太字でもない。

ただ、位置が少し手前だ。


(入口重視か)


次に、

現場用の工程表を見る。


手順のメモが、

後段に一行だけ追加されている。


「ここで安定させると楽」


こちらも控えめだ。

命令ではない。

改善提案のような顔をしている。


(後段安定……)


余白は一つ。

そこに、

二つの方向が触れている。


どちらもまだ、

余白を壊していない。


ただ、

置かれ始めている。


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

余白の中央から

ほんのわずかに動いている。


定まっていない。

揺れているわけでもない。


(選ばれてない)


それが、

今日の状態だ。


後輩が、

作業報告を持ってくる。


「南条さん、

 このやり方だと

 作業ミス減りそうです」


やり方、という言葉が

具体的なのに曖昧だ。


数値も条件も言わない。

ただ、

“こうした方がいい気がする”

という方向だけが置かれる。


「なるほど」


否定もしない。

肯定もしない。


だが、

聞いたという事実が

余白に一枚、

薄い紙を置く。


少し離れたところで、

営業が電話を切る。


「うん、

 その流れで説明できそう」


誰に向けた言葉かは分からない。

だが、

“流れ”という語が

また一つ、余白に触れる。


(増えてるな……)


意図は、

要求ではなく

期待の形で増える。


誰も「こうしろ」と言っていない。

ただ、

「こうなると助かる」

が積み重なる。


余白はまだ、

余白の顔をしている。


だが、

その内側に

複数の“次”が立っている。


アークの表示を見る。


「これ……

 もう一つじゃないよな」


一行。


《意図、複線》


複線。


衝突ではない。

対立でもない。


同時進行の可能性。


(ここからか……)


どれを選ぶか、

まだ決めていない。


だが、

決めないままでも

世界は進んでしまう。


資料を閉じると、

閉じたはずの順序が

頭の中に残る。


入口から行く流れ。

後段から固める流れ。


どちらも、

余白の内側だ。


窓の外を見る。


雲が、

重なったまま流れている。


ぶつからない。

溶け合わない。


ただ、

同じ空間を共有している。


(このままだと……

 どこかで歪む)


まだ、問題は起きていない。

誰も困っていない。


それが一番、

気になった。


余白は、

広いほど安全に見える。


だが、

複数の意図が同時に置かれたとき、

余白は

競合の場に変わる。


それを、

世界はまだ

静かに隠している。


今日は、

重なり始めただけだ。


だが、

この重なりは

明日には

“当たり前”になる。


そしてその先で、

意図同士は

ぶつかるのではなく、

互いを歪め始める。


まだ、

誰も気づいていない。

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