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第24話:『入り込む意図』

生まれた余白へ、

意図がそっと入り込む。

その提案は、

最初からそこにあったような顔をして、

資料の中に混じっていた。


営業コメントの束の、

三枚目と四枚目の間。

紙質も、印刷の濃さも、

特別な違いはない。


ただ、

一文だけが

余白の位置にきれいに収まっている。


「ここ、

 もう少し“広がり”を持たせられないか」


数値はない。

条件も指定されていない。

責任の所在も曖昧だ。


それなのに、

その一文を目で追った瞬間、

机の上の配置が、

わずかに呼吸した気がした。


(……置かれたな)


拒否されたわけではない。

命令でもない。

判断を迫られている感じもしない。


意図が、

余白を見つけて

そこに腰を下ろした。


そんな印象だった。


配合表に視線を移す。

数値は規定値のまま。

どれも、

いまの配置から

一ミリも動いていない。


保存試験のグラフも同じだ。

安定している。

むしろ、落ち着きすぎている。


(余白があると、

 世界は静かすぎるんだな)


画面を立ち上げる。


グラフは更新されていない。

ログにも変化はない。

それでも、

次に触れる場所だけが

うっすらと浮かび上がって見える。


入口ではない。

出口でもない。


規定値の“内側”。


ホログラムはすでに起動している。


《稼働中》


アークの表示は、

画面の中央ではなく、

余白に最も近い位置にある。


誰かが移動させたわけではない。

配置が、そう要求しているだけだ。


「この一文……」


声に出してみる。


(狙ってない。

 でも、的確だ)


営業が何を考えて書いたのかは分からない。

深い戦略があるようにも見えない。


おそらく、

“そう言いたくなった”

それだけだ。


だが、

余白がある状態では、

その程度の意図でも

世界に引っかかる。


(余白は、

 意図を軽くする)


重たい企画書や、

完璧な設計だったら、

ここには入らなかった。


曖昧で、

半端で、

方向だけを持つからこそ、

余白に滑り込めた。


後輩が、少し距離を保ったまま声をかけてくる。


「南条さん、

 この話、

 今の流れだと自然ですよね」


“今の流れ”。


それは、

数値の流れでも、

工程の流れでもない。


配置の流れ。

余白が生まれ、

そこに意図が置かれる流れ。


「そうだな」


即答だった。


説明しようと思えばできる。

理屈も、理由もある。


けれど、

今それを言葉にすると、

意図が重くなる。


余白に置かれた意図は、

軽いままの方がいい。


アークの表示を見る。


「これ……

 もう、始まってるよな」


確認というより、

観測の共有。


一行だけ。


《意図、介在》


介在。


侵入でも、

主導でも、

操作でもない。


世界と世界の間に、

意図が一枚、

挟まっただけ。


(選んだわけじゃない)


選択ではない。

決断でもない。


余白があって、

そこに置かれた。


それだけで、

次の方向が

静かに決まり始めている。


資料を閉じる。


閉じたはずなのに、

余白と一文だけが

頭の中に残る。


消えない。

だが、

重くもならない。


(これは……

 次の揺れの“種”だな)


規定値は、

意図を拒まなかった。


余白が、

意図を受け取った。


世界は、

それを評価もしないし、

保存もしない。


ただ、

使える状態にした。


机の上のペンを、

無意識に

余白の近くへ寄せる。


書くつもりはない。

今すぐ触れる気もない。


それでも、

そこに“入口ではない入口”が

あることを、

身体が先に覚えている。


窓の外を見る。


雲の膨らみが、

ゆっくりと形を変えている。


崩れない。

流れない。

急がない。


ただ、

内側から

次の形を探している。


世界は、

また一つだけ

息を吸った。


吐くのは、

もう少し先だ。


だが、

そのときに動くのは、

もう決まっている。


意図は、

 すでに余白の中に置かれている。


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