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聖女ルイティーア・シャーリーには野望がある  作者: 奏 舞音


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第1話 聖女見習いの娘

 この世界には、人間が治める地上の他に、魔族が住む魔界、神々が住まう天界が存在する。

 人間は、天界に住まう神より聖なる力を授かり、地上を治める権利を与えられた。

 かつては魔族もともに地上で暮らしていたが、魔族は魔力のない人間が支配する地で、人間の顔色を伺いながら生きるなどできなかった。

 魔族の王はその力で魔のものだけが出入りできる魔界をつくった。

 しかし、魔界には魔族が住めるだけの広い空間はあれど、資源がない。

 だから、時折人間界へ資源調達を目的とした略奪を繰り返す。

 人間は魔物たちの進撃を抑えるため、対魔の武器や術式を開発した。

 しかし、最も効果的だったのは聖なる力だった。

 その力は心が清く美しい娘に宿るとされており、聖女は神聖なる存在として崇められてきた。


「――つまり、この世界を守るために、聖女の力はとても重要なのです」


 聖女見習いの娘たちが、神殿で座学を受けている。

 オレシオン王国の者は、五歳になれば神殿で洗礼を受けるのが決まりとなっていた。

 そして、聖女となる可能性のある力が発現した娘は神殿が引き取り、聖女になるべく教育する。

 聖女に選ばれることは名誉なことであり、聖女を輩出した家門には国から報奨金まで出る。

 もし途中で聖なる力が失われたとしても、次代の聖女を生むかもしれないという可能性から、貴族たちからの求婚が後を絶たない。

 ただの貴族令嬢よりも、聖女見習いであった令嬢の方が、より良い縁談を結ぶことができるのである。

 それは平民出身の聖女見習いについても同じであるが、平民の娘から力が発現することは滅多にない。

 だからこそ、聖女にも血筋が関係しているのではないかと考えられている。

 聖女見習いの娘と婚姻を結び、自分の家門にも聖女輩出の名誉を。

 下位貴族の娘が上位貴族と婚姻を結び、力をつけるために。

 この神殿にいる少女たちは、幼い頃から様々なプレッシャーを背負わされている。


(今日は、一段と青空がきれいだなぁ……)


 真剣な顔つきで座学を受ける少女たちの中で、ただ一人窓の外を眺める者がいた。

 空は青く、美しい。

 魔界にはこんな透き通るような空なんてないのに。

 きれいな青空を瞳いっぱいに映して、眩しいと泣いた彼の顔を思い出す。

 それだけで、胸がきゅっと締め付けられる。

 五歳で一度目の人生の記憶を思い出した時、ルイティーアはひどく取り乱した。

 あの人を止めて。どうか誰も傷つけないで。

 ただあなたに生きていてほしかっただけなのに……!

 訳の分からない言葉を泣き叫ぶ娘の姿に、両親も唖然としていたっけ。

 洗礼を浴びて奇行に走るなんて神殿でも前代未聞だったようで、聖職者たちも戸惑っていた。

 自分でも信じられなかった。

 ルイティーア・シャーリーとしての人生を二度も生きているなんて。

 しかし、これが夢ではないのなら。

 あの時の誓いを神様が聞き届けてくれたのなら。

 もう一度、彼に出会えるかもしれない。いや、絶対に出会えるはずだ。

 そのことに気付いたら、あとはもう彼に出会うための準備を進めるのみだった。

 洗礼の時に取り乱したことで、最初は警戒されていたけれど、一度目と同じように素直に言うことをきいていれば、皆の警戒心も薄れて、神殿での生活にも馴染んでいた。

 もともと暮らしていた場所だし、見知った人ばかりということもあり、不自由なんてものはなかった。

 時折、一度目の人生で見た最悪の光景が夢に出てきてうなされることはあったけれど、ルイティーアにとっては誓いを忘れないために必要なことだった。

 あとは、同じ内容の座学と説教を聞くときに退屈さを感じてしまうことだろうか。

 

「それでは、今日のところはここまでです。皆さん、祈りの時間には遅れないように」


 青空を眺めていたら、いつの間にかシスターの授業が終わっていた。


「ルイティーア」


 名を呼ばれ、ハッと顔を上げると、神殿で七年の付き合いになるエミリーがいた。


「ルイティーアってば、いつも以上にぼけっとしていたけれど、何か悩みでもあるの?」

「ないない。今日はほら、天気がすごく良かったから、ぼ~っとしちゃって」

「本当かなぁ?」


 誤魔化すように笑うと、エミリーはじっとルイティーアの瞳をのぞき込んでくる。


「本当だから! もう、そんなに見ないでよ。照れるでしょ」


 ルイティーアは両手で顔を覆う。

 蜂蜜色の髪と空色の瞳を持つ自分の顔は、記憶にあるものよりずっと幼い。

 それも仕方ないことだ。


「本当に何もないならいいけど、何かあったらこのエミリー様にちゃんと相談するのよ?」

「ふふ、ありがとう。エミリーも何かあったら私に言ってね」


 たとえエミリー相手でも、言えるわけがない。

 この人生は二度目で、一度目は聖女になったけれど、この世界を守るために人柱となって死んだことがあるなんて。

 そのせいで、愛した人が闇に染まって、人間に復讐してその命を終わらせることになるなんて。

 しかし、それはルイティーアの悩みではない。

 だって、この二度目の人生は世界を守るために人柱として死んだ自分に神様が与えてくれたやり直しのチャンスだと思うから。

 自分の命と引き換えに世界を守っても、愛する人のためにはならなかった。

むしろ、最悪の結末を迎えることになった。

 だから、今度は世界のためではなくて、愛する人のためだけに生きたい。


 ルイティーア・シャーリーには野望がある。

 今度こそ、愛する人と幸せになって、天寿をまっとうすることだ。


 そして、この十二歳の夏。

 一度目と同じであれば、ルイティーアは命を賭してでも守りたいと願った愛する人にようやく出会える。

 この時を、ずっと、待っていた。

 青空の下で、また、あの人に会えることを。

 もう一度、恋をする日を。

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