転機
「江藤は将来研究医になるつもりだって言ってたな?」
「はい、教授。」
「今度な、俺の昔教えた生徒が民間の研究所を立ち上げる事になってな」
「そうなんですか!」
「でな、まあ個人の小さな物で主にそいつの論文の為の研究所になると思うから規模も小さいと思う。公的な行政機関でも製薬会社でもないから資金も少ないし難病やら規模の大きな物は研究出来ない。」
「はい。」
「まだお前も学生で医師免許もないから研究医としては働けない。しかし、将来研究医になるなら仕事内容を近くで見る事は勉強になると思う。」
「はい。」
「主に雑用になると思うが、現場の様子の勉強に手伝いに行ってみないか?お前は真面目だし、推薦出来る。そいつも人当たりが良いからお前を任せられる。」
「はい。」
「卒業したらこの大学でそのまま院に進んで残って研究をしても良いし、企業や行政に就職しても良いし。そこで自分がやりたい研究をしてみろ。」
「有難うございます!ぜひ行かせて下さい!」
「そうか!まだそこは申請中で資金援助に駆け回ってるが、目処がついたら真っ先に知らせる。相手にも話しておくが良いか?」
「はい!是非宜しくお願いします!」
「分かりやすくやりがいのある医者に押されて地味な基礎研究医は減って来ている。お前みたいに若い内に志してやる気もある真面目な生徒は是非頑張って欲しい。」
「有難うございます!頑張ります!」
なんだか今までの人生でこんなに期待された事が無かったから物凄く浮き足立っていた。
まだまだ卒業も医師免許も先だが、この先の道が見えて明るい気持ちになっていた。
「と言う話を教授からして頂きまして…」
「そうですか!やはりエトランゼさんは優秀なんですね!そこまで期待されて!凄いです。」
今日はイタリアンのお店に来ていた。
個人でやってる小さなお店だ。
ここは大きな石窯があって、客席からも見える。
そこから焼き立てのピザを出してくれる。
イタリアンなので宅配ピザとかのアメリカンタイプと違って生地は凄く薄い。
大きさもかなり大きい。
生地が薄いので本当にサッと焼いてチーズが溶けたら出す感じだ。
正にファーストフード。
しかし味は宅配なんかとは比べ物にならないのは言うまでもない。
値段もお安いし… 3枚頼んで結局私が殆どペロッと食べてしまった…
まあ生地も薄いしさ。チーズもモッツァレラとか軽いしさ…
相変わらず食い意地が張ってる事は認めますよ…
だって3枚頼んでも6千円しない位なんて…
この間のパンと同じ位ってコスパ良過ぎる。
まあ、自分だと払えないから1枚になるけどさ。結局払って貰ってるけど…
なんだかブウの1鳴きで済ませて申し訳ないかもとか思い始めていた。
しかも食後に炭酸水までご馳走様してくれてる…
相変わらず気の利く男だ。
そりゃ催淫剤とか盛られるわな。
「どんな研究所になるんですか?」
「まだ詳しくは聞いてなくて…串田さんと言う方みたいです。私の師事している教授が昔教えた生徒だったらしいです。」
「へぇー!なら、行く行くはエトランゼさんも研究所立ち上げたいとかあるんですか?」
「うーん、私は個人の論文なんかの為の研究はしないでしょうね。やっぱり当初の目標通り私みたいな思いをする人が世の中から少しでも減って欲しい為に研究して行きたいですから。」
「成る程」
「恐らく私1人の研究では一生かけても世界が変わる様な結果は出ないでしょう。でも、それぞれの人の小さな研究結果の積み重ねでやがて大きな結果に繋がる…その一つになりたいと思っています。」
「やっぱりエトランゼさんは3匹の子ブタだなあ」
ここに来て豚…
まあ自覚はありますよ。
毎回ブウブウ鳴いてますしね。
「さっさと作り上げた藁の家も木の家もオオカミに吹き飛ばされてしまったけれど、レンガの家で三兄弟は力を合わせてオオカミをやっつけた。1人の力では簡単に吹き飛んでしまうけれど、コツコツ頑張ったレンガの家の子豚の家に3匹集まって結局みんなでやっつけた。」
「成る程…分かったような分からないような…」
まあ結局豚なんだろう私は。
「私は3兄弟のどの子でしょうね?」
「エトランゼさんは藁の家の長男!」
「はあ…左様ですか…」
同じ豚なら賢いレンガ豚が良かった…
飛べない豚はただの豚だった…
「だって何か行動が可愛いから!1番上の藁の子みたいに!」
可愛い基準が分からん…
良い意味か悪い意味かも分からん…
「因みにツヨシさんは今何のバイトしてますか?」
「今はね、映画館だよ!」
この繋がりも全く分からん…