捕獲
「こちらの三ツ矢剛さんは三ツ矢グループからの代表として、この度ご挨拶に来て頂きました。まだ学生ながら聡明で今回のプロジェクトの立ち上げにもご賛同頂き支援にも大変ご尽力下さいました。」
「来年には本格的に三ツ矢グループの一員となり益々ご活躍されて行くでしょう。行く行くは三ツ矢グループの顔となり会長の意志を継ぐ経営を期待されております。それではご挨拶をお願い致します。」
そう紹介されて会場は大きな拍手が起きた。
この人苗字津吉じゃなかった…
余りに浮世離れした現実を知りそんな感想を持っていた。
何だか知らない人を見ている気分だった。
「この度は、お忙しい中お集まり下さり誠に有難うございます。三ツ矢グループから代表してご挨拶に参りました三ツ矢剛と申します」
また拍手が起きた。
とりあえず私も一緒に拍手した。
「まだまだ若輩者ですので、色々勉強中の私ですが、この度はこの様な素晴らしい事業に関われて大変誇らしく思っております。」
勉強中…成る程…
あの謎のバイトの数々は恐らく会社に関わる事業の現場の勉強だったのかな?と謎が1つ解明して少しスッキリした気持ちになった。
「今回のプロジェクトは私には未知の世界でしたので、分からない事も多かったですが、そんな私に色々とご教示下さり助けて頂いた恩人がおります。そちらにいらっしゃる江藤ランゼさんです。皆様にもご紹介したいので、此方にどうぞ。」
んん!?私!?
ご教示!?恩人!?
何もした覚えが無いのだが…
よく理解出来ないまま前に引っ張り出されていた。
「此方の江藤ランゼさんは只今、○○大学の医学部で研究医になる為日夜勉強に励んでおります。」
何か知らんが紹介されて拍手されている。
とりあえずお辞儀した。
「そして、卒業したら此方の研究室で研究医として尽力して頂く予定です。」
んん!?今初めて私の就職先を聞いたんだが
「そして、只今婚約中ですが、来年には挙式致します。」
何じゃそりゃ!?
色々初めて聞いたラッシュだがこれが一番ディープインパクトだぞ!?
「今日の料理美味しかったよね!」
ツヨシさんが小声で耳打ちして来た
「…」
「鞠保さんの料理美味しかったよね!」
「…ハイ…」
会場は割れんばかりの拍手が起こった…
「わあい!可愛い!ありがとう!嬉しい!」
いつもの様にツヨシさんは喜んでいた。
○○○○○○○○○○
その後日を改めてマリボでツヨシさんに事情聴取をしていた。
「一体全体…何が何やらで何から聞いたら良いか分からないですが…」
「ん?何か聞く事あるかな?あの会場で全部説明したよ?」
コイツ…
「挙式はどこが良い?どこでも好きな所選んでね!神前とかも良いよね。出雲大社とか縁結びだし。僕も羽織袴とか着てみたい!」
うーん…何か色々…
「とりあえず、結婚式に夢とかはないんでツヨシさんが好きな形で結構です…ではなくて!なんで婚約中になってるんですか!?」
「だってお付き合いしてくれるって了承してくれたじゃない?もう婚前交渉まであるし。問題無いよね!結婚を前提にお付き合いしてるから間違ってないよ?」
あれはいつものやり口に半ば騙された感じも否めないが…
いつ結婚を前提にって言われたか記憶に無いんだが…
「まあ、子供はランゼが卒業してからにしようね!子育ては人に任せられるけど出産となると休学しなきゃいけなくなるもんね。」
それ今気付いたんかいって違う!色々!
「ハイ…ありがとうございます…じゃなくて。私の就職先まで決まってるようですが…」
「だって大好きなランゼのやりたい夢だもの。サポートするのも夫の務めでしょ?就職活動に無駄なエネルギー使うの勿体無いし。」
「成る程…確かにあの研究は魅力あります。面接行ってたかもです…」
もう夫になっている…
「しかし、色々展開が早すぎてまだ理解が追いついてません…やっぱりツヨシさんは性格がせっかちなんですかね?」
あの最初の地獄コーヒーを思い出していた。
「早く手を打っとかないとこの間みたいに他所からチョッカイ出されそうだし不安だったからちょっと急いじゃったけど…ごめんね!」
「?」
「だって他に引き抜かれて僕から離れてそこが気に入っちゃったら嫌だったから、あの串田って人の研究所の資金集め裏から潰しちゃった。えへっ」
こわっ!
笑顔でえへっとか言ってる!
こりゃ逃げると地の果てまで追って来そうだ…
「まあ、ツヨシさんは私なんかにこんなにしてくれて変わった人だって良く分かりました。見事な手腕と言い、中々のオオカミです。」
「僕ね、ブーフーウーのお話好きだって言ったの覚えてる?」
「あー、確か3匹の小豚の後日談でしたっけ?」
「そうそう、あのお話だとね、その後子ブタ達とオオカミは仲良くなるんだよ!?だからランゼと僕は仲良くなったんだね!」
「成る程…」
「因みにあのオオカミはビスケットが好きだけど僕はあんまり好きじゃないからゴメンね!」
謝る箇所が違う…
「あとね、あの物語の最終回はブーフーウーがお姉さんの鞄に仕舞われて終わるの。ランゼも僕の鞄に収まって末長く楽しく幸せに過ごそうね!」
最後のオチまで…
怖っ!!
そう言って私の手をとってオモチャであってくれって位現実離れしたデカいダイヤの指輪を左手薬指にはめた。
「わあ!ピッタリだった。キャンプで寝てる時に測ったけどサイズ変わってなくて良かったー!」
こうして私は捕獲された。