9 正義のヒーローたち
駆けつけたところに、これまた正義感をくすぐる怪人を用意して人質までいたら絶対に倒そうとしてくるはずだ。最初この怪人役を総弦に、と言ったのだが本人が断固拒否をしたので清愁になった。日頃から近所の子供達と遊び、こういうヒーローごっこもやっているので慣れたものだ。
『いくぞ、ケンちゃん! ソウジ!』
『おう!』
『わかった!』
ノリ君が他の三人に声をかけると中嶋がブッと笑った。そのリアクションに総弦が眉をひそめる。
「なんだよ」
「そ、ソウジだって……! お前行って来いよあそこに……!」
くっくっと笑うと総弦の額にビキっと青筋が浮かぶ。
「アンタに本名教えた覚えねえぞ……親父がバラしたのか」
「違う違う。ま、その話はまた今度な」
納得いかない様子の総弦……本名総司を受け流し、中嶋は様子を窺う。三人は息を合わせ再びあの歌を歌いだした。すると次々と念を封じ込めたヒト型が消滅していく。
「あー、アレ全部俺が片付けなきゃいけない事になってたから楽できた」
散っていくヒト型を見ながら総弦が呟いた。一つ一つはたいした力はないので難しくないのだが、何せきちんとした手順を踏んで処理を行わなければいけなかったのでめんどくさいとずるずる後回しにしていた。
結局それが溜まってかなりの数だったのだが、子供達の歌により次々と消えていく。中嶋としてはそんなものを放置するなと言いたいが、こうして消えていっているのでまあいいかと深くは考えないことにする。
「ふはは、やるな! この私のしもべを全て倒すとは!」
大盛り上がりの戦隊ヒーローショーはそろそろフィナーレとなりそうだ。ヒト型は完全に消滅し残るは黒マントの男のみ。
『凄い! このままなら勝てるかも知れないよ! お願い、この怪人をやっつけて!』
捕まっているお姉さんも応援し始め、子供達のボルテージも上がっていく。
『よし、最後は必殺技だ!』
『まずはアレやろうぜアレ!』
三人は大声で作戦会議を始めると、律儀に待ってくれている黒マントへと向く。ただし子供達は影のような姿なので実際男を向いているのかどうかはイマイチわからないが。
『ソウジ、やってやれ!』
『えーっとちょっと待ってね、今読むから……』
何やらゴソゴソと動くソウジ君はどうやらカンペを出しているらしい。見た目が黒子のような影なので確かな事は言えないがポケットを探っているようだ。
死んでもそういう物が残るのか、と一華は疑問ではあるが、考えてみれば幽霊である自分だって制服を着ているのだから、愛着ある物や最後に持っていた物は魂と一緒にくっついてくるらしい。
(今更だけど私全裸じゃなくて良かった……)
そんなどうでもいい事を考えていれば、ようやくカンペを出したらしいソウジ君が何かを唱え始める。どんなものを読むのかと思った一華だったが、その言葉の韻に覚えがあり首を傾げた。
(なんかお経っぽい……?)
その言葉を聞いた清愁の目つきが鋭くなった。同じく、隠れていた総弦もやや驚いた顔をする。
「マントラだぁ!? どこのアホだよガキに教えたのは!」
イラついた様子で数珠を出し、総弦も小声で何かを唱え始めた。中嶋には総弦が唱えているのがマントラなのはわかるが、どんな内容のものを唱えているのかはわからない。
清愁から何度か忠告を受けているが、修行もしていないのにマントラを唱える事はしないようにといわれている。だから調べようとか使おうと思った事はないので今何が起きているのかは中嶋にもわからなかった。総弦があの子供達の効果を打ち消そうとしているのはなんとなく状況からわかるだけだ。
『えっと、これ大丈夫ですか?』
小声で清愁に問えば、清愁も子供達に聞こえないように返す。
「息子が今対抗してるから大丈夫。それにしてもなかなかマニアックなカンペを渡した人もいたもんだ。まあいいか、とりあえず今は……」
一華からさりげなく離れ、一度咳払いをしてから清愁はもがき始める。
「ぐああああ! 馬鹿な、何故お前達がそれを知っているうううう!」
大げさに騒ぐ父の姿に眉間に皺を寄せながら……おそらくイラっとしたのだろう……ひたすら総弦は唱え続ける。どうやら子供達はただメモを読むことしか理解していないようで、抵抗されている事も実際効いていないこともわからないようだ。苦しみだした黒マントを見たノリ君が嬉しそうに言った。