8 子供たちとの対峙
ひーとつ ふーたつ あけよののりと みーっつ よーっつ よふけののりと
ひーとつ ふーたつ よふけのじゅーご みーっつ よーっつ あけよのじゅーご
その日の夕方、再びあの商店街に行くとあの歌声が響き子供の気配を感じた。聞こえてくるのはその二つの歌詞だけで、残りの後半部分は歌っていない。覚え切れなかったのだろうか。いずれにしても中途半端な歌でこれだけの効果があるのだからある意味恐ろしい。
(この歌聴いても一華は特に反応なしか)
中嶋はスタンバイしている一華を見ながら思う。総弦が言った案も一応頭には入れていたのだが、なんとなく何をやっても成仏しなかった一華には効かないのではないかという思いがあって言わなかったのだ。
実際まじないの歌を聴いても一華はケロっとしている。道祖神を破裂させるほどの力ならもしかしたら、という思いはあったのだが。
中嶋が隠れてみている中で作戦が始まった。まず清愁が霊道から外れるぎりぎりの場所で仕掛けを動かす。霊道は彼らの縄張りになりつつあるので、そこで仕掛けても意味がない。なるべく霊道から外れた場所か、できれば完全に外に出てもらいたい。
清愁の仕掛けが動くと同時に歌がピタリと止まった。
(気づいたか、やっぱ。歌繰り返してるうちにここの土地神に近いものになりつつあるんだな。遠くの気配まで感じ取れるようになってる)
中嶋の目論見どおりだ。子供達は聞こえない程度の声でひそひそと相談し、清愁のいる方へと走り出した。幽霊には時間も距離も関係ない。一華とて行きたい場所を思い浮かべるだけで一瞬でその場所に移動できるのだ。それを知らないのか、それとも死んでいる自覚がないのか。
いずれにしても子供の足ならば中嶋なら簡単に追いつく事ができる。子供達はこちらの存在に気づかないので、できるだけ近づいて走ると会話が聞こえてきた。
『ノリ君、なんかヤバイよ。あっちからすごいイヤなかんじがするよ』
『だいじょうぶ、やっつけるから!』
『そうそう、ぜったいかてる!』
声の種類はやはり三人、ノリ君と呼ばれた名前は亡くなった三人の子供達の中に当てはまる名があった。ノリ君とやらが三人の中心人物だった事も先日の調査で判明している。この子達は最近亡くなった子供達でほぼ間違いない。後は顔を確認できれば確定する。
子供達が霊道の端に辿り着くと、そこにいたのは黒い服とマントを着た大男と高校の制服を着たお姉さん。どう見てもお姉さんが黒服の男に捕まっている。
『きゃー、助けてー』
「ははは! この娘はいただいていくぞー!」
その様子をみた三人は何かのファイティングポーズ、というか完全に戦隊ヒーローものの決めポーズのような格好をし、勇ましく叫んだ。
『コイツ悪いやつだ!やっつけるぞ!』
『おー!』
「はははは!お前たちに私が倒せるかな?」
中嶋が隠れている総弦と合流すると、父親の勇士のようなそうじゃないような姿にガックリと頭を下げている。中嶋はニヤニヤ笑いながら総弦を見る。
「ガッカリすんなよ。清愁さんが良い演技するからちゃんと引っかかったじゃねーか」
「……誰が見たいんだよ肉親のあんな姿を」
総弦の顔は完全に引きつっていた。中嶋が立てた作戦がコレだ。名づけるまでも無いが、勇気ある子供達をヒーローごっこで釣り上げよう作戦。
清愁が仕掛けたのはお祓いなどでヒト型に移した怨念や悪いものを開放する事だった。子供達の歌により清らか過ぎるくらいに浄化されたこの地域でそんなものを開放すれば真っ先に気づくはず。