5 「ハルちゃん」
そうなるとあの子供の霊は霊道を通りながら悪いものを追い払う為に歌っていたという事になる。決して悪い事をしているというわけではない。清愁は砕けた道祖神を掴んで眺めながら言った。
「もしこの歌自体が強力な祓いの効果があるとすれば、道祖神が砕けたのはこの歌のせいかもしれないな」
『悪いものを祓うっていうなら同じようなもんだと思いますけど』
首を傾げる一華に中嶋は頬杖をつきながら言った。
「何事も程度ってのがある。豆電球に二百ボルトの電圧流すようなもんだ。昔は子供は七歳までは神の物、なんて言われてたから子供が使うまじないってのは案外強力なのかもな」
『あー、なるほどね』
「お、サト君いいとこ突くね。まさにそうだと思うよ。ついでに霊道で歌っているのも威力を増長させてる可能性もある」
清愁も中嶋の考えに同意し、紙とペンを取り出して今までの推察をまとめる。
「まず確認するべきはその歌を歌っている子供達だね。今回亡くなった三人なら成仏させる必要がある。その三人じゃなくてもその歌はやめさせる必要があるな、必要ない霊まで消してしまうかもしれない。子供達の確認は私の方でしよう、サト君は申し訳ないがこの歌について調べて欲しい。もし可能なら子供達の足取りも追ってくれるか。この辺りは警察も調べてるだろうから大した収穫はないだろうが」
「わかりました。調べてみましょう」
話はまとまった。清愁の目的は道祖神を壊してしまうほどの強力な力の正体を探り対応する事と、子供達の魂を成仏させてやる事だ。あの歌を歌っていた子供の霊が今回の三人なら話は早い。
まず歌を調べる事と、その歌をあの子供達がどうやって知ったのかということだ。ハルちゃん、とやらも突き止める必要がある。少々専門外だが事情が事情なだけにあまり他人に協力を仰げない。
中嶋は携帯で小杉に電話をかけ、町の名前と歌詞を伝えて出来る限りの情報を集めてもらうよう頼んだ。おそらくネットには載っていない、図書館などを当たる必要があるだろう。小杉はこういう調査は割と得意なので適任だ。何故か教授や学者に知人が多く、どの図書館にどういう書物があるという事にも詳しい。
中嶋自身は子供達の行動を最後からさかのぼって調べる事にした。遊んでいた場所、目撃情報などを怪しまれない程度に聞き込み整理していく。
そして数日後、集めた情報を持ち再び清愁の元へと赴いた。そこには清愁と総弦がいた。どうやら総弦もかり出されたようであまり面白くなさそうな顔をしている。
「いやー、まいった」
会うなり開口一番清愁はそう言った。
「何か問題でも?」
「子供達とコンタクト取ろうとしたんだけど、何かに守られてるみたいでこっちの声全然聞こえてないみたいでね。相変わらず歌うたって歩き回ってるよ」
「姿は」
「わからない、影のような見た目だからはっきりした顔が見えないんだ。おまけに触ることもできないし、保護の影響かもね」
それは中嶋も見た。あの時は雨の影響かと思ったが、考えてみれば幽霊に天気も明るさも関係ない。そういう見た目になってしまっているのだ。
「サト君はどう?」
聞かれて中嶋は今まで調べた事を説明する。
まず三人の子供達はいつも三人一緒に遊んでいたが、亡くなる二、三日前にすでにこの歌を歌っていた事を近所の人が聞いている。しかしハルちゃんとやらは結局まだわからない。他の誰かと一緒にいるところを見た人物はいなかった。
「こればかりは勘ですが、おそらく歌を教えたのはハルちゃんとやらでしょうね。あとこの歌ですが、ここよりもう少し南の方に伝わる歌である事がわかりました。昔は病で死ぬ子供が多かったので悪いモノを祓おうと子供達に歌わせる風習があったようです。大正くらいまでは歌われていたそうです」
歌の情報は小杉が調べ上げてくれたものだった。それほど古くなかった為資料が残っていた事と、地方の風習などを研究している教授に話を聞いてくれたおかげでなんとか掴めた。小杉が調べてくれた正確な歌詞をメモ帳から取り出し広げて見せる。
一つ二つ 明け夜の祝詞 三つ四つ 夜更けの祝詞
一つ二つ 夜更けの呪禁 三つ四つ 明け夜の呪禁
東に一つ 此方の祝詞 西に一つ かかさの呪禁
南いくらば 通らば 通れ
北はいぐな かみさんおるで