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4 あの時の歌

 想像して二人は納得した。子供の頃砂鉄を集めようと公園の砂場に直接磁石を突っ込んで大惨事になったことが一度はある。そんな事が起きればどう頑張っても砂鉄を完全に取り除くのは無理だ。

 砂鉄を集めるには磁石が必要だが、強ければいいというものでもないしやり方次第では逆にややこしい事になってしまう。一つの成果を出す為に行った手段が分相応なものでなければ意味がないという典型だ。


「ようやく起きたか寝坊助。もう十時だぞ」


 清愁が言うと総弦はムっとしたように顔を顰めたがそのまま何も言わずにどこかに行ってしまった。その様子に清愁はため息をつく。


「ったく、お客様に挨拶もせんとあの(せがれ)は」

「いいですよ。俺に散々な目に合わされてるから関わりたくないんでしょうね」


 くっくっと笑えば清愁はさほど気にした様子もなく肩をすくめた。


「言うほど散々でもなさ。単に魔除けとかの仕掛け作らせただけなんだろう? そんなの朝飯前だよ。猫が二匹来てから家ではしゃいじゃってまあ。あ、頼みごとは今度から私に言ってくれ。これ以上犬猫が増えるのはちょっとなあ、エサ代もバカにならん。寺って結構生活厳しいんだよ、最近じゃ檀家離れ進むしお布施も少ないし」

「わかりました。いやあ、おちょくるのが楽しいもんで。素直に育ちましたね彼は」

『サトちゃんって総弦さんと知り合いだったの?』

「本人は覚えてないだろうけどな。俺が高校の頃清愁さんと会って何回か家に呼んでもらったことがある。その時少し話した。全然変わらんっつーか、良くも悪くもそのまま成長した感じだな」


 そういえば祖父と父の猿芝居にまんまと騙され泣きながら誓約書を書いたエピソードもあった。根は素直なのだろう。


『その純粋さを踏みにじるような事するから歪んでったんじゃ……』


 一華が突っ込めば清愁も中嶋もあっはっはと気にした様子もなく笑うだけ。なんとなく総弦が不憫になってきた。無論それだけがあの性格を形成したわけではないし、祖父も父も荒んでからの住職なのでいずれは総弦も落ち着く、のかもしれない。


「それで、その子供達が亡くなった町って?」


 清愁に聞くと町の名前を告げ、その名前を聞いた時中嶋はわずかに驚いた表情を浮かべた。


「この間俺が張り込み行った所……あー、ちょっと待て。もしかして……」


 思い出されるのは先日の雨の日の出来事。あの時子供の霊が何人か通りかかっていた。地図を見せてもらいその場所を確認すると間違いない。しかも町に通っている霊道もまさにあの商店街の通りだったのだ。その事を清愁に告げるとふむ、と少し考え込む。


「その子たち何か変わった様子はなかったかな」

「姿ははっきり見えませんでした。あと、何か歌ってましたね」


 子供たちの歌っていた歌を手帳に書くと清愁と一華が覗き込む。


『なんかわらべ歌みたいですね』

「のりと、は祝詞だろうな。じゅうごってのがわからん、数の十五か? いや、その前に一つ二つと順に数えてるから数じゃないか」


 改めて考えると不思議な言葉だ。一華の言うようにわらべ歌のような、昔から伝わる歌のような印象を受ける。なんとなく「とおりゃんせ」を彷彿とさせる曲調だった。


「清愁さん、じゅうごっていう単語何か聞き覚えは? 仏道とかで」

「じゅうご、ねえ。五位七十五法とかならあるけど、ちょっと違う感じだな」

「朝に二つの祝詞、夜に二つの祝詞。朝夕に祝詞を唱えているとなると、続きの歌詞は一体何をしているのか。祝詞と同系列の言葉か何かか。じゅうご、じゅご、しゅご……」


 もしかしたら似たような言葉が当てはまるのかもしれない。しばし三人は考え込んだが、ふと清愁が「あ」と呟く。


「もしかしてそれじゅうご、じゃなくてジュゴンじゃないか?」

「じゅごん……ああ、なるほど。辻褄も合うし、歌で最後に【ん】の発音は邪魔だから省いているのかもしれない」

『じゅごんってやっぱり呪いか何か?』


 一華の頭によぎったのはとある和製ホラー映画だった。じゅ、とつくとイメージするのはどうしても「呪」だ。一華の言葉に中嶋は「いや」と小さく首を振る。


「呪いを禁じると書いて呪禁。字の如く悪いものを祓うってことだ。つまりこの歌は厄除けというか、悪いものを祓うまじないのようなもんか」

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