2 調査協力依頼
数日後、中嶋は総弦の実家の寺に呼ばれて出向いた。呼んだのは総弦の父親で現住職の清愁だ。
「やあサト君、久しぶりだね。今日は呼び出して悪かった」
「いえ、仕事はひと段落ついてますし大丈夫です」
笑顔で出迎えた清愁はいかにも人が良さそうな穏やかな雰囲気の男性だった。堅苦しさはなく社交的な印象だ。
『お邪魔しまーす』
「確か一華ちゃんだったかな? 君もいらっしゃい」
ヒマだからとついてきた一華にも優しく笑いかける。代々霊感を持っている一族なので総弦だけでなく清愁もその父親である総弦の祖父も霊の姿を見ることができるという。
総弦のように幽霊嫌いではなく、一華の事情は聞いているようで邪険に扱うことなく普通に出迎えてくれた。そのまま中嶋達は隣接する住居部分ではなく寺の方へと通される。
「奥さんの仏壇へは?」
清愁の妻はすでに亡くなっており、仏壇は確か住居の方にあったはずだ。来たのだから線香位はあげようと思ったのだが清愁はケラケラと明るく笑う。
「いや、去年の盆アイツが帰ってきた時久々に夫婦喧嘩したんだよ。なんだと思う? 鈴が煩いから来客に線香あげさせるなって半切れでさ、アンタが普段供養してればいいのよ! って怒鳴るから喧嘩になっちゃったよ。だから上げなくて大丈夫」
「なかなか個性的な奥さんですね」
確かに線香を上げると必ず鈴を叩く。寺となると近所づきあいもあるだろうし、檀家との交流もあるだろう。その都度チーンと鳴らされてイラつくというのも珍しいというか聞いた事がない。一華はそんな会話に首を傾げた。
『え? 私そんな音聞いたことない』
「ウチは家内も霊感ある人だったから、お経とか現世の声とかいろいろ聞こえちゃう体質らしくてね。まるでマンションで他の部屋からの騒音に切れる人みたいだよ、まったく。息子は息子で死別してまで何くだらない事で夫婦喧嘩してんだよ! って怒るしさあ。久しぶりに家族全員そろったって言うのになんで穏やかに過ごせないのかねえウチは」
ほほえましい話ではあるが一華は不思議な気分になる。奥さんは死んでいることには間違いないのだが、こうして定期的に会えると死んでいるという事実を忘れそうになりそうだ。
『なんかいいですね、死んだ後もそうやって会えるのって』
「たしかに定期的に会えるけど良いことかどうかはわからないな。どんなに生きている時と同じようでも、彼女は死んでいるという事実は変わらないんだから」
『ふうん? そういうもんですか』
あまり納得はできないが、霊感がある人の苦労というものがあるのだろうと自分に言い聞かせる。何も知らないからこそ単純に羨ましいな、と思っただけなのでなんとなく口にしたのだが。
広い部屋に案内され、清愁がお茶をいれてきてくれた。そして今回中嶋を呼んだ本題に移る。
「今回君を呼んだのは一応依頼って事になるかな。警察にも他の興信所にも頼めない、心霊関係が絡むことでね。あまり巻き込むのもどうかと思ったんだが、少々事情が込み入って急ぐことになった、すまない」
「いえ、構いませんよ。清愁さんがそう言うなら余程の事情でしょうから」
「そう言ってくれると助かるよ。少し長い話になるから聞いてほしい」
そう前置きをし、清愁は語りだした。清愁は最近子供の葬儀を担当した。テレビのニュースにはなっていないが、五歳前後の子供が三人行方不明になった後遺体で発見された。
三人は同じ幼稚園に通う共通の友人同士でよく一緒に遊んでいたらしい。そんな三人がそれぞれの母親に「ハルちゃんと遊んでくる」と言って出かけそのまま行方不明になった。見つかったのは四日後、三人とも特に目立った外傷はなく司法解剖をしても原因はわからず結局死因は「不明」との事。
事故なのか事件なのかはわからないが、同じように亡くなった三人の子供達は合同葬儀が行われ清愁が葬儀を任された。親達は一体子供に何があったのかを知りたいと警察に相談はしているらしいが、はっきりした結果はまだわかっていない。
「一応形式どおりの供養はしたが、どうにも手ごたえがなくてね」
「つまり成仏していないと?」
「ああ、まだどこかに彷徨っているようだ。それと子供達が言っていたハルちゃんとやらも誰なのかわかっていない。ハルという部分だけじゃ男か女かもわからんからな。君に頼みたいのは霊関係を前提にした調査なんだ。物的証拠から探るのではなく、霊視からの調査をしてほしい。霊視はこちらでやるから手がかりを元に子供達に何があったのか調べて欲しいんだ」