16 家族の様子だけでも
「で? アホな事やろうとしたけど結局どうだったんだ」
清愁が問えば、戒縁はあっはっは、と豪快に笑いながら言った。
「無理、なーんもわからん」
「くたばれ」
息子と孫の声が見事にハモる。清愁に至っては聞いた事のないドスのきいた声で一華はビビった程だ。清愁ははあっと大きくため息をつくと小さく首を左右に振る。
「親父も衰えたもんだ」
「失礼なこと言うんじゃないわい、バカタレ」
何事もないような親子の会話だが、戒縁は袖の中から何かを取り出し清愁に投げつける。清秋は体の位置はそのままに首だけを右に避けた。するとドガッと大きな音を立てて、避けた場所に何かが突き刺さる。
「独鈷を投げるんじゃない、まったく誰が一番罰当たりだよ。三つの中じゃこれが一番高いじゃないか」
『いやいや、突っ込むところそこ!?』
「慣れろ一華、これがこの一家の日常だ」
中嶋が冷静に突っ込みをいれ、立ち上がって戒縁に近づく。中嶋を見た戒縁は手を左右に振った。
「あ、お前さんの乳はいい」
「何の心配してるのか知りませんが言われるまでもなくそんな事させるつもりありません。そんなに乳が揉みたいならマザー牧場でも行ってください」
「イラついたらブン殴っていいよサト君」
「殺していいぞ」
清愁親子の肉親と思えない提案に中嶋は首を振る。
「それもいいです。さっきの身のこなしからすると絶対当たらなさそうだし。そうじゃなく、わからないというのはどういうことです。全く何も見えないのですか」
中嶋が問えば先ほどのふざけた空気からわずかにまともな空気に戻る。一華も戒縁を見つめた。
「いや、霊視自体はできたんだが一華ちゃん自身の事はわからん。見えたのは家族の様子だけだな」
『え、家族の様子も見えるんですか』
「言葉で説明するのは難しいんだがな、霊視っつーのは要は魂と魂の繋がりだ。縁があれば血縁者の様子や家、土地なんかは見えるぞ。だからこそ君自身のことがわからんのが不思議なんだ」
こんな事今までなかったんだがなあ、と首を傾げる。一華はしゅんとわずかに落ち込んだ。実は今回結構期待をしていたからだ。成仏できない理由がわかればそれを解決すると成仏できるという、まさに今回のケースと同じで自分も同じようできればと思っていた。目を伏せた一華を見て戒縁は明るく笑う。
「まあそう落ち込まんと。方法はゆっくり探せばいい、こっちで出来る事は協力しよう。家族も前に進み始めてるし、そう悲観しないことだ」
『あ……その、お父さん達って……』
まだ一度も家族を見に行っていないので気にはなっていた。しかしどうしても一歩踏み出すことができなかった。戸惑いながらも聞くと、戒縁は優しく言った。
「お兄さん二人いるだろ。上の兄さんが結婚するぞ。君のことがあって式は先に延ばそうと婚約者から言われてたが、そんな事したら妹に怒られると予定通り式を挙げるそうだ。あと下の兄貴……浪人のやさぐれてた方な、諦めかけてた警察官の試験合格して警察になるべく毎日勉強と筋トレしてる。ご両親も息子達のめでたいニュースにようやく笑顔が戻った。みんな君が天国に逝ったと信じて前を向いて歩き出してるよ。事件の事もビラ配ったり情報提供の呼びかけを続けてる」
『……』
じわり、と目に涙が浮かんだのがわかった。自分で言うのもなんだが、家族からかなり可愛がられていた自覚はあった。末っ子で女の子だった事もあって大切にされた方だと思う。家族の生活は一華中心に回っていたと言っても過言ではない。一華が旅行をしたいと言えば沖縄に行き、一華がボランティアをやってみたいと言えば家族総出でNPOに赴く。次男が警察を目指したのもそういう活動を通してだった。
だからこそ見にいけなかった。もしかしたら、数ヶ月たった今でもまだ立ち直っていないのではないかという思いがあったからだ。そんな状態の家族に声もかけられない、姿を見せることもできない自分に何ができるというのか。
しかし家族は自分がいなくなった今でも、自分の言いそうな事、やりそうな事をちゃんとわかって生きてくれている。それが嬉しかった。




