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15 一華の霊視

 亡くなった妻と今でも会えるのがいいなと言った時、予想外に微妙なリアクションをしたのも今ならなんとなくわかる。一緒にいる時間が長くなればなるほど未練となり、いつまでたっても次の生へいけない。

 霊が成仏して次へ行けない事がどういう事か、僧侶という生業をしている以上いやでも重くのしかかるはずだ。


「ま、それから私も反省してコミュニケーションを取るようにしたんだけどね」

『そのコミュニケーションのとり方が間違っていたんだと思いますけど……』


 この親子のやり取りを思い出し呆れた様子で言うと、おかしいなあと首を傾げる。


「親父と私のやり取りを参考にしただけなんだけどな」

『お祖父さんの……っていうかもう代々の子育て方法が間違ってるんだと思います』


 冷静に突っ込みをいれるとケラケラ笑って後片付けを始める。総弦にとっては受難の始まりだったのかもしれないが、そうした事を経て父親と向き合うことができたのは良かったことだろう。最愛の人との別れはあったが。

 それが本当に良いことなのか悪いことなのかはわからないが、少なくとも今の総弦の様子を見るに悪いことではなかったのだと思う。寝息を立てて熟睡する総弦をちらりと見ながら、一華は小さく微笑んだ。




 それから二日後、遠出をしていた総弦の祖父が戻ってきたと連絡があり一華が呼ばれた。現在住職は清愁が継いでいるが、その父である戒縁(かいえん)もいまだ外回りをしているらしい。八十近い年だというのにバイクを運転して全国を走り回っているそうだ。

 本堂に通された一華は戒縁と向き合う。一緒についてきた中嶋は入り口付近で正座をし、清愁と総弦も壁や柱の近くでそれを見守った。


「さて、話には聞いているがお前さんが一華ちゃんだね。これから霊視をして君の最後の時を探ろう」

『はい』


 人懐っこそうな顔をしているが眼光はどこか鋭い戒縁にやや緊張した様子で一華は返事をする。

 戒縁はじっと一華を見つめ、そのまま距離をつめる。本当に目の前まで寄られて一華はやや背が仰け反った。戒縁の目つきは先ほどよりも険しくなり、無言のままひたすら一華を見つめる。


 何も言葉を発しない方がいいのかと、緊張しながら一華はひたすら戒縁が何かを言うのを待った。

 すると戒縁は右手を広げ、ゆっくりと一華の胸元……心臓だろうか? そこに手を近づけてくる。一体なにが始まるのかと身構えていたが、その手が胸のすぐそこまで来た時。


「おいこらハゲ」

「何してるんだよ」


 総弦がスリッパを、清愁はなんと木魚を戒縁に向けて思いきり投げつけた。


『ええええ!?』


 一華をすり抜け老人に向かっていったスリッパと木魚だったが、二方向から投げられているというのに戒縁はひょいひょいっと器用に二つとも避ける。スリッパは床に叩きつけられただけだったが、木魚は柱に勢いよく激突してそのまま跳ね返って転がっていってしまった。


「親愛なるおじい様に何をするか、この罰当たりども。特に木魚投げたそこの馬鹿、壊れたらどうする」

「何をするかじゃないだろ、まったく」


 飄々とした態度の戒縁と、ため息をついて呆れる清愁。意味がわからず混乱する一華に、後ろから中嶋がぼそっと呟いた。


「霊視にボディタッチなんて必要ないし、単に胸触ろうとしただけなんじゃね」

『……』


 ポカンとする一華は目の前の老人を改めてみる。人懐っこい顔、鋭い眼光……だったがいまや完全にヤニ下がったただのエロジジイがそこにはいた。


「いや、最近乳揉んどらんし。若い女の子と触れ合う機会なんて全然ないし」

「生きた女と触れ合ってろよ」

「この間三十万ぼったくられたからさすがに今はやめとこうかと」

「何やってんだよテメエは!」


 祖父と孫の会話を聞きながら、一華は静かに清愁を見た。


『……あ、ついでにそれも投げてもらっていいですか』


 一華が指をさしたのは本堂の中央にある立派な仏像だった。座った状態でもおそらく四、五メートルはある。


「え、これ? あー、一応これウチで一番大切なものっていうか祀ってるものだからちょっとなあ」


 さすがに困った様子の清愁だったが、そんなバカでかいものを投げることに関してつっこみはないのかと中嶋は思った。清愁ならできなくはない気もするが。

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