悪い奴らは罰せられなければならない4
金儲けを邪魔された会社とメンツをつぶされたドラ息子は、入院していた資産家じいさんが死ぬことをそれはそれは待っていたらしい。ところが資産家じいさんは粘るだけ粘った。あれから意地で長生きをしたらしい。自分が死んだらドラ息子が自分の財産を好き勝手に使いつぶすのは目に見えていたから、死ぬに死ねなかったのだろう。
ただこれはじいさんも悪い。仕事にかまけて家庭を顧みず、結果としてドラ息子を育ててしまったのだ。じいさんは、晩年そのことをとても後悔していたらしい。うちやキジタニの父親にはその心情を吐露していたことを初めて知った。
ドラ息子たちは、田舎者たちが自分の邪魔をしたと逆恨みをしていたらしい。じいさんが死ぬとすぐに、あの因縁の山を使って一旗揚げようとたくらんだそうだ。
現在では太陽光発電所で作った電力を買い取る金額は極端に安くなっている。あの時じいさんの山すべてに発電所を作っていたとしても、どちらにせよ太陽光発電はしりすぼみの憂き目にあったはずだ。実際に全国の太陽光発電所は次々になくなっている。それを阻止したことを感謝されこそすれ、恨むなど筋違いも甚だしい。
ドラ息子たちは、今度はあの山をソーラーパネルの中間保管所にしようとしているらしく、村は現在揉めに揉めているらしい。ソーラーパネルの寿命は20年くらいらしく、太陽光発電所がブームになった2009年のものがそろそろ壊れ始めているそうで、その処分が今後の課題となるようだ。ソーラーパネルにはカドミウムや鉛、ヒ素などの猛毒が含まれているらしく、処分にはかなりの金額がかかるらしい。ドラ息子たちはそこに目を付けたらしい。反対派の先頭に立ったのがキジタニの親父さんだそうだ。
過疎の進んだ村には定期的に産廃業者からそういうたぐいの話が持ちかけられる。人の来ない田舎はどうなってもいいと思われているのだろう。
そしてそういった話が持ち上がったときに、地域住民の意見は真っ二つに別れる。地域に仕事と人を呼び込むには致し方ないという者たちと、自分たちの生活や自然を第一に考える者たちとの間でいさかいが起こるのだ。計画が実施されてもとん挫しても、遺恨の根は残るという仕組みだ。
受け入れで特需を受けるのは事実だが、風評被害に苦しむこともまた事実なのだ。数年前の原発事故を思うと、危険なものを受け入れるというのはなかなか勇気のいることだった。ひとたび風評被害を受ければそれを払拭するには途方もない時間がかかる。
「実はソーラーパネル山ができたときも、これで人が入ってくると歓迎した人たちもいたらしいの。パネルの整備や電力の管理で人を雇うというドラ息子に同調する人は何人かいたらしいの。でもその人たちの家に行って説得をしたのがりょうちゃんとキジタニ君のお父さんたちだったのね。」
ナコの話は、俺の知らないことばかりだった。
「あの当時はちょうど隣の県の土砂崩れで子供がなくなったばかりだったでしょ。それもあって最終的には皆反対意見に回ってくれたんだけど、今回は完全に山を切り開いて土砂崩れも起きないようにするし、産廃から出る被害を最小に抑える細心の対策をとると言っているの。さらに山を切り開く作業を地域業者に回すし、処理場で働く人を近隣地域から募集するって言っているらしくて、賛成派が増えているらしいのよ。」
ナコはため息をつきながらそう言った。
「地域に賛成が増えてるって言っても、働きに来れる範囲の近くの町の奴らだろう?村に住んでる人間はみんな反対しているんじゃないか?」
俺はナコの話に口を挟む。
「そうなの。今回は村に住んでいる人たちに自分の住む家や畑に影響が出るんじゃないかと猛反対し
ているわ。外野のはずの町の人間が賛成しているのよ。」
平成の大合併で、俺たちの村も2007年には近隣の町や市と合併していた。住民投票になれば、山から離れている地域の住民は賛成に回るものも少なくないだろう。しかも大掛かりな産廃処理場ができるとなると、仕事は増えるだろうし、トラックが通れるような大きな道路もできるだろう。いいことばかりだと思う人間が出てきてもおかしくない。
「それでね、キジタニ君のお父さんのことを悪く言う人も増えてきたらしいの。」
「ふざけんなよ。あんなにいい人はいない。」
俺は思わず叫んだ。ナコは力強く頷き、きっぱりと言った。
「私たちは分かってる。けど、村の人じゃない人はそれを知ろうとはしないし、自分に都合のいい状況しか見ない。」
俺は、急いで携帯をとり、キジタニに電話をかけた。
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