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出生の秘密5


俺の発言に、病室が静まり返る。


ナコが突然声をあげた。

「大変。りょうくん、荷物何も持ってないじゃん。」

「そうだ!俺が無理やり連れてきたから、お前の荷物は全部学校だ。すまん、すぐにとってくる。」

 担任は、慌てて腰をあげた。

「私も片付け手伝います!私なら、りょうちゃんの持ち物全部わかるから。りょうちゃん、病院を出ずに待っててね。」

 二人はバタバタと出ていった。


 「いい子だなあ。ナコちゃん。お前にはもったいないな。」

 ふふふと父は笑った。何も言っていないけど、俺たちが付き合っているのはみんなが知っているんだろう。

 「担任の先生もいい人だ。お前は周りに恵まれたな。」

 父は、二人が座っていた椅子を見ながら言った。


 「お前は俺たちの息子だ。」

 父親はきっぱりと言った。


 「ただ、血のつながりがないだけだ。」

 そんなのは大した問題じゃないとでも言いたげに、カラカラ笑って見せた。

 

 急に窓が明るくなった。低くなった夕日が差し込んできて、目が開けられない。

 「きれいな夕焼けだなー。」

 そういって窓に顔を向けた父の表情は見えない。

 「お前は、俺のれっきとした息子だ。それも、俺の自慢の息子だ。」

 目が開けられないのは、まぶしいせいだ。

 

 病室に響くのは、俺の嗚咽だけだった。


 


 「お前、知ってたのか。」

 車の中で、りょうちゃんの先生が尋ねてきた。

 「なんのことですか?」

 私はしらばっくれてみた。

 「病室であいつが親父さんに質問した時、お前は全く驚いていなかった。知ってたんだろう。」

 「先生って馬鹿だって聞いてましたけど、察しのいい馬鹿なんですね。」

 「教師に向かって馬鹿とはなんだ、馬鹿とは。」

 「先生は知ってたんですか?」

 「なんのことだ?」

 先生もとぼけることにしたらしい。

 そのあとは学校に向かうまで、ひたすら黙ったままだった。


 学校につくと、りょうちゃんの荷物はきれいにまとめられて職員室に置かれていた。りょうちゃんの手に何も荷物がないことに気づいたメガネ主任がフォローしてくれていたらしい。

 「君ならきっと何も準備させないと思いましてね。携帯は貴重品ですから、それくらいは持たせてほしいものですが、それも君に求めるのは無理でしょうね。」

 メガネ主任は、辛辣な言葉をりょうちゃんの先生に浴びせかけていた。

 「あ、ちなみにバイト先には私から電話しておきましたよ。携帯がなければモモタ君だって連絡できないでしょうし、君にはそういう気配りはできないでしょうしね。」

 確かに、誰もリカーショップKIJITANIに連絡していなかった。

 

 「とりあえず、一度モモタ君の荷物を届けましょう。そろそろ病院は面会のできない時間になるのでは?遅くなってはまずいでしょう。私もちょうど退勤するので、みんなまとめて病院まで送りますよ。」

 メガネ主任はそう言って、りょうちゃんの先生にも荷物を持ってくるように促した。

 なるほど、この赤い車はメガネ主任の車なのか。確かにあの熊みたいな担任には、この車は似合わないわよね。

 

 熊担任を待つその間、じっくりとメガネ主任の顔を眺めることにした。

 「確かによく見たら、顔の輪郭も鼻筋も口もすごく整っているのね。髪は整髪料たっぷりの七三で、でかい黒縁メガネをしているから気づかなかったけど。」

 立ち居振る舞いもスマートだし、こりゃ、正体を明かしたら大変なことになるか。そんなことを考えながらじろじろ見ていたら、にっこりと笑みを浮かべてこちらの顔を覗き込んできた。

 「なにか?」

 「いえ、なんでもないです。」

 にっこりと笑って、ごまかした。


 私たちが引き返すころには日はとっぷりと落ちていた。面会時間は過ぎており、りょうちゃんは病院の夜間受付のところに座っていた。りょうちゃんが外で待たされていないか心配していたので、中にいさせてもらえてよかった。受験前に風邪をひかせてしまっては大変だ。


 「携帯も財布もないから、戻ってこなかったらどうしようかと思ってたよ。」

 よかった。りょうちゃん、目は赤いけど明るい顔してる。おじさんと何を話したかはわからないけれど、とりあえず落ち込んでなくてよかった。

 

 

 







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