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隙はお好き?4

 組むと決めたからには、彼らが堂々と情報収集できるように、細心の注意を払った。

 幸い秘書としては優秀だと自負しているので、私を怪しむ人は誰もいなかった。


 私はまずは社内に噂を流した。

①「Youtuberなんてうさん臭い奴らを信じてはいけません。」と、副社長が社長に意見をしようとして、ひどく叱責されてしまったこと。

②社長が、彼らを「炎上鎮火の切り札」として丁重に扱っていること。

③彼らの邪魔をしたら社長ににらまれるかも。彼らには丁寧に接したほうがいいということ。

 

 この3つの話を、屋上の隅でするだけだ。電話一つあれば簡単にできること。

 けれど、この仕掛けこそ、彼らを守る最大の布石になるはずだ。

 社長の機嫌を損ねたい人間などいない。彼らに丁寧に接すればいいだけだとわかれば従業員はむしろ安心するだろう。


 今日は工場長、昨日は反副社長派の専務に、おとといは副社長派の次長に。明日は部長あたりがいいわね。


 もちろん、電話はどこにもつながっていない。

 「あ、●●長ですか?」と最初に言うだけでいい。聞いている人間は本当に話していると思い込むだろう。


 屋上は、喫煙者たちがこぞって集まる憩いの場になっている。あの人たちは、見つからないようにこそこそ隠れてタバコを吸っているのだ。

 

 ビル内を全面喫煙禁止にした弊害。しかも体裁が悪いからと、ビル周りの道路まで喫煙禁止になってしまったのがよくなかった。

 喫煙者たちはタバコが吸える場所を必死に探した。

 タバコを吸うことに執念を燃やした彼らは、屋上に目を付けた。

 階段出口の出っ張りの上に登れたら、タバコをすってもばれないのでは?と。

 登ろうと試みたが、高さ2メートル以上の扉がついている出入口なのだ。飛びついて手をひっかけられても、登れるわけはない。両サイドには何もないしとあきらめかけたとき、裏側に、梯子がついていることに気づいた者がいた。その梯子を使えば、楽に上がれる。見つけた人は、その情報を喫煙者仲間に教えた。もともと屋上に来る人はあまりいない。しかも死角側につけられた梯子の存在を知っているものは少なかった。

 それをいいことに、かれらは屋上の上に寝そべってはぷかぷかタバコをふかしていた。

 出口の真上なのだから、誰かがきたときにはすぐわかる。タバコ仲間ならよし。それ以外の人間が来たら、そーっと降りて、ガムを噛んで休憩していたふりをすればよいのだ。


 私が喫煙者の楽園を発見したのは、通行人からかかってきた電話だ。

「おたくのビルの屋上から煙らしいものが見える。ぼやではないか。」と。

屋上にチェックしに行くと、奥から二人、背伸びをしながら不自然に出てきた者がいた。二人とも有名なヘビースモーカーだ。

「お疲れ様です。」

 声をかけると、彼らは、

「タバコ吸えないのがつらくてさ。馬鹿みたいにガムを噛んでたよー。」

 そう言いながら器用にフーセンみたいにガムを膨らませた。

 口がタバコくさい。慌てて噛んだんだろうと心の中で苦笑しながら、何も気づいていないふりをした。


「秘書さんは屋上に何しに来たの?」

 そう尋ねられたので

「社長に理不尽に叱られたので、『社長の頭ははげあたまー』と山に向かって叫びに来たんですよ。」

 真面目な顔でそう返してみた。

 二人組は笑いながら、オフィスに降りていった。

 

 二人が出てきた方に行ってみて、私も梯子を見つけることができた。

 スカートで登るのは少し大変だったが、運動神経は悪い方ではないので、何とか上がれた。


 やっぱり。

 タバコをもみ消した後があった。


 私の夫も娘が生まれるまでタバコを吸っていたから、禁煙の辛さは理解できる。夫には娘というかけがえのない存在がいたから禁煙できたけれど、そうでなければできなかっただろう。

 幸い、この周辺はうちのビルよりも高い建物もないから、そうそう見つかることもないだろう。

 社長が知るまでは放っておいてあげようと思ったのが幸いした。

 

 私の電話を彼らはタバコをもみ消しながら、しっかり聞いていることだろう。

 タバコのことを黙認してあげているのだもの。この話をたくさんの人にしてね。


 その効果もあったのだろうか。

 あくまで社長に案内をさせられた風を装って、彼らを深部に入り込ませた。


 彼らが何ものでもいい。悪魔でもいいの。

 社長にとどめを差せるならそれでいい。私の望みはただ一つだから。


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