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隙はお好き?1

「あちらさん、だいぶ落ち着いてきたみたいだ。本当にこれでよかったのか?」

 俺が尋ねると、モモは深々と頭を下げて言った。

「十分だよ。金ちゃん、よっちゃん。本当にありがとう。」

「よっちゃーん。久しぶりに聞いたな。かわいいあだ名でよかったねー。よっちゃーーーーん。」

 金時は俺が「よっちゃん」と呼ばれると、異常に喜ぶ。


 うちのホストクラブは、オーナーの趣味で武将の名前が付けられる。でかい俺が入店した時、オーナーは大興奮で叫んだ。

「お前は、よしおき!今日からみうらよしおきだ!!」

 三浦義意。後から調べると相模の国の武将で、277センチもある大男らしい。飛び切りでかい奴が入ってきたらつけようとオーナーはわくわくしながら待っていたんだろうな。

 

 まあ、背の高い武将ナンバー1の名を賜るくらいのこの見てくれだから、みんな呼び捨てにしづらかったらしい。

 先輩はメンツもあるからビビりながらも「よしおき」と呼ぶが、ほぼ同期や後から入った奴らからは「よしさん」か「よしおきさん」と呼ばれていた。モモだけが「よっちゃん」と呼ぶ。「よしおき」というのは外国人には発音しにくいらしく、

「ヨ、ヨショオゥキ?」と言われるたびに、モモは「Please call him 、よっちゃん」と言っていた。俺はよっちゃんに落ち着いたらしい。


 ちなみにうちの店のトップである義経さんは、モモから変なあだ名をつけられるのが嫌だったらしく、自ら「Please call me、つね~!」と言いながら、手の甲にキスをして大好評を博していた。その後も「チュネエ」と呼ばれるたびに何度もキスをするので、日本人の譲たちも「つね~~」と呼ぶようになっていたが、俺はモモ以外からよっちゃんとは呼ばれることはなかった。

「なら俺も、オキとかでよかったんじゃないか?」

と言ったがさらりとモモにスルーされてしまった。


 俺の命名はそんな感じだったが、金時の命名はかなり揉めた。

 俺を義意と命名した後、オーナーは俺の横にいた小柄な男に向かって

「お前は金時だ。さかたのきんとき。」

 そう言ってのけた。


「なんだあああ、金時ってえええええ。かき氷の名前なんかつけんじゃねえええええ。ダサすぎだろうがあああ。」

金時と呼ばれた男は小柄の体をぶるぶるふるわせて怒鳴っていた。 


「なにがダサいだあああ!それにかき氷じゃねえええ。かの有名な金太郎のおおお、大人になったときの名前だあああ!」


き、金太郎?金太郎ってあれか?日本昔話の金太郎か?「ぼぉや~♪よい子だねンねしな~♪」の金太郎か?

 周りを見ると、みんな横を向いて肩を震わせている。


「坂田金時という名は、金太郎が殿様から賜った由緒正しき名前だああああ。」

オーナーはさらに続ける。

「しかも頼光四天王の一人だぞおおおおお!!金太郎と呼ばれて山でクマと遊んでいた子供が立派な武将になってこんな立派な名前まで賜ったんだああああ。縁起のいい名前だろうがあああ!!」

「かっこよく言ってんじゃねえええ。要は金太郎だろうがああああ。もう少しましな武将の名前を付けやがれえええ!!」

 初日からオーナーにたてついた男として、金時は俺とは別の意味で注目を浴びていた。

 

 俺たちより1週間早く入店したという真面目そうな奴が、おもむろに怒り狂っている金時に近寄り、話しかけた。

「それでも俺よりはマシだよ。俺なんて桃太郎だよ。武将の名前でも何でもない。」


 何人か「ふがっ」と変な声をだし、必死に口を腕で抑えた。


「お前は何で桃太郎になったんだ?」

 聞かれた男がため息をつきながら答えた。

「俺の本名さ・・・モモタ リョウなんだ。」


 こらえきれずに、みんなが噴出した。


「あ?オーナー、マジでくそだな。適当じゃねえかよ。」

 金時と名付けられた男がつぶやく。

 そして、はっと閃いた様子で叫んだ。


「なあ、お前が桃太郎だから、俺が金太郎になったんじゃね?」

 桃太郎が頷くのを見て、金時の顔はみるみる真っ赤になった。


 きっとオーナーは、次に入ったやつを金時と命名すると決めていたんだろう。俺はたまたまでかいからその命名を免れただけで、この小柄な男は運が悪かったとしか言いようがない。


「くそじじいいいいいいい!!!」

 横にあった花瓶をつかんで叫んだ。

「ぶっ殺してやるううううう!!!!」


 金時と名付けられた男が花瓶を振り上げ、周りの野郎たちが必死で止めようとしているとき、俺は見た。桃太郎と名乗る男は止めもせず静観していた。


「あーこいつも桃太郎って名前気に入ってないんだなあ。」

 とりあえずおれはなにも見てないふりをして、桃太郎くんと同じく静観することにした。

 こいつおとなしそうな顔してるけど、意外と策士だな。これがモモに対する俺の第一印象。



「モモはさー、これからどうすんのー?」

金時がサクランボの種をぷっと吐き捨てた。メロンソーダのせいで、ベロが真緑だ。

「二人が一回目の炎上を鎮めてくれたし、いい映像をたくさん分けてくれたおかげで、次の炎上はすごいことになりそうだよ。」

 モモはにこっりと笑いながら話を続ける。

「人間ってさ、見えた少しの情報だけで、すぐ人を好きになったり嫌いになったりするくせにさ、その人が自分の思い描いていた人物像と違うとなると、裏切られたって大騒ぎするよね。勝手に期待して、勝手に理想を押し付けて、勝手に失望して、自分勝手に攻撃するの。変だよね。」

 オーナーを金時に襲撃させた時と同じ顔で物騒なことを言うんだな。


ああもう、金時と言いモモと言い、なんでつかみどころのない奴ってこんなに怖いんだろうな。だからこそ、こいつらのことが大好きなのだが。


「たぶんね、あの社長は今、少し隙ができたと思うんだ。すごく緊張感を強いられる生活をしてストレスはMAXだ。まだまだ居心地は悪いだろうけど、少し光が見えてきたときってさ、一番危険だよね。だからこそ、落ち着いたタイミングでもう一度仕掛けるんだよ。」

 

 事実、初めの告発でやり玉に挙がった複数の会社は、逮捕者が出たり、業務取り消し処分になったり何らかの法的制裁がくだっていた。完璧な悪人ができたことで、ネットでは捕まった業者の身辺特定に目が向き、そちらを叩くことに必死になっていた。

 その中で、あの社長の会社は、工場搬入時にのみ問題があったという判断に落ち着いた。行政指導は入ったが、そこをすでに改善に向けて動いているというのもプラスに働いている。そしてその動画を作ったのは俺だ。

 

 初めからモモはこの状況を作り出したかったんだということは分かった。


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