炎上鎮火6
2回目の放送は大成功だった。
もちろん、「自業自得だ。」という意見も多かったが、圧倒的にコメント欄は「孫までまきこまれてかわいそう。」「ここは逮捕者が出てないしもういいんじゃない?」「働いている皆さん、一生懸命だから好感が持てる。」というものが多かった。
俺は大満足だった。
こっちを見ながらこそこそ話していた近所のババアどもが、
「お孫さんひどい目にあっていたのね。私も登下校時にそれとなく見張っておくわ。」
だの
「処理場の内部ってあんなにきれいに整備されているのね。排煙にもあんなに配慮しているなんて知らなかったわ。」
だの、いきなりすり寄ってきやがって。ふん、単純な奴らだ。
全くあいつらの言ってた通りだ。ちょっと涙を落とせば、簡単にコロツとだまされる。
「目薬買ってきたからさ~。目の中に入れてうつむいてよー。こっちで泣いてるように見せる編集するからさー。」
金髪男がそんなことを言ったときにはうまくいくか心配だったが、カエルスタンプから水滴が落ちてズボンにしみていく様子は、やらせを知っている俺が見ても泣いているようにしか見えなかった。相変わらずのカエルスタンプは気に入らないが・・・。
敵が味方になるのは痛快だな。しつこく非難している奴らも明らかにトーンダウンしてきたし、わが社は炎上を乗り切ったと思っていいだろう。
・・・処理場内部を公開したのも大きかったな。
サングラス男から取材をしたいから施設を自由に出入りできるようにフリーパスをくれと言われた時は少し慌てたが、思い切ってパスを渡してよかった。
Youtubeなど所詮素人仕事だろうと思っていたが、ナレーションや字幕、音楽までついていて、短編ドキュメンタリー映画と言われてもおかしくない仕上がりだった。また、社員たちへのインタビューは、真面目に働く様子や、安全安心への熱い思いが語られていて、思わず私も胸が熱くなったものだ。
そう、あの施設で働く者は厳選したわが社の一軍社員であり、あの施設に導入されている最新機器は、環境配慮をアピールするには最適なものばかりだ。自信をもって紹介できる、わが社の顔だ。
・・・あの施設、だけはな。
ふっと笑った俺の顔を、能面女が見ていた。
「なんだ?俺の顔になにかついているのか?」
そう聞くと、能面女が無表情で答える。
「いえ、今日はお顔の色がよいなと思っただけです。ここ数日はお顔が険しかったですから。2回目の放送がうまく言ってよかったですね。」
よかったと言いながら、にこりともしない。
「ああ、もう大丈夫だろう。炎上のことはこれでしまいだ。」
そう言ってふと気になることを口にした。
「おい、奴らへの入金はすんでいるんだろうな?」
「はい。今回は動画チェックをした後にすぐ済ませてあります。」
「ちゃんと契約書もとってあるだろうな?」
「もちろんです。今後この件に関して決して口外しないように、また、違反した場合は違約金が発生することも明記してあります。」
「よし。それならいい。これからたかられ続けては困るからな。」
実に気分がいい。あとは堂々としていればいい。自信が説得力になるんだ。
鋭い視線を受けていることに気づかず、有頂天になっていた。