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炎上鎮火5

 「あの社長が土下座するとはね。」

 トイレの個室で笑いをかみ殺す。

 本当にいいところに出くわしたものだ。笑わないように必死だったが、つい肩が震えてしまい、お茶を差し出す手がカタカタ揺れてしまった。

「金髪のほうは私が笑ってたことに気づいたわよね。」

 失敗したと思ったが、彼は外部者だし、それほど影響はないだろう。


「指定された金額を振り込んでおけ。」

 二人組が帰った後、顔を真っ赤にしながら偉そうにそう言ったときの、あの顔!!

 ああおかしい。思い出すだけで笑いがこみあげてくる。声が出ないように必死で口をふさぐ。


 能面女と言われるが、元々私は笑い上戸だ。

「ママはいっつもげらげら笑うね。」

 夫がそういうと、娘もかわいく同調する。

「ママ、げらげら~ちゅるのよ。」

 優しい夫とかわいい盛りの娘。私の宝物。


 スーツの胸ポケットから写真を取り出す。

 二人ともとってもいい笑顔。夫が娘を抱っこし、娘はパパのほっぺににチューをしている。愛娘にチューをされて夫の顔はデレデレだ。私の一番お気に入りの写真。

 もうすぐ会えるわ。ママ、頑張らなきゃ!!

 写真を大事にしまって、気合を入れて個室から出る。


「さ、5割増しの報酬を早く振り込まなきゃ。全く、あの二人は本当にやり手ね。」

 両頬をぱちんと叩いて気持ちをひきしめて、いつもの能面顔で社長室へと戻った。






「おお!入ってる入ってるー。さすが仕事が早いねー。」

 携帯アプリで入金を確認した金時は上機嫌だった。

「2回目の動画はー、『誹謗中傷で苦しんでる孫を思い、言葉を詰まらせるやさしいじいじ』像で決定だねーん。」

 入金画面に熱烈なキスをしながら、金時の頭は次の作戦を練っている。


「次回まで、処理場内の様子を動画にとって来ないとな。」

 本来の目的を忘れないようにと、俺は釘をさした。


「わかってるよーん。」

 画面をいじりながら、金時は弾んだ声で返事をした。


「もしもーし。秘書ちゃん?入金あんがとねー!でさ、ここからが本題ねー。秘書ちゃん、今度俺ちゃんとデートしてちょー。いっぱいお金が入ったからー、おいしいものおごっちゃうよーん♪」

 どこに電話をかけているのかと思えば、あの秘書を口説いているのか。何を考えているのかわからん奴だ。


 とりあえず、インタビューは金時に任すとして、俺は社長からもらった取材パスを使って撮影をしてくるとしよう。

「隅々までな。」

 










 

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