炎上鎮火2
先日のYoutubeの効果か、ただ単に飽きてきただけなのかはわからないが、少し誹謗中傷の電話が減ったらしい。
あいつらはあんなナリだったが、内容自体はしっかりとしていた。
「産業廃棄物を処理するには、いろんな許可がいるんですよね?今回逮捕された別の業者は、国の許可も受けず違法営業をしていたとか。その点、鬼頭クリーンサービスさんはしっかり登録もされているんですね。」
「不法投棄をするあくどい業者さんもいる中で、鬼頭クリーンサービスさんは自社の山をお持ちで、そちらでしっかりと廃棄処理をなさっているんですね!すばらしい。」
「たしか、産業廃棄物を運搬するだけでも国家資格が必要なんですよね。ちゃんと国家資格をお持ちの方を配置しているとか?それだけでなく、資格を取るための費用も会社で負担されていると聞きました。すごい福利厚生ですね。」
なんて金髪男に真面目な顔で言われた時には、驚いたものだ。
事前にどんなことを質問するか質問リストをよこしてきたし、放送前には編集済みのものをチェックしてくれと持ってきたし・・・。意外だったが、少なくとも炎上を鎮めようという意思は感じられた。
一つだけ不満があるとすれば、俺の顔のところに変なカエルの顔をはりつけていたところか。
「モザイクかけたら犯罪者っぽいでしょー?カエルスタンプのほうが親近感あっていいよー。」
とか言っていたが、そういうところは軽薄な金髪男らしかった。
結果的に奴らと手を組んだのは大正解だった。要求されている金額は痛いが、仕方あるまい。最近は娘夫婦だけなく、孫まで肩身の狭い思いをしていると聞いた。うちのかわいい孫に「お前のじいちゃん犯罪者」とほざいたクソガキ共は、後でひどい目にあわせてやろう。
まてよ・・・
「そうだ!誹謗中傷でうちの孫がいじめられているということをネットで訴えれば、さらにうちに同情票がくるんじゃないか? あいつらなら情報操作などわけないだろうしな。高額な出費を吹っかけてきてるんだ、もう一仕事してもらってもいいに決まってる。クソガキどもも、そのクソ親どもも、一気に炎上させてやる!ざまあみろだ!」
俺は急いで秘書を呼んだ。
「社長、お呼びですか?」
「ああ、あの2人組にもう一仕事頼みたい。ここに来るように伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
慇懃無礼にお辞儀をし、すぐに踵を返す。整えられたスーツにきっちり結わえられた髪、そして能面のような顔。笑ったところなど一度も見たことがない不気味な秘書だ。
中途入社してきた奴だが、秘書としては非常に優秀だ。
本当はかわいくて若い秘書をつけたかったが、妻が勝手に選んできてしまった。
「女好きのあの人でも相手にしたくないような女はいる?もちろん仕事ができない人は困るわ。ちゃんとしたブスがいいわ。」
妻が会社でそう言い放ったという話はあとから聞いた。
俺の女癖の悪さを知っている副社長が選んできたのが、あの秘書だ。
「この子?少し歳はいってるけどそこそこきれいじゃない!ブスを選んでっていたでしょ!」
初めは妻も難色を示したらしいが、相手がどんな状況でもにこりともしない堅物であることを見ると、副社長を褒め称えたらしい。
「そうね、社長秘書がブㇲだと会社の沽券にかかわるわね。見た目はそこそこの堅物。ちょうどいいじゃない。もちろん仕事はできるのよね?」
「中途入社組なのですが、なぜうちに来たのかというくらいの経歴です。あ、失礼しました!うちみたいなと言っては失礼でしたね。」
妻の前で失言をしてしまった副社長は、汗をふきふき説明を続けたらしい。、
「あの、奥様。うちがダメだという意味で言ったんじゃないんです。彼女の前職は、誰もが知る大企業でして・・・なぜそこをやめてうちに来たのかと一時期話題になりまして・・・。けっしてうちが劣っているとかそういうわけでは・・・。」
副社長はもみ手をしながら妻に言ったそうだ。
なんだかんだ言っても一応女だ。秘書を何度かモノにしようとしたが、あの堅物は全く隙が無かった。
そのうえ妻への気配りが完ぺきで、妻からの全幅の信頼を勝ちとってしまってからは、なにかと妻をパーティーや出張などに同席させるようになった。部下どもをうまく追い払っても妻を同席させてくるもんだから、全く二人きりになれなかった。
そのうち、にこりともしないその顔が徐々に能面に見えてきて、食指が動かなくなってしまった。
「やっぱり女は愛嬌がないとな。」
絶対に今は行くなとさんざん釘をさされたのでおとなしくしていたが、そろそろ炎上も収まってきたし、もう少ししたら行きつけのクラブに行けるようになるだろう。
ニマニマしている俺の顔を、閉まるドアの隙間からあの女が見ていたことなんて、この時は全く気付いていなかった。




